年末商戦を前に出揃ったタブレット、スマートフォン

9月のApple iPhone 5の発表を皮切りに、AppleによるiPad Miniと新たなiPad、MicrosoftによるSurfaceタブレットとWindows Phone 8 OS、さらにGoogleの自社ハードウェアによるフルサイズ・タブレットNexus 10、新たな独自スマートフォンのNexus 4、小型タブレットNexus 7の機能拡張と、次々に年末商戦を前に発表が行われた。いよいよApple、Google、Microsoft、それにタブレットではAmazonを加えた年末商戦への熾烈な戦いが始まった。

まず、時間を追ってみてみると、9月12日、Appleは市場で期待の高まっていたiPhone 5を発表した。その内容は、少し大きめの画面、高速4Gネットワーク・サポート、より薄く軽量なボディ、より高性能なカメラ、持続時間の長くなったバッテリー、高速化したチップA6、進化したパーソナル・アシスタントSiri、新たな独自の地図機能を含むiOS6ソフトウェア、などだ。そして、価格は前回モデルiPhone 4Sと同じだ。確かに進化したことは認められる。しかし、あっと驚くような「Wow」ファクターがない、ちょっと退屈(Boring)ではないか、という評価も聞かれる。

そろそろ買い替えの時期を迎えているiPhoneユーザーなら、今回の発表で買い替えを考える人も少なくないだろう。一方で、何か面白いものであれば、早めに買い替える、あるいは、他機種から変更する、と考えていた人には、少々物足りなく、心を動かされるには不十分のように見える。Steve Jobsがいなくなって、Apple製品もつまらなくなってきた、という見方もあるかもしれないが、スマートフォンも、そろそろ商品として成熟してきた、というほうが正しいだろう。

そして、その後、大きな話題となったのは、Apple独自の地図機能の問題だ。すべての地域で、というわけではないにしても、多くの場所で地図が不正確だったことは、大きな問題で、CEOのCook氏がユーザーに公式に謝り、しばらくは他社の地図を使ってもらうよう頼んだのは異例だ。以前、Jobs氏が在任中、スマートフォンのアンテナの不具合が問題になったことがあったが、Jobs氏は自分から謝ろうとしなかったのとは対照的だ。地図の問題は問題として、このCook氏の対応を評価する向きもある。

この問題は、その後、一時Appleの次期社長ともうわさされ、Jobs氏に近いと言われたForstall氏の解任にまで及んだ。Wall Street Journal 紙によると、その直接の理由はForstall氏が地図に関する謝罪にサインを拒否したためと言われる。Forstall氏はリスクをとって新しいことにチャレンジするが、Jobs氏のように独善的との評判で、Jobs氏がいるときはよかったが、彼の死後は他のエグゼクティブやスタッフとうまくいっていないとのうわさだった。彼のような人材がAppleから去ることは、Appleのマネジメント方法に変化が起こっていることを証明しているが、それがAppleの将来に吉と出るか否かは、今後を見ないとわからない。

Appleはさらに、10月23日に、これも期待の高まっていたiPad Miniを発表した。また、これは予想外だったが、3月に出したiPadの新しいものを発表した。iPad Miniについては、Appleファンが待っていたとおりの製品ともいえるが、その価格は$329からと、先行するAmazonのKindle Fire HD($199)の1.6倍と、価格差は大きい。これは、ハードウェア販売でもきっちり儲けようというAppleと、ハードウェアでは儲けを出さす(一説には売れば売るほど赤字になるとも言われている)、コンテンツ販売で儲けようとするAmazonとのビジネスモデルの違いによる。

ビジネスモデルの違いと言っても、お金を支払うコンシューマーにとっては安いほうがいいに越したことはなく、Appleのブランド力と多少の製品機能の違いで、この値段の差があってもユーザーがAppleを購入してくれるかどうか、年末商戦がひとつの鍵を握っている。初出荷は11月2日になるが、発売当初のiPad Miniの予約販売の出足は好調の模様だ。

その同じ週、Microsoftはパソコン向けのOS Windows 8とともに、スマートフォン向けのOS Windows Phone 8の出荷を10月26日に開始した。Windows 8はこれまでのWindowsと見かけがかなり異なり、タッチスクリーンを使用した、タブレットを強く意識したOSだ。また、自社ブランドのタブレット、Surfaceの出荷も同時に開始した。価格はiPadと同じ$499だがメモリーサイズは倍の32GBだ。自社ブランドのスマートフォンの発表もうわさされていたが、こちらは発表はなく、Windows Phone 8搭載のHTC、Samsung、Nokiaのスマートフォンの発表にとどまった。

Microsoftは、これまでのパソコン市場での強みを生かし、自社ブランドのSurfaceタブレットは、特にパソコンの代わりに使おうと考えているユーザーを強く意識している。たとえば、パソコンでよく使うMicrosoft Word、Excel、PowerPointは、すべて標準装備だ。これは自社の優位性を生かす意味で攻めのスタンスであり、また、自社のこれまでのパソコンでの市場がタブレットに移行しても、そのままMicrosoftの市場となるよう、守りのスタンスでもある。モバイルでは、AppleとGoogleに大きく遅れをとっているので、挽回のための最大の山場を迎えているといえよう。パソコンとの親和性では優位なものの、モバイルでのアプリの数では、AppleとGoogleに圧倒的な差をつけられているので、パソコンからの移行を主に、タブレットを買う人がどれくらいいるかが、大きなキーになるだろう。

ただし、注意すべきなのは、今回発売のSurfaceでは、OSにWindows 8ではなく、Windows RTが使われており、よく使われているMicrosoft OutlookやApple iTunesなど、多くのソフトウェアが動かない模様だ。これらを使いたい人は、来年1月に予定されているWindows 8搭載のものまで待ったほうがよさそうだ。

これに続き、Googleは10月29日、自社ブランドの10インチ(フルサイズ)のタブレットNexus 10を発表し、小型のNexus 7、スマートフォンのNexus 4と合わせて、3つのラインアップを自社ブランドでそろえてきた。Googleがいよいよ自社ブランドで本格的に市場に仕掛けてきた証明だ。Nexus 10は、iPad($499)より$100安い$399という価格設定だ。

これまでもNexus Oneという自社ブランドのスマートフォンを売ってはいたが、ほとんど売れておらず、Googleもまた、それほど本気で売ってはいなかったように見受けられた。しかし、昨年のMotorola Mobilityの大きな買収を経て出してきた今回の自社ブランド製品には、かなり力が入っているように見える。ただ、これまでのSamsungをはじめとする他メーカーへのAndroid OSの提供は続ける予定で、自社ブランドとの両構えで、少々難しい舵取りになる。そのため、Nexus 10はSamsung、Nexus 4はLGに製造させる等、これまでAndroid 市場拡大に貢献してきたメーカーへの気遣いは忘れていない。

スマートフォンでは、Androidが市場シェアでAppleを大きく引き離しており、Googleはタブレットでも同様にAndroidでのシェア拡大を狙っている。ただ、今度は自社ブランドで攻め込むので、単にオープンさを売り物に市場を広げるのは、簡単にはいかない可能性もある。

いづれにしても、AppleとGoogle、それにMicrosoftとAmazon(タブレットのみ)を加えたスマートフォンとタブレットの戦いは、よりすぐれた機能を持つ製品が、次々と安価に提供される可能性を秘めており、ユーザーにとっては、好都合な状況となる。スマートフォンやタブレットの古いものを使っている、あるいはまだこれから使おうという人たちにとっては、願ってもない年末商戦になりそうだ。

  黒田 豊

(2012年11月)

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