金融危機とIT業界

昨年後半から表面化してきた米国のサブプライム・ローン問題も、その後それほど大きな問題となっていなかったが、ここにきて、9月の米連邦抵当金庫Fannie Maeと米連邦住宅金融抵当金庫Freddie Macの救済、そして1週間後には大手証券会社Lehman Brothersの破綻、大手証券会社Merrill LynchのBank of Americaによる救済買収、さらに10日後の米国史上最大の銀行破綻となるWashington Mutualの破綻とJ.P. Morgan Chaseによる救済買収(後にWells Fargoによる買収に変更)等、ここ1ヶ月あまり、米国金融危機が世界を大きく揺るがしている。

10月はじめには、一度下院で拒否された公的資金投入法案が、上下両院で可決され、これでやれやれと思ったら、10月6-10日は、1週間としては過去最大の株価の下げ幅になり、大変なことになってきた。と思ったら、その翌週はじめの10月13日には1日としての最高の株価上昇を記録、その2日後にはまた過去2番目の下げ幅と、まさにめまぐるしい動きだ。このコラムを書いたあとも、日々状況は変化するだろうから、これを皆様が読むころには、また新たなことが起こっているかもしれない。

さて、このような環境下で、IT業界はどのような状況だろうか? 株価を見ると、株式相場全体が大幅下落した状況で、多かれ少なかれ下がっている。しかし、業績を見ると、いい業績結果も出てきている。例えばIBM。IBMの株も9月末から、10月10日にかけて30%近く下がったが、業績はというと、9月末に終わった第3四半期は、売上が253億ドルで前年同期比5%アップ、利益も28億ドルで、前年同期比20%アップと好業績だ(IBM発表による暫定的な数字)。現在のような経済状況下でも、2008年全体で、かなりの好業績を予想している。

半導体大手のIntelも、9月末に終了した第3四半期は、利益が前年同期比12%アップの20億ドルと好調だ。ただし、第4四半期については、金融危機の状況が、Intelの顧客にどれくらいの影響を及ぼすかを判断するのは難しい、とのコメントを出している。

IBMやIntelは、直接一般消費者にものを売る会社ではなく、企業に対してものを売る会社(いわゆるB-to-B:Business-to-Business)なので、今回の金融危機の影響が出るまでには、多少のタイムラグがあるだろう。もし、米国政府や世界各国の金融危機対策が功を奏し、早めに回復に向えば、それほど大きな影響を受けないで済む可能性も十分ある。

一方、直接一般消費者とビジネスを行っている会社(いわゆるB-to-C:Business-to-Consumer)では、その影響を大きく受ける可能性がある。Appleなどは他の要因もあるが、株価がかなり下がってきているし、インターネット・オークション大手のeBayは、これも他の要因もいろいろあるが、業績改善のために、1,000人規模のリストラを実施しようとしている。両社とも業績は悪くないが、9月の米国小売売上高がここ3年で最大の下落となっていることを考えると、消費者の経済に対する不安から、消費者向けビジネスは、しばらく厳しいと言わざるを得ない。

Googleは、B-to-Cではなく、B-to-B企業で、その収入は、企業からの広告収入だが、中小企業広告主も多いので、金融危機による経済状況悪化の影響を、かなり受ける可能性がある。Googleも、他の要因がいろいろあるが、株価はここ1年で、最高値の半分以下になっている。しかし、業績が多少悪化したとしても、この9月末第3四半期の利益が13.5億ドルという状況で、まだまだ大きな利益を出し続けることだろう。要は、これまでほどの大きな成長は鈍化し、株価もそれなりの水準に落ち着いてくる、ということだ。

一方、ベンチャー企業の状況はどうだろうか? ベンチャー企業が成功し、株式上場するまでには、当然、多くの資金を必要とする。しかし、ベンチャー企業のほとんどは、銀行からの借金に頼っているわけではなく、ベンチャーキャピタル等からの資金に依存している。したがって、銀行の貸し渋り、貸し剥がしなどということが起こっても(実際、不動産や車購入のための個人ローンなどは、すでにかなり厳しい審査になっており、借りにくくなっている)、それが致命的になることはない。

そういう意味では、市場経済が冷え込むことによる企業活動への影響は当然あるものの、金融危機からの直接的な影響は比較的少ない。ただ、ベンチャーキャピタルによっては、その資金調達が滞るようなところも出てくる可能性はあり、予断は許さない。例えば、ベンチャーキャピタルに対して出資する企業等は、将来の出資についてもある程度コミットしているが、そのコミットしていた将来の出資を予定変更して中止する、ということも一部で起こりはじめている模様で、その場合は、そのベンチャーキャピタルがベンチャー企業に出資できる資金も減少し、結果、ベンチャー企業の資本追加計画にも狂いが出てくる可能性がある。

そのため、ある大手ベンチャーキャピタルは、出資先のベンチャー企業に対し、しばらくは厳しい状況になるので、コストをできるだけ絞り、ともかく早期に黒字化するようにと呼びかけている。実際のところ、これは本来ベンチャー企業のとるべき姿であり、決して悪いことではない。以前、私がベンチャー企業で仕事をしていたときなどは、黒字化よりも売上を伸ばすことが優先され、赤字のままでも株式上場してしまおうという空気が、市場全体で強かった。その結果、多くのベンチャー企業が、上場したにもかかわらず市場から撤退する、という事態となったことは、まだ記憶に新しい。

金融危機は、市場経済全体に大きな影響を及ぼすものなので、IT業界も当然その影響をまぬがれないが、中長期的にIT業界がこれからも伸びていくことは間違いない。短期的にも、業績が順調なB-to-B企業は、比較的その影響も少なく、業績悪化があったとしても、比較的小規模になる可能性が高い。株式相場全体が下落し、その影響で下落したこのようなIT企業の株は、今が買いどきかもしれない。

  黒田 豊

(2008年10月)

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