アナリティックスが企業業績の鍵に

新年明けましておめでとうございます。

昨年は年末近く、政治の世界に大きな動きがあり、米国大統領選挙でオバマ氏が再選、日本の衆議院選挙では民主党が大敗し自民党政権へ、それに日本の隣国韓国では初めての女性大統領が誕生し、中国では新しいリーダーへと政権が移行した。日本では、ねじれ国会の状況に変化が出てきたが、米国ではねじれ国会状況は変わらず、先行きは混沌としている。それぞれの国が新しい体制で、どのような新たな動きになるか、注目される。

シリコンバレーIT企業では、Apple、Google、Facebook等は、Facebookが注目された株式上場後、株価を下げ、Appleも最高値から年末には20%以上下がるなど、株価に上がり下がりはあるものの、業績は好調を持続したが、老舗企業のHPは苦戦と、企業の入れ替わりも感じられる。時価総額トップのAppleの動きでは、今後GoogleのAndroid系端末を提供する企業との訴訟合戦がどうなるか、iPhoneやiPadなども、そろそろ斬新さがなくなってきた中、ここ数年うわさになっているiTVが今年は出るのか、それとも、もう今のApple TVの進化に留まるのか、等が注目される。

IT業界全体としては、ここ数年ホットな話題だったスマートフォン、ソーシャル・メディアなどはすでに日常化し、インターネット・ビデオ配信、タブレット、クラウドコンピューティング、ビッグデータなども、hypeの時期(本来の姿より誇張して騒がれる時期)から安定成長期に入ってきた感がある。その中で今年注目したいのは、アナリティックス(分析)の進化による、コンピューター、ITの使われ方の新しい分野への挑戦だ。これを実現するための技術としての、ビッグデータへの高速対応技術なども、次第にそろってきたし(2012年10月のコラム記事「インターネット企業から生まれたビッグデータ対応技術」参照)、分析技術そのものの進歩も見逃せない。

ひとつの例は、IBMのワトソンと名づけられたコンピューター・システムだ。すでに2011年12月のコラム記事「IBMのワトソン、ヘルスケアで実用化へ」で一度書いたので、ご存知の方も多いかもしれないが、2011年春、テレビのクイズ番組Jeopardyで、クイズの王者たちを見事破ったシステムだ。それが、現在はヘルスケアの世界で実際に、いくつかの保険会社や病院等で、病気の判定支援に使われている。

技術的にいえば、最新の医学に関する情報は、大量の文章データだが、このようなこれまでのコンピューターではなかなか取り扱いにくかった非定型データ、自然言語への対応技術の進歩が、大きく貢献している。そして、もちろん、このような情報をもとにして、どんな病気の可能性が、どれくらいあるかを判定する分析技術の進歩が上げられる。

このようなITの進歩に加え、昨年日本の山中教授がノーベル賞をとったiPS細胞の研究成果などを加え、これまではどんな病気だったかもわからないまま死に至っていたようなケースが、どんな病気かわかり、さらには治癒可能になっていくのではないかと、大いに期待される。薬にしても、これからは個人個人の遺伝子情報をもとに、その人にあった薬を処方することにより、薬の効果を上げ、副作用を最小にすることも言われ始めている。まだまだ第一歩を踏み出したに過ぎないが、ヘルスケアの世界は、先進的なIT技術の活用で、これから大きく変わってくるだろう。

ヘルスケア以外では、小売の世界を中心に、顧客情報の詳細な、かつタイムリーな分析が大いに注目されている。顧客情報も、単に誰が何を買ったか、という話だけでなく、TwitterやFacebookなどでどのようなことを言っているか、インターネット上で購買まではいかなくても、何をサーチし、マウスをどのように動かして商品について調べているか、インターネットで配信されるビデオ番組を見るときに、ユーザーが見る広告を選択できる場合、どれが選択されているか、といった情報が活用される。そして、これらの情報に、ユーザーの年齢、性別、住んでいる地域、所得、人種などを関連付けて、いかにタイムリーに分析し、顧客の求めているものを、ほしい時に提供できるかが、商品販売に大きく影響してくる。分析技術が、これからの企業の勝ち負けを、大きく左右してくる世の中になってきた。

また、農業なども、天候、土の状態、肥料や水を与えるタイミング、害虫予防のための作物の健康状態モニター等を駆使し、最も効率よく、作物を成長させるための試みが進んでいる。われわれのように日本や米国に住んでいると、あまり食糧危機というものは実感できないが、世界を見ると、食料に困っている人たちがまだまだ多く、このような情報分析の駆使により、天候的に作物が生育しにくい地域でも、食料が確保できる日が来ることが期待される。

一方、このような分析技術発展そのものだけでなく、ワトソンのような技術を実現するにいたった企業の技術進歩に向けての活動、体制も注目される。IBMの場合、そのひとつはGTO(Global Technology Outlook)と呼ばれるもので、社内、社外の有識者と、将来必要となる技術を予測するものだ。IBMによると、アナリティックスの重要性は、すでに10年以上前からGTOレポートに上がってきており、その頃から研究開発してきたものが、今開花しているといえる。

新しい技術、イノベーションは、やはり一朝一夕には起こりにくく、長年の研究開発の中から生まれてくる場合が多い。今回例に挙げた分析技術に限らず、新しいイノベーションを起こすための企業活動にも、今年は注目していきたい。

  黒田 豊

(2013年1月)

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