ITオフショア・アウトソーシング

オフショア・アウトソーシング、つまり海外を使ったアウトソーシングが米国で大きな問題となってきている。海外を使ったアウトソーシングは、古くは製造業から始まり、いまや米国で製造業に従事しているのは、労働人口の11%程度と言われている。

しかし、これら製造に関わる労働が海外に移管された結果、米国は、より付加価値の高い、知識社会に移行し、高収入の得られるIT関連等の就業人口が増加した。このIT関連にもオフショア・アウトソーシングの波が数年前から訪れ、ソフトウェア開発などの分野でも、インド等に比較的簡単なレベルの作業を中心に、業務が移管されはじめた。

1月のレポートでも一部述べたように、例えば、IBMは今後数年で、ソフトウェア開発の仕事に携わる4,730人分の仕事を、インド等に移管しようと計画している。その結果、IBMのインドにおけるソフトウェア開発、サービスのための人員は、2005年には10,000人規模になるという。データベース大手のOracleも、インドのソフトウェア、サービス部隊を、近い将来6,000人規模にする予定と言う。

これだけでも大きなことだが、ここに来て、インド等に移管されるソフトウェア開発作業が、簡単なレベルのものだけでなく、より高度なものへと進んでいることが大きな問題となっている。例えば、半導体大手のIntelでは、最新のプロセッサーや無線関連のチップ開発まで、インドの部隊が多くの作業を行っている。

私の住むシリコンバレーでは、先端技術の研究開発が盛んであり、Intelの本社や研究所も、ここシリコンバレーにあるわけだが、米国のIntelでいままで行われていたような、高度なチップ開発の一部までインド等に流れるということになってしまうと、一大事である。つまり、先端技術を開発するようなシリコンバレーの仕事ですら、インド等に行ってしまうのか、という危機感である。

米国もインターネットに関連したバブルの崩壊、しばらくの景気低迷から、ようやく立ち直ってきているが、米国内で問題にされているのは、景気は回復してきているが、雇用がなかなか増えない、英語で言うJobless recoveryだという点である。Jobless recovery全体について話すと、オフショア・アウトソーシングの話だけではないし、IT分野以外にも大きく関わる問題なので、ここではIT関連についてのみお話するが、ITにとって、しかも、シリコンバレーのような、先端技術の研究開発を行っているところでさえ、このオフショア・アウトソーシングの影響を受けているという点が、大きな問題となっている。

何故このようなことになり始めたのか。もちろんインド等に優秀な人材がどんどん育ってきて、かつ、米国などに比べると、はるかに低い年収で同等の仕事をこなすという面が大きいが、それだけではない。

インターネットを中心とした通信の発展により、ソフトウェア開発に遠隔地をつなげたバーチャルな世界が容易に構築できるようになったからである。また、遠隔地にいるソフトウェア開発スタッフ同士が、互いに協力して開発を進めることの出来るコラボレーション・ソフトウェアの発展も大きい。つまり、米国とインドというように地理的に大きく隔たっていても、仕事上は、隣に座ってやっているのと、ほとんど変わらない形で作業が出来るということである。

このことは、シリコンバレーを含め、米国の労働側にとって、大きな問題である。しかし、低コストで多くの高度な技術者を使えるということで、企業にとっては効率が向上し、メリットが大きい。

単に米国でやっていたことが海外に移管されたというだけでは、失業問題等マイナス面も大きいが、先端技術開発の場合は、製造の海外移管とは異なる面がある。製造の場合、米国でも製造し、安価な海外でも製造するというのは、効率がよくないし、第一供給過剰になってしまい、うまくない。しかし、先端技術開発の場合、多くの優秀な労力をかければ、(製造のように、過剰にものを作るのではなく)研究開発を早めることも出来る。これによって企業の競争力も増し、技術発展のスピードも増して、結果として最終消費者が恩恵を受けることになる。

もしこのようなことが起こると、米国での高度技術者の雇用も確保され、企業は先端技術開発の効率化とスピード化をはかることが出来、さらに競争力を増すことになる。ただし、高度技術まで出してしまうと、海外に競争力の高い会社が出現し、米国の本社を脅かすことも十分考えられ、両刃の剣であることは間違いない。

これまではコスト削減のため、製造業のオフショア・アウトソーシングが盛んに行われてきたし、IT分野でも簡単なレベルのソフトウェア開発が海外に移管されてきた。日本もようやくこの波に乗り始め、中国を中心に、製造だけでなく、ソフトウェア開発も一部移管しはじめている。

しかし、米国の現状はそれをさらに進めて、先端技術開発についても、オフショア・アウトソーシングがはじまっている。日本企業も製造や簡単なソフトウェア開発のオフショア・アウトソーシングだけをやっていたのでは、これからのグローバル競争に勝ち抜けなくなってしまう。

米国は英語が通じやすいという点からもインドへのオフショア・アウトソーシングが、このような高度技術については多い。日本の場合は、日本語が通じやすいところというのはないかもしれないが、中国が地理的に近く、漢字という共通部分もあり、今後とも重要なパートナーとなるだろう。今は製造や簡単なソフトウェア開発のアウトソーシングが中心だが、これからは、高度技術開発のパートナーとしての重要性も増してくる可能性が高い。ただし、中国人は商売がうまく、最初はパートナーだったものが、次第に強い競合企業に育つことも十分考えられる。

オフショア・アウトソーシングのプラス面とマイナス面をうまくバランスさせながらの経営が、これからの一つの大きな鍵となる。オフショア・アウトソーシングという両刃の剣でいかにうまく戦っていくか、これから企業はさらなる挑戦を抱えたことになる。

  黒田 豊

(2004年3月)

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