Web3、今後の行方

昨年暮れあたりから、Web3(またはWeb3.0)と言う言葉をよく聞くようになった。と言っても、まだ一般的に使われているというほどではないので、聞いたことがない人も少なくないかもしれない。そもそもWeb3とは何か、これが実はまだ定まった定義になっていないのが現状だ。

これまで、インターネットが広まってから、その最初の世代をWeb1.0、次の世代(現在)をWeb2.0というのは、聞いたことがある人が多いかもしれない。Web1.0は、まさしくウェブが始まったころの世代で、最初にWWW(World Wide Web)が登場し、インターネット上の住所にあたるURLを入力すると、そのウェブサイトにつながり、その内容が表示される。この段階では、ウェブサイトを作れるのは、ある程度専門知識のある人に限られ、一般の人たちはそれを見ることはできても、自身で何か発信することは、専門家に頼まないと難しい時代だった。大体1990年代初めから2004年くらいまでがこの時代だが、いまでも一般の人たちが見るだけのウェブサイトも数多く存在する。

その後、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のFacebookやYouTube、Twitter、Instagramなどが広がり、一般の人たちも自分の考えやコンテンツを簡単に発信できるようになった。ウェブサイトも、ユーザーからのインプットに対応するなど、双方向なやり取りが実現した。これがWeb2.0と言われるもので、2004年ころから始まった。Googleが株式上場し、Facebook(現Meta)が生まれたのがこの年だ。YouTubeの開始が2005年、Twitterがサービスを開始したのが2006年だ。

さて、Web3は第3世代のウェブだろうということは、想像に難くない。最初にWeb3と言い始めたのは、イギリスのコンピューター・サイエンティストでWWWの創始者と言われるTim Berners-Leeで、2001年にさかのぼる。当時の定義では、Semantic Webと言われる概念がWeb3と言われていた。具体的にどんなものかというと、ウェブに対してキーワードなどではなく自然言語で情報を探したり、共有したり、情報を統合し、個人にパーソナライズされ、その人のcontext(文脈、環境、状況)を理解しながらインターネットが独自に分析して、対応してくれるものだ。簡単に言うと、より自然で、使いやすいインターネット、というところだ。

これに向けて世の中は進化しており、サーチエンジンでトップを行くGoogleは、単にキーワードをもとにするだけでなく、それをキーインした人のcontextをもとにしたサーチ結果を出し、ユーザーにより有効な結果が最初から出るように進化を続けている。たとえば、レストランの名前を入れてサーチすると、どこにいる人がこのサーチをしているかを考慮して、結果を出してくれる。サーチに限らず、あらゆることを行うときに、その人のcontextを考慮して実施しようとするのが、Semantic Webだ。現在は、まだその進化の途中にある。

もともとTim Berners-LeeがこのようにWeb3を定義していたのだが、その後インターネット関連の技術は、いろいろな面で進化した。その中の一つに、ブロックチェーン技術がある。この技術を利用して、Bitcoinを含む多くの仮想通貨が世の中に出てきて、いまもその話題が大きく広がっている。この技術は仮想通貨だけでなく、公的書類の証明などにも使うことができ、最近話題のNFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)も、この技術がベースになっている。このようにブロックチェーン技術が広がってきたため、これを使ったものがWeb3だ、と2014年に仮想通貨Ethereum共同創設者のGavin Woodが言い出したのが、今回のWeb3と言う言葉の広がりにつながっている。

ブロックチェーン技術を使ったWeb3が、なぜ大きな話題になっているかというと、それは現在のインターネットと大きな違いがあるからだ。現在のインターネットでは、プラットフォーム会社と言われるGAFAM(Google(Alphabet)、 Apple、 Facebook(Meta)、 Amazon、 Microsoft)などが市場を圧倒しており、そのサービスを使うためには、ユーザーはそこに登録しなければならない。そして、そのプラットフォームの中でいろいろな発言をしたり、物を買ったりするわけだが、それらの情報は、すべてこれらプラットフォーム企業に握られてしまう。そして、彼らはそれを使って特定のユーザー・グループに対するターゲット広告ができるように、外部企業などに情報を提供し、大きな利益を得ている。

このような集中管理体制に対し、ブロックチェーン技術を使ったWeb3の世界では、何かをするのにプラットフォーム会社などの許可を得る必要がない、分散型の管理体制となっていることが大きな違いだ。これを使えば、自分自身の発信したものは、自分だけのもので、プラットフォーム企業のものではなくなる。これが、ブロックチェーン技術を使ったWeb3が、次世代のあるべきインターネットの姿だと主張する人たちの考え方だ。

ただし、この実現には多くの課題もあり、また実現したとしても、プラス面だけでなく、マイナス面も少なくないため、今後どうなっていくかは、まだ誰にも予想がつかない。たとえば、ブロックチェーン技術を使う場合、多数のコンピューターを使って大量の計算を実施する必要があり、それには莫大な電力エネルギーを必要とする。すでに仮想通貨だけをとっても、これが大きな問題になっており、今後あらゆるものにこの技術を使うとなると、途方もないエネルギーが必要になり、地球温暖化を防ぐためのグリーン・エネルギーだけでは、とても対応できない。ネットワークそのものも、現在よりさらに高速大容量になる必要がある。

また、中央集中型だとセキュリティ上、そこを狙われる危険性があり、分散型のブロックチェーン技術だと、セキュリティ上より安全だと言う面がよく強調されるが、逆に犯罪者を見つけたり、偽情報を拡散する人たちを取り締まることは難しくなる。単純に分散型のほうがいいとは言い切れないのだ。

現在は、Web3と言う言葉が独り歩きし、スタートアップ企業などで、Web3関連技術を持っている、ということになると、将来有望ではないかと思われ、会社の評価額が高くなる、という現象も起きている。以前、このコラムで書いたように、新しい技術や考え方に対する過剰反応、いわゆるHype Curveの真っただ中にあり、今後消えてしまうのが、それともじわじわ実現して大きなものになるか、見えないのが現状だ。

Web3という言葉そのものの行方についても、まだどうなっていくかわからない。現在はブロックチェーン技術を使用した、分散型のインターネットという定義を使っている人が多いように見受けられるが、昔からのSemantic Webのことを言っている人もおり、AIをベースにしたインターネットと考える人もいる。また、最近話題になっているVR(Virtual Reality仮想現実)、AR(Augmented Reality 拡張現実)を活用した仮想世界のメタバースを、Web3の定義に含める人もいる。さらに、Web3技術が一部の人たちのものにならないよう、開発されるソフトウェアは、誰にでもオープンな、オープンソース・ソフトウェアである必要がある、という人もいる。

Web3と言う言葉が何を意味するか、またその意味するものが、どのようにこれから進化発展していくのか。いまはその言葉が、過剰反応気味のHype Curveにあることを理解しつつ、その今後に注目していきたい。

  黒田 豊

(2022年4月)

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