今度は本物か、パソコンとテレビの融合

パソコンとテレビの融合が言われてから久しい。というよりも、「それは昔、言われたけれども、結局パソコンとテレビは融合しなかったね」という風に考える人が多いと思う。実際、テレビを使ってインターネットをやる、パソコンでテレビ番組を見る、という話はほとんど進んでいない。ずっと以前、テレビとインターネットを融合させたインターネット・テレビなるものを発売したテレビメーカーもあったが、残念ながら失敗に終わっている。パソコン系からもMSN TV(旧WebTV)なるものがあるが、あまり成功しているとは言えない。

しかし、ここに来て、再びパソコンとテレビの融合が、にわかに注目されはじめている。インターネットのブロードバンド化の広がりとともに、ここ1年あまり急激に注目されてきたインターネットによるビデオ配信の広まりは、いよいよインターネットと放送の融合をもたらしはじめている。このことは、昨年11月のこのコラムでも書いたとおりである。このときにはインターネットと放送の融合により、放送業界、広告業界が大きく変わり始めていることを中心に書いた。

これに対し、融合してきたインターネットと放送をどのように見るか、つまりリビングルームでテレビで見るのか、パソコンで見るのかが、いよいよ注目されるようになってきた。現時点では、まだインターネットはパソコンで、テレビ放送はテレビで見ているのがほとんどである。しかしながら、テレビ番組、あるいはテレビ番組そのものではなくても、テレビ番組を見るのと同じ感覚で、ビデオ・コンテンツをインターネットを経由してパソコンで見るようになってきている。

ただ、ビデオ・コンテンツを見る場合、それがテレビ番組であろうと、インターネット上のビデオ・コンテンツであろうと、本当はパソコンの小さな画面で見るのではなく、大きなテレビ画面で見たい、というのは、多くの人の本音だろう。私自身もビデオ・コンテンツを見るなら、やはり大きなテレビ画面で見たい。

しかしながら、いまのところテレビはリビングルームに、パソコンは他の部屋(あるいは、テレビから離れたところ)に置いてある場合が多い。したがって、インターネットでビデオ・コンテンツを見るときだけ、パソコンとテレビをつなげる、というのも、結構やっかいな話である。そこで再びインターネット・テレビの登場というわけだ。日本の大手テレビメーカー5社が規格を共通化したネットTVを2007年度に発売すると発表したのは、まさにこの状況を見たテレビメーカーが考え出したことだろう。

一方、米国では、そのようなネットTVの登場を待たず、すでにインターネットからダウンロードされたビデオコンテンツをテレビで見ている人達がいる。たとえば、米国でさかんに利用されているDVRサービスのTiVoを使うと、インターネットからダウンロードしたビデオ・コンテンツも、テレビ番組と同じようにテレビで見ることが出来る。現在TiVoでは、10のコンテンツ・プロバイダーと契約しており、彼らが提供するビデオ・コンテンツは、あたかもテレビのビデオオンデマンドと同じように提供される。ユーザーから見ると、何がテレビ局からきていて、何がインターネットからダウンロードされているのか、わざわざ意識しないとわからない。

また、AT&T(旧SBCと旧AT&Tが合併して出来た新しい会社)では、7月からHoneZoneという新しいサービスを始めたが、これは衛星放送のDish Networksと提携し、通常のテレビ放送はDish Networks経由でテレビに映し、インターネットからのダウンロードはMovielinkと提携し、Movielinkからダウンロードできる1,000の映画がテレビで見れるようにしている。今後さらに13,000余りのビデオ・コンテンツがダウンロード可能なAkinbo Systemsとも提携予定である。このサービスを受けるためには、Dish Networksのアンテナと、HoneZoneレシーバー・ボックスが必要となる。

また、このような外部のサービスを使用しないでも、家庭用無線LANを使ったシステムで、パソコンとテレビの通信をカバーしようという動きも出てきている。これらは、いづれも新しいネットTVなどを使わず、既存のテレビ受像機を使ってインターネットからのビデオ・コンテンツを見ようという、米国の動きだ。

こうしてみると、日本のメーカー5社が開発を進めているネットTVが本当に必要か、疑問にもなってくる。そもそもネットTVが世の中に出てきても、インターネットで今やっていることをすべてこのネットTVでやりたいと思っている人は少ない。たとえば、Eメールやチャットなど、文字情報が中心のものは、テレビのように2-3メートル離れて見るものには向いていない。やはり50-60センチくらいしか離れていないパソコン画面が便利なのである。したがって、パソコンとテレビの融合とは言っても、すべてが融合してしまって、一つになってしまうというわけではない。

ただ、パソコンとテレビが、特にビデオ・コンテンツという分野で融合しはじめた、ということ、そして、それを見るには大きなテレビ画面で見たいと人々は考えている、ということは事実だ。テレビ局も多くの番組(テレビ用と同じものもあれば、インターネット専用のものもあるが)をインターネット経由で流し始めているし、この流れはもう止まらない。テレビ広告もインターネット広告への移行がはじまっている。もうインターネットと放送の融合は規定の事実だ。

しかし、パソコンとテレビの融合は、どのような形をとるか、まだはっきりしていない。Eメールやチャットにパソコンが向いている以上、そのようなことを行うパソコン(あるいはそれに類似したもの)は、今後もインターネット・アクセスに使われる。一方、通常のテレビ番組をテレビで見たいということも変わらないから、通常のテレビ受像機も今後使われる。そして、インターネットから来るビデオ・コンテンツも大きなテレビ画面で見たいという欲求も強い。そんな中で、パソコン用のモニター画面もフラットパネルになり、大型のモニターで見れば、テレビをパソコンで見るのも、それほど苦にならなくなってもきている。

日本のメーカー5社が開発中のネットTVが本当に成功するためには、単にテレビでインターネットのビデオ・コンテンツが見れるというだけでなく、さらに一歩進んだメリットをユーザーに提供できなければ、昔のインターネット・テレビの失敗の二の舞になりかねない。ネットTVが今度こそ成功する素地は十分あるが、インターネットによるビデオ・コンテンツをテレビ画面で見る方法が他にいくつもある以上、成功のための戦いは、まだまだこれからである。

  黒田 豊

(2006年8月)

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