自動運転車、あなたは乗ってみたいですか?

自動運転車がここ数年、中でもこの1年あまり、大きな話題だ。新聞やテレビでも大きく報道されているので、注目している人も多いだろう。シリコンバレーでは、まずGoogleが自動運転車を開発し、もう2年ほど前から私の住んでいるシリコンバレーでも、試験的に一般道路を走らせている。

ご存知の方も多いと思うが、自動運転車と言っても、その自動化の程度によって、4つのレベルに分かれている。レベル1と2は、完全に自動化された車ではなく、アクセルやブレーキ、ハンドル操作の一つまたは二つ以上が自動化され、運転手を助けてくれるもので、必ずしも自動運転車という言葉は当てはまらない。そのため、自動車メーカーによっては、これらを運転支援システムと呼んで、自動運転車と区別している。ただし、いくつかのメーカーは、このレベルでも「自動」という言葉を使っているので、少々紛らわしい。レベル3と4は、運転のすべてが完全に自動化されたものだ。2つの違いは、レベル3では、必要がある場合、人が介在して運転を取って代わるが、レベル4では人の介在は全くなく、そのため、アクセル、ブレーキ、ハンドルもついていない場合も想定されたものだ。私の問いかけは、このレベル3または4についての話だ。

さて、「自動運転車、あなたは乗ってみたいですか?」と問われて、みなさんはどんな反応をするだろうか。まず私は自分に問いかけてみると、現時点では、「興味はあるが、不安もあり、低速運転ならいいかもしれないが、高速運転になると、ちょっと」というのが、正直なところだ。自分で乗るだけでなく、自分の運転している車のまわりに、自動運転車が走ることにも不安を感じる。実際、街でGoogleの自動運転車を時々見かけるが、そのすぐ後ろについてしまうと、つい車間距離をいつもより大きくとってしまう。

自動運転車にまだ不安を感じる理由は、あとで説明するとして、まず、現在の自動運転車の状況をみてみよう。自動運転車市場に参入している企業としては、自動車業界からは、ほぼすべての大手メーカーが参入を表明し、実際に試験的に走らせている会社も少なくない。自動車業界に部品を提供している会社も、少なからず自動運転車のための部品やシステムを開発している。

しかし、今回の自動運転車の動きを大きく特徴付けているのは、シリコンバレーを中心とした、IT企業の参入だ。彼らは、既存自動車会社よりも、むしろ早くこの市場に参入している。すでにお話ししているGoogleだけでなく、Ride Shareで有名なUberも、自動運転車に力を入れている。日本では、DeNAがすでに自動運転バスを開発し、一般道路ではないが、私道で動かし始めている。シリコンバレーでは、Appleも自動運転車を準備中との話がある。ただし、Appleは最近そのプロジェクトを中断(中止?)したとのうわさも流れている。

Googleは先に述べたように、シリコンバレーを中心に一般道路で試験を続けているが、今年は、自動運転車プロジェクトに携わっていた人が何人か退社してしまったため、今後どうなるか、ちょっとわかりにくくなっている。そのGoogleで自動運転車開発にかかわっていた何人かが設立した、OTTOという自動運転トラック会社を、Uberは今年買収した。そして、OTTOのトラックがこの10月に高速道路120マイルの自動走行に成功した。ただし安全に配慮し、夜中に実施し、前後を人が運転する数台の車が護衛するような形で走行した。

IT業界の会社は、自動運転車市場に参入しているものの、自社で車やトラックそのものを製造しようとしているわけではなく、自動車メーカーとの協業により、自動運転のためのソフトウェアを開発し、納入することを考えている。ただ、パソコンをはじめ、多くのものがそうであるように、商品の重要な部分はハードウェアからソフトウェアに移っており、自動車についても、それがどんどん進んでいる。そのため、ソフトウェアで市場を取った会社が実質的にその業界を制することになる。したがって、この自動運転車のソフトウェアに関するIT企業と自動車会社のせめぎあいは、自動車産業の将来にとって大きな鍵を握っている。

さらに、UberのようなRide Share会社の参入を見てもわかるように、製品を「物」で売るのではなく、「サービス」として提供する方向に世の中は進んでおり、車についても、所有することから、サービスとして使う、という流れになってくることも十分考えられる。そういう意味では、タクシー、バス、トラック、といったものが、自動運転技術をもとに、サービス化されれば、コストの大幅削減にもつながるので、新たな大きなビジネスとなる可能性が高い。

