Apple iPhone 5s、5c売り上げ好調、Appleの将来は?

9月10日、Appleの新しいiPhone 5s、5cが発表された。発売開始は9月20日の金曜日だったが、その週末には、900万台が売れたという。これは、これまでにない新記録で、昨年のiPhone 5発売時の500万台の1.8倍になっている。今年は昨年と違い、中国でも同時発売したことにより、数字が大きくなっている面もあるが、その数字を割引いても、昨年の実績をかなり上回ったことは間違いない。ちなみに、2007年に初めて発売されたiPhoneは、100万台を販売するまでに、74日かかっていた。今回の発売は、上位機種のiPhone 5sと下位機種のiPhone 5cの同時発売で、900万台の内訳は不明だが、街のApple Storeなどでは、iPhone 5s、中でも人気のGoldカラーが真っ先に売り切れ、次の出荷は4週間後くらいになりそうとのことだ。ある調査会社の推定では、現段階で米国では、iPhone 5sがiPhone 5cの3.5倍ほど売れているとのことだ。

そして、週明けの9月23日、株価も一気に$23.23(約5%)上昇した。スマートフォン市場では、Android系の製品に押され、メーカーとしてもSamsungの後塵を配していたAppleだが、まだまだiPhone人気が高いことを世の中に証明した。ちなみに、Appleのスマートフォン市場シェアは、1年前の19%から、14%にまで低下している。日本では、NTTドコモが初めてiPhoneの販売に踏み切ったので、その人気は高かったようだ。市場シェアでも、トップを維持しており、ドコモの参入で、さらに差を広げそうな勢いだ。

iPhone 5sの面白い特徴をいくつか見てみると、iPhone 5より2倍に高速化したA7プロセッサー、64ビット対応、指紋認証とそれを使ったTouch ID、高性能化したカメラなどがある。特にカメラはコンパクト・デジタルカメラ・メーカーが脅威と思うほどの機能を装備した。画素数の増加ではなく、一つ一つの画素を構成するセンサーの大きさを大きくし、手振れ補正機能の強化、周りの明かりの状況を分析した上で最適なフラッシュの適用可能なツートーン・フラッシュなどにより、画質をより自然に近づけた。また、1秒間に10枚の連続撮影、スローモーション撮影なども加わっている。

指紋認証を使ったTouch IDは、iPhoneのロック解除だけでなく、iTunesなどを使う場合の認証にも使うことができる。Touch IDに関しては、発表当初から、セキュリティ面での問題点を指摘する声もあり、実際、20日発売の翌日には、CCC(Chaos Computer Club)という団体がハッキングに成功したと発表している。したがって、この機能はセキュリティのレベルが極めて高いとは言い難いが、4桁のパスワードを使うよりは、セキュリティ・レベルが高く、またパスワードを打ち込むよりも簡単に操作できるなどのメリットもあり、これまでパスワードでロックをかけてもいない人が使用者の約半数と言われている中、一般的なレベルでのセキュリティの強化には貢献する、というのが大方の見方だ。また、使われる指紋データは暗号化され、さらにiPhoneのチップ内にのみ保管され、iCloudへのバックアップ時などにも、ネットワーク上に転送されないということで、つい最近米国政府がいろいろな個人情報を集めていることが問題となる中、そのような心配がなく、プライバシー関係者などからは、評判がいい。

10日に同時に発表し、iPhone 5sより2日早くダウンロード可能になった新しいiOS 7は、iPhone 5sの新しい機能を実現するだけでなく、既存iPhone(iPhone 4以降)で使用可能な多くの新しい機能と、新たなユーザー・インターフェースに衣替えした。久しぶりの大きな変化ということで、概ね評判はいい。最初の週末が終わった段階で、少なくとも2億回ダウンロードされているとのことで、iOSを使う製品の2/3以上が、すでにiOS 7にアップグレードした模様だ。

