生成AI、AIエージェントは、どこまで使われているか
AIブームは以前から何回か起こっているが、現在Google傘下にあるDeepMindが、それまでの機械学習(Machine Learning)を進化させ、深層学習(Deep Learning)になった時点から、その勢いは、止まるところを知らない。Deep Learningは、大量のデータでこれまで分析が難しかったものを、AIによって実現可能となり、その応用分野は大きく広がった。しかし、これはデータを大量に持つ企業等にメリットがあるが、一般ユーザーは直接それを利用するのではなく、これら企業がビッグデータ分析した結果を使う、という間接的な形での恩恵だった。
これに対し、2022年11月のOpenAIによるChatGPT発表で新しく出てきた生成AIにより、一般ユーザーがだれでも簡単に、直接AIの恩恵を受けることができるようになった。ChatGPTや競合する(または協業する)Microsoft、Google、Anthropic、Facebook、Amazonなどは、その覇権争いのため、多額の資金を費やしており、それは、これからしばらく続きそうだ。一方、その恩恵を受ける一般ユーザーは、それを無料で、高機能版も月数十ドル程度で利用可能になった。まさにインターネットが始まったとき、インターネット接続料金さえ支払えば、どこのウェブサイトに行くのもほとんど無料、情報を探すためのサーチエンジン利用も無料という世界に、AIは入ってきた。
生成AIも、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)を使った、どんな分野にも利用可能なものだけでなく、小規模言語モデル(SLM: Small Language Model)を使った、特定分野に特化したものもたくさん出てきた。そして、生成AIも、ユーザーの質問に答えたり、ユーザーの要望するものを作成したりするだけでなく、さらに一歩進んで、何かを実行してくれるAIエージェントという次の段階に進んできた。2023年は生成AI、そして2024年はAIエージェントが大きな話題となった年だった。
生成AIには、いろいろな使い方があるが、大きく分けると、現在会社や個人が行っている仕事、あるいは個人的な作業で、それを効率よく実施するものが一つ。もう一つは生成AIを利用して、ビジネスのやり方を大きく変革するDigital Transformation(DX)、別な言葉でAI Transformationと言われるものに分けることができる。日本の場合、後者のような、いままでのやり方を変えることは、苦手で時間がかかるが、生産性向上は、日本のお家芸なので、前者のような生産性を向上させるための生成AI利用は、世界の先頭を切って、使われると思っていた。そのため、ここ1年ほどの間で、日本の方々にいろいろな場でお話したり、このコラム記事などを書くときには、生産性向上のための生成AI利用は当たり前で、それは日本でもどんどんやっていくだろう、しかし、そこで留まっていてはいけない、ぜひAI Transformationまで進んでほしい、とお話することが多かった。
ところが先日ある人の講演を聞き、また、日本からの情報を見ると、生産性向上のための生成AI活用でも、日本は米国などに遅れているという。ある調査によると、米国では昨年8月の段階で、すでに成人の40%以上が生成AIをいろいろな場面で活用しているのに対し、日本では今年の調査でも、まだ10%に満たないと言う。調査の対象や方法などによって、この数字は異なるだろうが、日本が米国に大きく遅れている、という点は事実のようで、これには少々びっくりした。原因は、いろいろあるだろうが、AIのリスクやセキュリティなどを心配している、というのが理由として多いようだ。
確かに今の生成AIに何かを聞いて、得られる回答が間違っている場合はある。また何かを生成してもらっても、自分の意にそわないものが出てくることもある。これは今後改善されてくるだろうが、それでも100%正しいもの、100%ほしいものが出てくることは、難しいかもしれない。しかし、だからと言って、生成AIを使うことを控える、というのは、とてももったいない話だ。
このような状況の生成AIを、どのように使うべきかについては、いろいろな人が考え方を述べているが、私の場合は、次のように考えて、生成AIを使っている。まず、何か質問をする場合は、その答が最初から正しいとは思わず、参考情報として考える。以前、ChatGPTなどは、どこのどんな情報をもとに出してきた答なのかわからなかったので、なおさらだった。しかし、いまはその出所(出典)が明確にされている場合が多く、その出典を直接見たり、いつの情報だったかもわかるので、どの程度信用できるものかの判断もしやすくなっている。私のコンサルタントとしての仕事で、いろいろな情報を集めることは、仕事の大事な部分だが、それが効率化できるのは、やはり助かる。
