Robotaxi、San Franciscoでの事故の波紋

 

米国では、カリフォルニア州のSan Francisco、アリゾナ州のPheonixなど、いくつかの都市の一部地域で、運転手のいない、自動運転車によるタクシー(robotaxi)が既に営業をはじめている。そんな中、この10月2日、San Franciscoで大手自動車メーカーGM傘下のCruiseのrobotaxiが事故を起こし、その後、カリフォルニア州はCruiseに与えていたrobotaxiの認可を、10月23日に取り消すという事態になった。そして、これを受け、Cruise社は、他の都市でも運行していたrobotaxiをすべてストップさせる決断をするにいたった。

 

ことの起こりはこうだ。10月2日、San Franciscoでひき逃げ事件が発生した。このひき逃げをした車はrobotaxiではなく、逃走中のひき逃げ犯が起こしたものだが、そのひかれた女性が車に飛ばされて落ちたところが、Cruiseのrobotaxiの目の前だったため、robotaxiは急停車したものの、その女性をひいてしまう結果となった。ここまでなら、robotaxiが女性をひいてしまったのは、不可抗力と言える状況だったかもしれないが、実はそのあとが問題だった。

 

Cruiseのrobotaxiは、道路の真ん中に立ち止まっていては、他の交通の迷惑になると判断し、道路わきにまで車を移動させた。問題は、それを車の下に女性がいることに気付かずに行ったため、女性をさらに6メートル引きずってしまったことだ。さらに問題なのは、この事故の状況を州のDMV(Department of Motor Vehicles)に報告するときに渡したビデオには、Cruiseのrobotaxiが女性をひいてしまったところまでしか映っておらず、そのあと女性を引きずって車が移動した部分については、入っていなかったという。実は、国の組織であるNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)には、最後の部分まで映っていたビデオが渡されていたようで、それを10日後に知ったカリフォルニア州のDMVは、Cruiseに対する信頼を失い、10月23日の認可取り消しという結論になった。理由としては、「Cruiseの車は安全ではなく、Cruiseの安全レベルの説明に虚偽があった」ためとしている。

 

Cruise社は当初、これはごくまれにしか起こらないケースであり、Cruiseのrobotaxiは人が運転しているものより安全とコメントしていたが、10月26日夜には、全米すべてで運転手のいないCruise車両の運行を停止し、信用回復のため、システムの再点検を行うとしている。ただし、非常時のための運転手を乗せての自動運転テストは、継続すると言っており、カリフォルニア州も、これは認めている。CruiseはSan Francisco以外に、アリゾナ州Phoenix、テキサス州Austinで、すでにrobotaxiを運行しており、同じテキサス州のHoustonでは、10月12日に運行を開始したばかりだったが、すべて停止した。Cruiseは昨年売上$102 mil.(約153億円)に対し、$3.3 bil.(約4,950億円)の支出があり、大幅な赤字となっている。また今年も1月から9月までの9ヶ月の赤字が$1.9 bil.(約2,850億円)と、昨年の$1.4 bil.(約2,100億円)よりさらに増えており、GMがこの先、この大きな赤字をかかえながら、どこまでCruiseのビジネスを支えられるか、不安視する向きもある。

 

この事故とカリフォルニア州の対応を見て、そもそも自動運転車は安全なのか、また、交通の障害になっていないのか、という議論も再び起こっている。San Franciscoでは、以前から無人自動運転車は、救急車などの緊急車両やバスなどの都市交通等の妨げになったり、交通渋滞の原因になっていると反対している人たちが、少なからずいた。San Franciscoの消防局では、昨年4月から今年8月までの間に、緊急車両が無人自動運転車に救助活動を妨害されたとして、60件の報告を行っているという。

 

この8月には、San FranciscoでCruiseの無人運転車が消防車と衝突したため、州のDMVはCruiseに対し、その件の調査が終了するまで、運行している車両数を半分にするよう、要請している。無人自動運転のrobotaxiを許可するかどうかの判断は、州で行われ、市の管轄外だが、San Francisco市当局の多くの人たちは、robotaxiは安全や交通に悪影響を及ぼすという点で、まだ十分成熟していないと、以前から述べていた。

 

Cruiseと、別なもう一つのrobotaxiを運行しているAlphabetの子会社Waymoで、どれくらい事故が起こているかというと、カリフォルニア州では、10月16日現在、今年に入って報告されている事故はCruise関連が39件、Waymo関連が46件となっている。ちなみにWaymoは、いまでもSan Franciscoで無人のrobotaxiを運行しており、10月26日にはライドシェアのUberとのパートナーシップで、アリゾナ州PhoenixでUberを利用するとき、ユーザーはWaymoの自動運転車を選択できるというサービスを始めた。自動運転車の安全性については、いろいろ議論があるが、CruiseがMichigan大学とVirginia工科大学と共同で調査したところ、人の運転しているUberなどのライドシェアに比べ、robotaxiのほうが安全という結果が出たと、この9月に発表されている。

 

事故や交通渋滞などの問題以外にも、タクシーの運転手たちが仕事を失う心配のため、robotaxiに反対したり、駐車場の需要が低下するのではないかと心配する向きもある。ただ、これらの声は、おそらく一般市民がrobotaxiを安全かつ便利なものと思えば、市場はそちらのほうに向かうだろう。このあたりは、どちらかというと既得権益を守ろうとして、ライドシェアもまだ許されない日本と、ライドシェアは2010年から始まり、robotaxiについても、すでに各地で営業を始めている米国とでは、感覚の違いがある。

 

今回の事故で、ユーザーもrobotaxiはまだ十分に安全でないという印象を受けた人も多いだろう。ただ、robotaxiには通常のタクシーに比べ、運転手が信用できるか、ちゃんと行先がわかって、そこに最短で向かってくれるかなど心配する必要もなく、チップも必要ないという便利さがある。また、UberやLyftなどのライドシェアを利用する場合、運転経験や運転の仕方に不安を感じるときもあるが、それもrobotaxiでは不要になるというメリットがある。

 

今回の事故と、その後のCruise社の対応の問題、それに対するカリフォルニア州の対応などで、robotaxiの普及が多少スローダウンする可能性はある。しかし、今回のCruiseが起こした事故の経験を生かし、より安全で便利なrobotaxiに進化していけば、タクシー運転手が足りないという状況もある中、この先robotaxiが世の中に広がっていく可能性は、高いだろう。

 

黒田 豊

2023年11月

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