広い裾野からのビジネス・イノベーションに期待

新年明けましておめでとうございます。

このコラムを書き始めてから、早や19回目の新年となる。この間に出てきた新たな技術、製品、サービスは数多く、それぞれのペースで市場に浸透してきている。

スマートフォンやタブレットは、すでに一般化し、今後も市場の拡大は見込めるものの、製品そのものは、次第に成熟化してきた。毎年出てくる製品も、機能向上はあるものの、目を見張るような機能追加は少なくなってきたようだ。AppleがSiriで広めたパーソナル・アシスタントが、スマートフォンやタブレットを次の段階に進めるひとつの革新技術に見えるが、その本格的な進化には、まだ少し時間がかかりそうだ。

FacebookやTwitterを中心とするSNSは、一時ほどの伸びはなくなり、安定期に入ってきた模様だが、昨年のTwitter上場でふたたび株式市場では賑わいを見せている。2012年の上場以来低迷していたFacebook株も、モバイルでの収入急増で、上場値を超えて上昇している。SNSが一時のブームではなく、市場に定着してきている表れだ。

インターネットを使ったテレビ番組等のビデオ配信も、米国では大きく広がり、定着期に入ってきた。先鞭をつけたNetflixは、2013年に株価を3倍以上にしている。大手テレビ局3社が出資しているHulu、Amazonをはじめ、いくつもの有力企業が市場参入し、いよいよテレビ業界の大きな変革が始まっている。日本でもそろそろ機が熟し始めているのではないだろうか。

新しいものとして最近出てきたものでは、身体に付けて使うウェアラブル・デバイスがある。ウェアラブル・デバイスでは、健康管理のために歩数計やエネルギー消費を計算してくれ、それを分析してくれるようなものが広がってきている。簡単な健康管理だけでない、本格的なヘルスケアでの利用は、これからだ。今年はGoogleがテスト中のGoogle Glassを一般販売する予定で、これにもしAppleがうわさのiWatchを発表すれば、今年注目すべきもののひとつとなる。

そんな中、ここ数年注目されている言葉に「イノベーション」がある。新たな革新、新機軸、というような意味だが、大きくは技術の革新である技術イノベーションと、既存技術を使いながら、そこに新たなビジネスを見つけるビジネス・イノベーションがある。技術イノベーションを起こすには、長年の研究開発が必要な場合が多く、そのための資金も必要だ。したがって、大学や国の研究機関、さらに大手企業である程度の規模の研究開発を行っているところから出てくる場合が多い。ベンチャー企業でも、ベンチャーキャピタルから多額の投資を受けて技術イノベーションを起こすことは可能だが、それでもゼロからの開発は難しく、また、日本のようにシーズ技術にお金を出すベンチャーキャピタルがほとんど存在しないところでは、簡単ではない。

しかしながら、本当に社会を変革するようなイノベーションは、ビジネス・イノベーションがあって、はじめて起こる。その中には、もちろん新たに起こった技術イノベーションをもとにしたものもあるが、既存技術をうまく組み合わせ、新たな価値を見出しているものも多い。

インターネット関連ビジネスなどは、その最たるものだ。インターネットという、誰もが自分のコンピューター、スマートフォン、タブレットなどで、世界とつながることができるネットワークによって、ビジネスの可能性は無限に広がった。インターネットを使ったビジネス・イノベーションは数限りなく、これからもどんどん広がっていくだろう。

スマートフォンやタブレットにしても同じだ。製品そのものは成熟期に入ってきたといえるが、その使い方はさらに広がる可能性をたくさん秘めている。そのモバイル性や携帯性を生かしたビジネス・イノベーションは、まだまだこれからだ。

ビッグデータについても同様だ。ビッグデータについてこのコラムで最初に書いたのは、2011年1月だったが、その後ビッグデータ分析によってできることは、どんどん広がっている。ビッグデータ分析のために必要な技術もかなりそろってきた。これからは、このビッグデータ分析を使って何をするか、どんなビジネス・イノベーションを起こすかだ。

すでにインターネット上のTwitterやFacebook情報の分析、スマートフォンによる位置情報分析などを使ったソリューションが広がっている。さらにヘルスケアやエネルギー利用改善のためのスマートグリッドなどでの応用についても、このコラムで取り上げてきた。今後は、センサーなどあらゆるものがインターネットにつながる、いわゆるInternet of Things (IoT)の世界が広がり、それを使ったソリューションが次々と出てくる。

ITと通信技術を使ったソリューションは、ビジネス・イノベーションの宝庫だ。今年は、それがさらに大きく開花する年になるだろう。ビジネス・イノベーションのシーズ(種)は、「これがしたい」「あれがしたい」というユーザーのニーズ、あるいは、ユーザーが気がついていない、「やりたいこと」(ウォンツ:wants)だ。これは企業に勤め、その中で新しいビジネスを考えている人たちだけの特権ではない。個人個人一人ひとりが、自分の仕事、生活、趣味、やりたいことなどの中に持っているものだ。

企業にとってビジネス・イノベーションが、これからの飛躍の大きな鍵であることは言うまでもないが、個人個人にとっても、自らビジネス・イノベーションを起こすチャンスはいくらでもある。インターネットに関連した新たなビジネスなどは、ビジネス立ち上げのための資金もそれほど多く必要とせず、誰でも起業できるチャンスを提供している。ハードウェアを必要とする物作りの世界でも、3Dプリンター技術などを使えば、比較的安価にプロトタイプ製作は可能だ。また、資金調達にも、インターネットを使って多くの人から資金を集めるクラウド・ファンディングなどが可能になっている。

このような状況をみて、日本でも起業する人たちが増えていることは、大変歓迎すべきことだ。若い人は、自由な立場の学生のころから、年配の人たちは、子育てから解放され、あるいは定年を迎えて自由度が高まったところで、これまでの経験を生かしながら起業する人たちが増えている。企業に勤めながら、週末や夜のセカンドジョブとして起業している人もいる。ビジネスをアイディア・レベルから実際のビジネスに立ち上げるためには、一人ではなく、複数の人たちで協力して行う場合も多いが、そのような人たちが遠隔地に離れていても、共同作業できるITC環境も十分そろってきている。

自分でビジネス・アイディアを考え、それを形にすることは、とても面白く、魅力的な作業だ。みなさん一人ひとりも、いろいろなニーズ、ウォンツはたくさん持っているはず。今年は、他人が作ったものを使うだけでなく、自らビジネス・イノベーションを起こしてみてはいかがでしょうか?

  黒田 豊

(2014年1月)

ご感想をお待ちしています。送り先はここ

戻る