サーチエンジンを使って、キーワードでサーチをかけ、その情報をもとに、もともとの質問に対する答を導き出すことも可能だが、生成AIに質問すれば、それよりも効率よく、早く結果を得ることができる。もっとも最近のGoogleのサーチなどは、その裏で生成AIを使用し、サーチ結果のサマリーも出すようになっているので、サーチから入っても、似たような結果が得られる場合も出てきている。
次によく使うのは、手紙やEメールなどのドラフト構築だ。特に定型的なものについては、いままでだったら、定型サンプルを探し、それを見ながら自分の書きたいものに修正する、という形をとっていたが、それをまず生成AIにドラフトしてもらい、それを修正するほうが、はるかに短時間で作成可能だ。修正も、生成AIに注文を付けて修正し、最後は自分で修正する、という形でいいものが早くできる。何か書いたものに対するイメージ画を追加する場合にも、生成AIは便利に使える。すでに読者の方はお気づきかもしれないが、最近のシリコンバレー通信に載せているイメージ画は、生成AIに作成してもらったものだ。
逆に自分が英語で書いたものの文法チェックや、よりよい言い方への修正にも生成AIは大きな力となっている。昔、私が米国でコンサルタントの仕事を始めたとき、最終報告書を英語で書くと、会社にEditor(編集者)がいて、その人が英語を直してくれていた。その仕事は、基本的に生成AIに頼めば済む仕事になっている。
会議などの議事録をまとめたり、長いレポートなどのサマリーを作るのも、生成AIにやってもらうと便利だ。ただし、これについては、そのまま使うのではなく、出てきたものを確認するようにしている。会議に自分が出席していれば、生成AIが作った議事録の確認、また必要があれば修正も可能だ。ただ、自分の出席していない会議の議事録、読んでいないレポートのサマリーについては、そのまま内容を信用するのは、間違いのもととなる可能性があるので、注意している。
自分が集めた情報を、小さなデータベースのようにして整理し、それに対していろいろ質問して、必要な情報を得る、ということも生成AIを使ったツールによって可能で、これも便利な機能だ。情報の入れ方も、ウェブサイトのURLやYouTubeのURLを入れるだけでいいというのも、使いやすい。いまは、ChatGPTなど生成AIのベース機能を使うだけでなく、その上に構築されたツールもどんどんそろってきているので、これらを活用していけば、生産性はかなり向上する。今回は、まだあまり生成AIを使っていない人達のために、私の使用例をいくつか述べたが、私もヘビーユーザーとは言えず、生成AIを使って生産性を向上できるものは、まだたくさんあるので、いろいろ試してもらえればと思う。
一般にだれでも使えるツールだけでなく、小規模言語モデル(SLM: Small Language Model)を使った、業種別や業種横断的な、たとえばソフトウェア開発などに、多くのツールが登場し、個別分野での生産性、あるいは質の向上にも役立っている。つい先日、シリコンバレーで働いているソフトウェア・エンジニアの人に話を聞く機会があったが、彼はすでに1年以上前から、ソフトウェア開発専用の生成AIツールを本格的に活用し、生産性を上げているという。それぞれの仕事、業種に特化したツールを使えば、あらゆる分野で生産性が向上する。そのような分野を狙っているスタートアップ企業も多く、またベンチャー投資資金も、その分野に多くが出資されている。
生成AIの次として昨年大きな話題となったAIエージェントは、AIが人の介入なく仕事を進めていくものだが、これについては、まだ会社も、その結果に間違いがあると大きな問題になるので、本格採用しているところは、米国でも少ないのが現状だ。いずれは、本格利用してもいいと会社が判断するものも出てくるだろうが、それには、もう少し時間がかかるかもしれない。人がやっても間違いは起こるので、AIエージェントの間違いが人より少なく、また間違いが起こっても、あとでフォローアップできるものは、次第に使われていくことになるだろう。
黒田 豊
2025年3月
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