個人の持つ車についても、自分で持たず、Ride Shareを使い、しかもそれが自動運転車であれば、運転手の確保も不要ということで効率化が図られる。ただし、米国の現状を見ると、多くの人が車を通勤に使っており、ほぼ同じ時間帯に車が必要になるので、これらすべてをRide Shareサービスに移行させるのは、サービス提供の時間帯が集中することを考えると、少々難しいように感じる。

少し話が脇道にそれてしまったが、話を「自動運転車に乗りたいか」ということに戻そう。冒頭で、いまは自分が自動運転車に乗ることに、少々抵抗を感じていると話したが、それにはいくつかの理由がある。もちろんまだ技術的に完成しておらず、十分テストされたものではない、ということがあるが、それだけではない。一つには、もし事故が起こった場合、それは人命にかかわる可能性があること、そして、自動運転をコントロールしているのは、人が書いたソフトウェアである、ということだ。ソフトウェアが人工知能(AI)で、自ら考えると言っても、そのAIそのものを作っているのは人間であり、またAIが判断基準のもととするのは、人が与えたデータだ。

ここで私が不安を感じるのは、二つの点だ。人が書いたソフトウェアには、バグ(エラー)がつきものだ。多くのテストを行って、それをなくす努力をするわけだが、そのためには、あらゆるケースを想定してテストする必要がある。また、そのような想定したケースでAIが正しい判断をするためには、過去のデータが十分そろっている必要がある。これらが、自動運転車が本格的に普及する時期までに整うか、という点が一つ目の不安だ。

自動車が高速道路を走行している場合は、想定されるケースは、ある程度限られると思われるが、一般道路、しかも人や自転車などが不規則に動き回っており、思いもかけぬ動きをする状況では、想定されるケースが無限に広がる。そのような中で、周りの動きを把握するセンサーと、過去の経験をもとに判断するAIが本当に正しい判断をしてくれるか、という点が問題となる。特に過去にない、予期せぬ事態が起こった場合、AIが正しい判断をしてくれるかに大きな不安を感じる。

もう一つの不安は、セキュリティの問題だ。自動運転車がネットワークにつながっていることを考えると、悪意を持つハッカーが侵入し、車を外部から勝手に操作してしまわないか、という点だ。実際、デモでそのようなことが可能と証明した例もある。当然、自動運転車はセキュリティにも配慮するわけだが、セキュリティに100%はない、というのが専門家の一致した意見だ。セキュリティが破られた場合、どのように対応できるか、というのが問題となる。

これらの課題に対応するため、緊急時には人が運転に介入できるシステムが、レベル3だ。ただ、Googleなどは、人はひとたび自動運転にまかせることに慣れてしまうと、前も見ないで運転をまかせてしまうので、本当の緊急時には対応ができず、逆に間違った対応をしかねないので、むしろ完全に自動化してしまうレベル4のほうが安全だ、という立場をとっている。いずれにしても、システムに不具合が起こる可能性はゼロではないので、車が何等かの理由で暴走してしまわないよう、それに歯止めをかける仕組みを作ることが、自動運転車が一般道路を走行するためには必須だ。

自動運転車に上のような不安がある一方で、それでは人が運転すれば事故が起こらないか、といえば、もちろんNOだ。通常の運転ミスだけでなく、居眠り運転、運転中のスマートフォン利用、はては運転しながらメッセージを見たり打ち込んだりする人や、ポケモンGOのようなゲームをやりながら運転する人がいて、多くの事故が起こっている。最近の高齢者による事故の増加も、対応をせまられている。法律で、してはいけないと決められているものも含まれているが、法律違反をして、事故を起こしてしまう人がいるというのが現実だ。

このようなことを考えると、今の時点で自動運転車に不安を感じはするものの、いずれは自動運転にまかせたほうが安全、安心、という時代が来ることも、ほぼ間違いないだろう。自動運転技術が十分成熟し、事故が大幅に減っても、やはり事故は起こってしまうということは、自動運転車を開発している人たちも想定している。したがって、事故が起こってしまったときに、誰が責任をもつのかという法律の整備、また、補償金に関して、保険会社がどのように対応してくれるのか等も、整備しておくことが必須だ。このようなものが整ってくるまでに、何年かかるのかわからないが、そこまで来たら、私もきっと、自分が運転するよりも、安心して自動運転車に乗ることができるようになるに違いない。

  黒田 豊

(2016年12月)

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