インターネット・エコノミー

新年明けましておめでとうございます。

さて、ここ数年情報産業界で話題をにぎわし、また社会的な大きな影響も懸念されていたコンピューターの2000年問題も、どうやら大きな混乱もなく、無事過ぎようとしている。大企業では数百億円にもおよぶ費用をかけて、この2000年問題にここ数年かけて対応を図っていたわけだが、それが無事実ったのは喜ばしいことである。特に半導体チップに埋めこまれているプログラムについては、その問題発見が難しく、また、電気、ガス、水道、通信といった生活関連分野に影響するものなので、大いに心配されたが、この分野でも特に問題が生じなかったのは何よりである。日本はニュージーランド、オーストラリアに続いて早いうちに2000年を迎える国であったので、心配もことさらであっただろうと想像される。米国は主要国の中では2000年を迎えるのが、ほとんど最後になったので、他国の状況からみて、かなり安心して2000年を迎えられたといえる。この先、細かい部分ではいろいろと混乱もあるだろうが、まずは2000年問題を無事通過したといっていいだろう。

2000年問題のために情報部門として色々な案件が遅れをきたしていたが、それらがこれから一斉に開始されるだろう。最も重要なものは、言うまでもなく、インターネットへの対応、インターネットが作り出すインターネット・エコノミーへの対応である。米国では2000年問題があるにもかかわらず、インターネット・エコノミーへの対応は既に最優先で行われていたが、日本では、2000年問題、そしてインターネットへの、つい最近までの意識の低さから、遅れ遅れになっている企業が多い。

インターネットが広がり始めた1995年の7月に、私のインターネットの最初の本である“インターネット・ワールド”(丸善ライブラリー)が出版されたが、その本のなかを見ると、インターネットの特徴、メリットが色々と書かれている。そして、よくあるブームだと4-5年たって振り返ってみると、色々書いたことがまだ実現していなかったりする場合が多いが、インターネットに関しては全くその逆で、そのとき書いたことがほとんど起こっており、さらにそのときには想像も出来なかったような新しいことが次々に起こっている。それも予想をはるかに上回る早さで。まさにインターネット革命、インターネット産業革命というような言葉が、大げさではなく、実感として感じられる。

インターネットの特徴である、情報が瞬時に世界中に伝わる(時間的、物理的な距離がなくなる)、共通のグラフィック・ユーザー・インターフェースによる、使用するコンピューター機種を気にしない接続などの特徴を生かし、インターネットで実現してきている大きな変化としては、以下のようなものが挙げられる。

― 中間事業者(xx仲介業、xx代理店など)の形態の大きな変化(過去の形態の衰退と新しいインターネットでの中間事業者の出現)
― サプライヤーとの関係見直しによる、より統合されたリアルタイムのサプライ・チェーン・マネジメント
― 会社規模の強みからスピードの強みによる経営への変化
― マス・プロダクションから1対1マス・カスタマイゼーション、注文生産への変化
― 販売者より詳しい情報を握る顧客
― ベンチャー企業が大手既存企業の地盤を揺るがす
― 多くの新たなインターネット・ビジネスの出現
― イントラネットによる社内業務効率の向上、ノレッジ・マネジメント
― 購買へのインターネット利用による効率向上

挙げていけばまだまだこのリストは続くであろう。もう既に何度も言っていることだが、米国の企業は皆、今この大きなインターネットの動きに乗り遅れまいと、多額の投資を惜しまず、インターネットによって構築される新しい世界に向けて邁進している。これに対し、日本企業の対応はまだまだ鈍い。もっとも、昨年の後半になってようやく富士通や日本電気などの大手メーカーがインターネットに焦点をあてることを明言し、ユーザー側でも少なくとも意識の上では、インターネットに本腰を入れようという姿勢が見え始めてきた。もう随分と前からこのコラムでもインターネットの重要性を説き、日本企業の反応の鈍さに苛立ちを覚えていた人間としては、少しほっとした気分である。

これからの日本企業に必要なのは、明確なインターネット戦略である。企業としてインターネットを使ってどのような新しいビジネス展開が出来るか、とういうことだけではなく、いままでのビジネスのやり方がそのままで大丈夫か、インターネット・エコノミーに対応したベンチャー企業、異業種からの市場参入による脅威はないか、インターネットを利用した新しいビジネスモデルはどのようなものか、それにどのように対応すべきか、インターネットを利用して業務効率化できるところはどことどこか、そしてそれを実行していくための優先順位は、等々を含んだインターネット戦略の構築、そして実施が必要となる。

インターネット戦略は単に情報システム部門で作成するようなものではなく、全社的に構築すべきものである。インターネット戦略を企業の情報化戦略のごく一部などと考えていては、その大きな影響を見逃してしまうことになる。インターネット戦略は、むしろその企業の経営戦略の中心と考えることが必要である。

誕生から30年経ったインターネットは、今やとてつもないものに成長してしまった。そして、今見えている範囲で終わるものとは誰も思っていない。芝居で言えば、まだ幕が開いたばかりというのが、多くの人たちの一致した意見である。だからこそ赤字を出しつづける多くのインターネット関連企業が高い株価を維持しているのである。

これからのインターネットの30年は、きっと今までとはまた想像もつかないほどのものになっているであろう。その影響の大きさは電話、自動車、飛行機などの発明を合わせたもの、いや、それ以上のものと考えられ始めている。われわれはこのような大きな変革の時に生きているということを前提に、今後のビジネスを考えていく必要がある。

  黒田 豊

(2000年1月)

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