スマート・アシスタントの主役を狙う2社

毎年1月はじめに米国ラスベガスで行われるCES。今年も出展社数、来場者数で、以前の記録を破る最大のものとなったようだ。さて、今回はそのCES全体の話ではなく、私が注目した2つのものについて、今月と来月の2回に分けて書いてみたい。1つはタイトルにある、スマート・アシスタントについて。もう一つは自動運転の先にある、スマート・モビリティについてだ。

スマート・アシスタント、あるいはAIアシスタント、ディジタル・アシスタントと言われるものは、いわゆるAIスピーカーと言われてはじまった、Amazonが2014年に発表して、昨年の年末商戦でも大きなヒット商品となったAmazon Echo、また、GoogleのGoogle Homeのようなもので、音声によるいろいろな問いかけに対し、その人の住んでいる場所、嗜好などに合わせて答えてくれるものだ。それがスピーカーのような形をしたものから、あらゆるものに広がってきたものだ。今年のCESでその主役を狙い、この2社が大きな戦いを展開した。

以前のコラム記事でも書いたが、実はこの分野は、AppleがiPhoneなどに搭載しているSiriがその先駆けで、当時からパーソナル・アシスタント、あるいはスマート・アシスタントと言って、私は大いに注目していた。しかし、いつの間にかAppleではなく、AmazonとGoogleの戦いの様相を呈している。ちなみに、MicrosoftもCortanaという名前で、同様のスマート・アシスタントを提供しているが、Apple同様、少なくともCESでは、その陰は薄い。

日本では、AIという言葉のほうが受けがいいのか、AIの戦いという言い方をされているが、AIはスマート・アシスタントを構成するキーとなる技術であることは、もちろんだが、AIはもっと幅広い分野で使われる、いろいろなタイプのAI技術の総称なので、CESで見られたものは、その中のスマート・アシスタントにおける応用が中心に見えたので、今回はこちらの言葉を使っている。実際、米国のメディア等では、AI何々という言い方よりも、Smart何々という言い方を多く見かける。

昨年7月のコラムで、パーソナル・アシスタントのことを書いたとき、Amazon Echoなどを、AIスピーカーと呼ぶのは少々おかしいのではないか、ホーム・スマート・アシスタントというような言い方がいいのではないかと書いたが、実際そのとおりになってきた。AIスピーカーと言われる領域のものでも、スピーカーのような形のものだけでなく、すでに昨年5月にAmazonが発売している、ディスプレイ型のEcho Showのようなものがあり、今回のCESでも、このディスプレイ型のものが、Amazonのスマート・アシスタントであるAlexaを搭載したもの、そしてGoogleのGoogle Assistantを搭載したものが、何社からも発表されており、スピーカー型のものは、ディスプレイ型に取って代わられるだろうというのが、もっぱらの評価だ。これは、画面のないスピーカー型に比べ、何かをAlexaやGoogle Assistantに聞いたとき、ディスプレイで結果を表示できるほうが、はるかにわかりやすく、多くの情報を提供できるからだ。アウトプットの内容や表示の仕方は異なるものの、やっていることは基本的にスピーカー型と同じなので、いずれもスマート・アシスタント、という言葉が適切だろう。

さて、そのスマート・アシスタントがスピーカー型やディスプレイ型の単独機器だけでなく、多くのものに入ってきたのが、今回のCESでの注目だ。どのようなものに入ってきたかというと、まずは車。Googleは、以前からAndroid Autoというものを持っていたが、これまではGoogle Assistantではなく、以前のGoogle Nowという、音声認識機能はあるが、Google Assistantで使える多くのアプリが使えないものだった。それが今度は使えるようになる。そして、自動車メーカーとのパートナーシップにより、自動車の基本機能として、組み込まれるようになってくる。

Amazonも同様で、Alexaを車に組み込むよう、自動車各社とパートナーシップを組んでおり、トヨタは今年の最新モデルに、Alexaを搭載したものを発売すると発表している。これらスマート・アシスタントの車への搭載により、たとえば、交通状況を聞いたり、天気を聞いたり、家のエアコンを操作したり、買い物をするなど、家にあるスマート・アシスタントでできることが、車の中からできるようになる。逆に、家にあるスマート・アシスタントから、車のエンジンをかけることも可能となる。

スマート・アシスタントがどんどん入ってくる、もう一つの分野は家電製品だ。以前から、IoT(Internet of Things)、いわゆる「物のインターネット」が騒がれ出したころから、家電がインターネットに繋がり、いろいろな情報をセンターとやりとりする、スマート家電と言われるものが発表されてきたが、これにスマート・アシスタント機能が加わり、よりユーザーにとって便利なものになってくる。具体的に言うと、エアコンやテレビをはじめ、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、電子レンジ、食器洗い機など、あらゆるものをスマートにしていく。

車と家電以外でも、ロボット、ヘッドフォン、カメラ、プロジェクター、目覚まし時計、水道の蛇口など、ともかくどんなものにもスマート・アシスタントが入り(あるいはスマート・アシスタントで操作可能になり)、あらゆるものがスマートになってくる。多くのセンサーを搭載し、IoTという形でインターネットにつながり、そしてスマート・アシスタントを搭載して、どんどんその利用方法が広がっていく。もちろん、人々がそれを受け入れていくには、時間もかかるだろうし、なかなか広がらないものも出てくるだろう。しかし、そのようなスマート機能を使うかどうかは、ユーザーそれぞれが決めればいいことで、メーカーとしては、そのような機能を提供していかないと、競争に勝てない市場になってきている。

そして、そこに入るスマート・アシスタントがAmazonのものになるのか、Googleのものになるのか、あるいは、今回のCESで目立たなかったAppleやMicrosoftのものになるのかは、これらIT企業にとっても、その将来を大きく左右するものだ。これは、単に自社のソフトウェア/ハードウェアが売れるかどうか、という話ではなく、そこから得られる膨大なユーザー・データが、その先のサービス提供に、大きく影響するからだ。

今回のCESでは、多数のパートナーによる製品で目立ったAmazon、そして、パートナー製品だけでなく、自身の大きなブースを構え、CES会場のあらゆるところに「Hey Google」というGoogle Assistantにかける言葉を広告で出したGoogleの2社が、主役を狙う競争の先頭に立っていることを示した。さて、もともとSiriでパーソナル・アシスタント分野で先行していたApple、そしてパソコン業界を牛耳っていたMicrosoftがCortanaで、パートナーシップ戦略で遅れをとった劣勢を挽回できるか。また、AI分野に力を入れるBaiduなど中国の勢力は、地元市場の大きさを生かして、どう攻めてくるか。日本企業は、この戦いに食い込む余地はあるのか。今後のスマート・アシスタント分野の動きから、目が離せない。

  黒田 豊

(2018年2月)

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