200以上の新しい機能が含まれているが、そのいくつかを紹介すると、操作性を簡単にしたプルアップのコマンドセンターやプルダウンのサーチ、進化したSiri、写真の簡単な整理機能、写真などの他ユーザーとのシェア機能強化(特に近くにいる人とのシェアに、新たなAirDrop機能を追加)、iTunes Radio(自分で選べるラジオ局)などがある。iTunes Radioはすでに1100万人が使っているとのことだ。また、一般ユーザーには、ちょっとわかりにくいが、会社でiPhoneを使う場合に、IT部門による管理がしやすくなるようなセキュリティやマネジメントに関連した機能も含まれており、これによって企業でのiPhone利用が広がるとの見方もある。ただ、使い勝手や色使いなどが以前と多少異なるため、それに慣れないための問題や、人の好みによっては、不満も出ているようだ。

このように、iPhone 5s、5cの出だしは好調だが、9月10日の発表にまでさかのぼると、その発表に対する評判は、必ずしもばら色ではなかった。むしろ評判がよくなかった、というほうが正しい。したがって、最初の週末に記録破りな売れ方をしたのに驚いたアナリストたちも多かった。10日の発表時点で評価が高くなかったのは、発表内容が、大体すでに予想されていたものばかりで、特別めずらしいものがなかったからだ。

ある記事では今回の発表を、「『特別』のない特別イベント(Apple’s special event, minus the special)」などと評したほどだ。さらに、5sのsが小文字だったことから(iPhone 4Sのときは大文字のS)、大文字小文字の違いをつけた、小さな進歩などとも書かれていた。実際、発表直後の9月10日には、Appleの株価が$11.53(2.28%)下がり、さらにその翌日11日には$26.93(5.44%)下がっている。ちなみに昨年のiPhone 5の発表では、「退屈(boring)」などとも書かれていた。

9月10日の発表時点で、市場の評価が低かったのには、さらにもう2つの理由がある。ひとつはiPhone 5cの価格が予想より高く、これでは低価格の競合製品に勝てない、特に大きな市場となってきている中国で大きなビジネスにならない、という評価だ。これに対し、Appleは、もともと自分たちの戦っている市場とは別な市場である低価格市場(Apple CEOのCookの言葉で言えばジャンク市場)では戦うつもりはない、と答えている。

もうひとつの理由は、今回の発表がiPhoneだけだったことだ。iPod、iPhone、iPadと来て、その次がなかなか出てこないことへの市場の苛立ちだ。スマートテレビのiTV、スマートウォッチのiWatchなどといううわさが以前から飛び交う中、そのような製品がまだ出てこないことへの不満だ。これらの市場では逆に、Samsungなどの競合メーカーが先に製品を出しており、新しい市場を先頭を切ってリードするというAppleのブランドイメージの低下につながりかねないからだ。私も10日の発表を見たときは、まったく同じように感じた。

しかし、最初の週末の販売は極めて好調。Appleは、そして市場は、まだまだiPhoneの健在ぶりを示した。また、製品台数の市場シェアでは、Androidがスマートフォン市場の80%、タブレット市場の2/3近くを持って圧倒しているが、モバイルコマースでは、iOSが57%とAndriodより多く使われており、タブレットでは、iPadがオンライン・ショッピング・トラフィックの88%を占めている。Cook CEOは、Appleは市場の台数シェアではなく、多くの人に使ってもらい、生活を豊かにしたい、と述べている。

また、Androidはハードウェアメーカー、通信サービス会社によって変更が多く加えられているため、一枚岩ではないことも確かだ。パソコン市場でのMicrosoftのWindowsが高い市場シェアを持っていたのと、状況は確かに異なる。Androidユーザーでは、最新のものを使っていない場合が多いことも事実だ。

さて、これからのAppleという問題を考えると、イノベーティブな新しい製品を出す会社というイメージの低下は否めず、Appleの将来に不安を感じざるを得ないことは間違いない。しかし、今回のiPhone 5s、5cの好調な売れ行きを見ると、市場でのApple人気はまだまだ高く、もうしばらくはAppleの好業績は続きそうだ。この人気が続いているうちにAppleがイノベーティブな新製品を出せるか、もう時間はなくなりつつある。

  黒田 豊

(2013年10月)

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