再び注目を浴びる仮想通貨市場

このコラムで仮想通貨について最後に書いたのは、2019年8月、もう1年半以上前のことだ。その1つ前は2018年12月だから、そのころは仮想通貨について、活発に議論されていたと記憶している。実際、そのころはBitcoinなど仮想通貨そのものだけでなく、その存在を実現しているブロックチェーン技術、また、株式上場に代わる資金調達方法として、仮想通貨を使ったICO(Initial Coin Offering)なども話題になっていた。

その後も仮想通貨は生きているが、Bitcoinの価格は2017年末の$17,000近くから下降し、昨年初めには$7,000弱と人気も薄れていた。ブロックチェーン技術については、仮想通貨以外に、データの改ざん防止に役立つなどの理由で、その適用分野は広がっているが、ICOについては、米国証券取引委員会(SEC)が、投資家に詐欺などの注意を呼び掛けてから、すっかり鳴りを潜めてしまっている。

そんな状況だった仮想通貨だが、ここにきて、ふたたび高い注目を浴びている。仮想通貨の種類は既に4,000を超えているが、市場の90%は上位20のもので占められている。中でも一番有名なのは、ずっと以前からあるBitcoinだが、その価格が急上昇している。特に昨年10月ころから大きく価格が上昇し、11月後半には以前の高値である$17,000を超え、12月末で$29,000となった。すでに2020年初めの4倍以上だが、今年に入ってからも価格上昇はとどまらず、4月13日には、これまでの最高値$64,829を出している。昨年初めに比べ9倍以上だ。

Bitcoinの価格がこれだけ上昇した理由はいくつか挙げられる。一つはコロナ禍で、経済を悪化させないように米国連邦準備制度理事会(FRB)が、大量の資金を市場に放出したための金余りがある。株価や不動産価格の上昇に加え、このようなお金がBitcoinを含む仮想通貨にも広がっている。また、これまではBitcoinを買うのは個人投資家が多かったが、最近は証券会社のヘッジファンドなどが、投資目的でBitcoinを購入しており、それによってBitcoinの価格が上昇している。

2月には電気自動車大手のTeslaがBitcoinを$1.5 bil.購入し、将来BitcoinでTeslaの車を購入できるようにすると発表したことも、Bitcoinの信頼性を高め、価格上昇に貢献している。そして、この4月14日に仮想通貨関連企業として初めて、仮想通貨の取引所であるCoinbase Global社が株式上場したことも大きい。上場日より前から、Bitcoinの価格上昇に貢献している。

Coinbaseは、CEOのBrian Armstrongが2012年に設立した会社だが、その目的は、Bitcoinのような仮想通貨の利用を世の中に広め、政府や銀行などに関与されずに資金のやり取りが国際間を含め、出来るようにしたいというものだった。Bitcoinは2008年にWhite Paperが「Satoshi Nakamoto」(日本人の名前だが、実際どんな人またはグループかは不明)の名前で出され、それを実際に実現する会社が出始めたことで、2013年あたりから本格的に世の中で話題になってきた。最初はソフトウェアのプログラマーでないと使えないようなものだったため、それを一般の人にも使えるようにするための仮想通貨取引所が必要と考え、Coinbaseは設立された。創業当時、ベンチャーキャピタルから資金調達するときに、仮想通貨市場は将来1兆ドルになると言って、ベンチャーキャピタリストを驚かせたというが、現在の仮想通貨市場は、すでに2兆ドルを超えている。Bitcoinだけでも市場規模は1兆ドルを、この2月に超えている。

その後、仮想通貨の取引所はいくつも設立されたが、中にはセキュリティが甘く、2014年に発生した、数百億円に及ぶビットコインが喪失したマウントゴックス事件を含め、いくつかの盗難事件が起き、信頼性が重要な要素となっている。その意味で、市場にいち早く参入し、大きな盗難問題なども起こしていないCoinbaseは人気が高く、取引時に取る手数料は他社に比べて高いが、この市場でトップを走っている。

