いよいよ「空飛ぶ自動車」の時代到来?

「空飛ぶ自動車」(Flying Car)という言葉を聞いて、みなさんは何を思い出すだろうか? 古くはテレビ漫画の「宇宙家族」(”The Jetsons”)にも出ていたが、これは漫画の世界。また、映画「スターウォーズ」にも同様のものは出ていたが、これは時空を超えた空想の世界の話だ。私がこの言葉を聞いて、すぐに連想するのは、1985年から1990年にかけて上映された映画「Back to the Future」シリーズ3作だ。

タイムマシンを使って時空を行き来する空想映画ではあるが、場所や時代の設定は現実的で、そこに出てきた未来は2015年10月21日の米国だ。そして、そこには「空飛ぶ自動車」が一般的になっている姿が映し出されていた。そのため、2015年10月21日には、「私の空飛ぶ自動車はどこ?」ということが、話題にもなっていた。残念ながらその時点では、まだ現実のものとなっていなかったが、それが本当に実現に向かって前進しているのも事実だ。

最近、これに関連して話題になったのは、車のライド・シェア(ride share)で大きく成長しているUberが、NASAのベテラン・エンジニアで、垂直離着陸機(VTOL)に詳しい人を、Uberが進めるプロジェクトに採用した、というニュースだ。Uberが空飛ぶ自動車について話題を作ったのは、今回が初めてではなく、昨年10月にUber Elevateというプログラムを発表してからだ。今回の発表で、Uberがこのプログラムに本格的に力を入れていることがうかがえる。

このプログラムでUberは、自分たちで空飛ぶ自動車を開発製造するのではなく、誰かが開発製造したVTOLを使って、Uberのようなライド・シェア・サービスを、空で行おうというものだ。Uberの会社の目的は、ユーザーに、ある地点から目的地点に移動することを支援するサービスであり、現状の交通渋滞等を考えると、空を飛ぶのが最善、ということだ。したがって、Uberとしては、全く別な世界に参入しようというわけではなく、現在のサービスの延長線上に、この「空飛ぶ自動車による、ユーザーの輸送」、という考え方があるわけだ。Uberの目標は、2026年にこのサービスを実現すること。そう遠くない話だ。

いまでもすでに軍事用などに垂直離着陸機はあるし、ヘリコプターも同様の機能を持つが、これらは高価過ぎ、また騒音や環境への影響なども大きく、一般に使えるようなものではない。もっと安価で、操縦も簡単、そして騒音もトラック程度で、電気を使って環境にも悪影響を及ぼさないようなVTOLによるサービスを、Uberは狙っている。最初はパイロットによる操縦を前提にしているが、その先には自動操縦がある。空を飛ぶときのほうが、地上を車で走るときより、はるかに自動操縦は簡単にできるし、現在の飛行機の自動操縦機能を考えても、当然のことだろう。

空飛ぶ自動車実現のためには、当然多くの障害がある。Uberが考えている障害のいくつかを上げると、(1)米国連邦航空局(FAA)による承認、(2)信頼性や効率、安全性、(3)コスト、(4)離着陸場所、(5)航空管制、などだ。このような障害を乗り越えるため、Uberは政府や民間企業、大学など、関係する組織と連携しながら、Uber Elevateプログラムを推進しようとしている。

VTOLの信頼性や効率、安全性については、それを開発製造する会社に頼る部分が大きいが、すでに10社以上がVTOLの開発製造にかかわっており、一部の会社は、実際に空で飛ばしているところもある。そのデザインはいろいろなものがあり、小型ヘリコプター的なジャイロ・プレーン(gyro plane)のようなものもあれば、折り畳み式の翼を広げて飛行機のように飛ぶもの、そして、本当に映画に出てくる空飛ぶ自動車のようなイメージのものも存在する。

空飛ぶ自動車としては、例えば、オランダPAL-VのLibertyは、通常、道路を走る車(3輪)だが、飛行するときにはプロペラを出し、飛ぶことができる。価格は$400,000と高価だが、すでに注文を受け付けている。ヘリコプターの簡易型のようなものだが、垂直離着陸ではなく、滑走路を必要とするので、Uberの考えているものとは、少し異なる。

もう一つ、米国MITの卒業生たちが2006年に設立したTerrafugiaは、すでにTransitionという製品を、実際に飛ばしてデモしている。軽飛行機で、翼が折り畳み可能、車としても利用できるものだ。これは既存の規制等の変更がほとんど不要なものとして、空飛ぶ自動車の第一歩として考えている。将来的には、映画に出てくるような空飛ぶ自動車として、TF-Xの開発にも取り組んでいる。TF-Xのデモビデオを見ると、滑走路を必要としないVTOLで、本当に映画に出てきた車ではないか、と思いたくなる。彼らが会社を作ることにしたのは、「Back to the Future」を見たのがきっかけと話しているから、それも当然かもしれない。別なベンチャー2社には、Google創設者のLarry Pageが出資しているし、ベンチャー企業以外にも、大手航空会社のAirbus、Boeing、Lockheed Martinなどが、VTOL開発に取り組んでいるという。

コストは大きな問題だが、これはUberが間に入り、多くの人に共有してもらうことにより、1回乗るためのコストを下げることができるし、利用者が増えればVTOLの生産台数も増え、製造価格も大幅に下がると期待される。Uberの試算では、サンフランシスコ北部からサンノゼまでの約60マイル(約100キロメートル)、混雑時は車で2時間近くかかるところを、VTOLを使うと、15分程度で移動でき、その料金は、サービス開始当初で$129、少し経てば$43、長期的には$20程度になるだろうと見込んでいる。いまのUberXサービスを使うと$111、相乗りのUberPOOLでも$83するので、格安に、しかも短時間での移動が可能になる。交通渋滞解消のための道路や橋の建設に比べても、VTOLの発着所を整備し、VTOLを開発したほうが、はるかに安価で効率がいい、というのがUberの主張だ。

個々のメーカーがVTOLを開発しても、それを個別に売っていたのでは、販売台数も上がらず、その結果、価格が高止まりしてしまう可能性が高い。しかし、Uberが、VTOLを使ったUber Elevateのようなサービスを広げれば、コストも下がり、空飛ぶ自動車が世の中に広がる可能性も、がぜん高くなる。最初に述べた、Uberに入社したNASAのエンジニアも、5500万ユーザーをかかえるUberの考えるビジネスモデルを広げていけば、空飛ぶ自動車が世の中に広がる可能性が大きくなると感じた、と述べている。

私も個人的に、飛行機に乗るのは好きだし、映画「Back to the Future」を見たときには、早くこんなものが実現してほしいと思ったものだ。いまでもその気持ちは変わらないし、いくつかの会社が空飛ぶ自動車開発に力を入れており、それをビジネスモデルで実現しようとするUberの存在は、とてもうれしいことだ。何とか私の時代にこれが現実となることを期待したい。

  黒田 豊

(2017年3月)

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