Coinbaseは昨年末ですでに4,300万ユーザーを抱えていたが、株式上場が間近になったこと、またBitcoinの価格急上昇もあり、今年1-3月の3ヶ月で1,300万の新たなユーザーを獲得し、5,600万ユーザーとなっている。この間の売上は$1.8 bil.、利益は$730 – 800 mil.になると予想されている。2020年1年間の売上が$1.14 bil.、利益が$322 mil.だったことを考えると、飛躍的に伸びている。そして、4月14日の株式上場の結果、Coinbaseの時価総額は$85 bil.と大きなものとなった。未上場企業としての正式な評価額(前回の投資ラウンドによる評価)が、2018年に約$8 bil.だったことを考えると、評価額が飛躍的に高くなっている。

このように高騰しているBitcoin価格やCoinbase株価だが、現在の価格が妥当かという点については、専門家の間でも大きく意見が分かれている。そもそもBitcoinはドルなどの特定な通貨と連動していないので、Bitcoinの需要と供給次第で価格は大きく変動する。実際、昨年初めから現在までに、その価格が9倍になっている。ただし、常に上昇するという保証などなく、逆に1/9になる可能性も秘めている。 実際、4月13日の最高値$64,829以降値を下げ、4月25日には$49,059と、わずか12日で24%低下している。その後また持ち直し、4月30日には$57,885と、乱高下は続いている。

このようなことから、本来の仮想通貨の目的である、商品の売買に使ったり、政府や銀行などに関与されずに資金を移動するという使われ方は、ほとんどされていない。要は投資対象の一つとして価格が乱高下している、ということだ。急上昇しているいまはいいが、大きく価格が下がる局面になれば、人々はさっとBitcoinから離れていく可能性も十分ある。ヘッジファンドなど、一部の証券会社はBitcoinを投資対象としてファンドに組み込んでいるが、大手証券会社幹部への調査によれば、84%の会社は、価格の乱高下を嫌い、Bitcoinを投資対象として購入しない、と明言している。

個人投資家としても、このように乱高下するBitcoinを購入すべきかどうか、躊躇するところだ。そのような人には、Bitcoinではなく、取引所のCoinbaseの株を購入するほうが、安全と見える。確かにCoinbaseの株価はBitcoinの価格ほど乱高下しないかもしれないが、売上のほとんどが仮想通貨の取引手数料であることから、仮想通貨の人気が下がり、取引量が減れば、収入も一気に下がる可能性がある。実際、仮想通貨の人気が下がった2019年には、Coinbaseは$31 mil.の赤字を出している。

Coinbaseの4月14日の株式上場はDirect Listing方式を使い、証券会社を介さないで株式上場したが、Nasdaq証券取引所が上場時の参考価格として設定したのは$250。これに対し、上場時は$381で取引が始まり、その後数分で$429.54まで上昇したが、その日の終値は$328.28に落ち着いた。一日の取引だけでも30%以上株価が変動している。これは、初日の特殊事情かもしれないが、Bitcoinなど仮想通貨の動向次第で、Coinbaseの株価も大きく変動する可能性がある。4月30日には$297.64と、上場日から10%近く低下している。今後、低い手数料の他の仮想通貨取引所や、市場参入のうわさされている決済大手のPayPalなどとの競合も待ち構えており、Coinbaseの将来は予断を許さない。

このように価格が妥当か判断の難しいBitcoinなどの仮想通貨や、それを扱う取引所であるCoinbaseへの投資は、投機色が極めて強い。これらに投資する場合には、それを十分承知の上で行う必要がある。このようなハイリスク、ハイリターンの世界に足を踏み入れるかどうかは、個人個人の考え方次第だ。

仮想通貨については、Bitcoinのように、基軸通貨を持たないもの以外に、基軸通貨をベースにしたものを作ろうという動きも静かに進んでいる。2019年8月のコラムに書いたFacebookのLibra(最近名前をDiemに変更)は、まさにそのような仮想通貨で、10ヶ国の通貨を基軸にするという計画だった。しかし米国政府および関連機関から政府の金融政策に混乱をきたす可能性があるということで、現在も検討中の状況で、Diem発行までには至っていない。Facebookのような一般企業ではなく、大手銀行による特定通貨を基軸とした仮想通貨や、国の政府による仮想通貨も検討されており、中国が最初にデジタル人民元をこの4月から運用し始めている。これら特定通貨を基軸としたstable coinの動きを含め、これから数年、仮想通貨の動きに注目する必要がある。

  黒田 豊

(2021年5月)

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