今年は日本企業の積極的な世界進出に期待

 

新年明けましておめでとうございます。

今年は米国で再びトランプ氏が大統領に返り咲き、ヨーロッパでも政権が不安定なところが多く、日本でも少数与党による政府となるなど、しばらく不安定な世の中が続きそうだ。

 

私は長年米国シリコンバレーに本拠を置き、日本に年に何回か出張する生活を続けているが、世界に出ればもっともっと大きな成功が得られると思われる、日本企業が多く存在するにもかかわらず、内向き志向が強く、日本に留まっているところが多くて、とてももったいないと、感じ続けている。

 

私がシリコンバレーに来たのは1988年だが、そのころは、米国でも日本製品が広く使われていたように感じた。しかし、年々それが少なくなってきているというのが実感だ。家電などはその典型で、以前家電量販店にたくさん並んでいた日本製品は、いまはごくわずかだ。目に見える製品だけでなく、いまやあらゆるものがソフトウェア化している中で、日本の存在感は残念ながら薄い。自動車は、まだ日本車を多く見るが、こちらも電気自動車やソフトウェアが中心となり、今後が心配される。

 

そんな中、先日NHKの番組「新しい時代、J-POPの世界」で、若者が世界を目指し、成功し始めている例を見ると、とてもうれしい限りだ。彼らはYouTubeで世界に発信するだけでなく、若手音楽アーチストの登竜門と言われる、ロサンゼルスのCoachellaフェスティバルに参加したり、世界24カ国ツアーを行ったり、全米や世界のヒットチャートに名を連ねるなどしている。アニメの世界では、日本の新しい文化の世界への広がりが感じられる。また、スポーツの世界でも、大谷翔平選手の米大リーグでの大活躍、サッカー選手のヨーロッパなどでの活躍など、ここ10年ほどで、大きな飛躍が感じられる。

 

エンターテイメントやスポーツの世界では、個人や少人数のグループが、デビュー後の早い時期から「世界を目指す」ことを考え、それを実現してきている。このように日本のものが世界に広がって来ており、それを見て、さらにそれについていく人達も多く出てくるだろう。しかし、それが「会社」という組織になってしまうと、とたんに保守的になってしまう。これからの世界を大きく動かす情報通信(IT)の世界では、米国を中心とした世界で、目立った活躍をしている日本企業を、残念ながらほとんど見ない。その結果、1人あたりGDPで世界38位(G7の中で最下位)、デジタル競争力世界31位(スイスIMD調べ)という状況になってしまっている。国際収支は黒字だが、今後さらに重要度が増すデジタル分野では、6兆円を超える赤字、10年前の2.6倍となっている。

 

しかし、シリコンバレーという外から見て、日本企業に、そしてそこで働く日本人に力がないかと言うと、全くそうではない。まずは目の前の日本市場で勝負し、そこで成功したら世界に出よう、という多くの日本企業の考え方に大きな問題がある。日本でもここ10年、多くの人が起業し、スタートアップ企業を取り巻く環境も、かなりよくなってきた。その中には、世界で十分勝負できる技術・製品・サービスを持っている会社も存在する。

 

だが、その中で早い段階から世界を目指そうという会社は、ほんの一握りしか見かけない。日本は、そこそこの市場規模があり、そこでの成功だけでも、ある程度満足出来てしまうかもしれないが、日本で成功してから世界に出たのでは、間に合わず、いずれ日本国内ですら、世界のリーダーとなった企業に凌駕されてしまう日が来る。特に、ここ数年ホットなAI分野や、それを活用した各種分野では、早い段階で世界に出ていくことが、成功の大きな条件となる。「まずは日本から」という発想から、「早い時期から世界を相手にする」と、マインドセットを変えてほしいと願っている。

 

スタートアップ企業が世界に出ていくためには、資金も必要だろう。日本のベンチャーキャピタル(VC)は、シリコンバレーなどに比べると、その出資規模はまだまだ小さいが、それでも10年前に比べ、企業によるコーポレート・ベンチャー投資(CVC)の広がりなども含め、随分増えてきた。しかし、日本のVCには金融系からの人が多く、銀行がお金を貸すときに、ともかく貸し倒れがないようにする、という発想から、大きな成功より、小さくてもいいから失敗しないように、と考えて出資するケースが多いように見られる。

 

その結果、日本のVCは、出資を考えるスタートアップ企業に対し、「まずは日本市場から」とか、「市場拡大よりも、まずは利益が出せることを見せなさい」などと言っているところが、少なくないように見受けられる。これでは、世界に通用するスタートアップ企業は育たない。むしろ、大きく世界に羽ばたけるスタートアップ企業を小さくし、つぶしてしまっているように見える。

 

スタートアップ企業側も、日本のVCで自分たちが世界に羽ばたくことを支援してくれるところが見つからない場合には、早くシリコンバレーなどのVCからの出資にチャレンジすべきだ。いまシリコンバレーのVCの一部は、日本のスタートアップ企業にも目を向けてくれているので、チャンスだ。また、スタートアップ企業が世界で成功するためには、すべてのことを自社だけでするのは難しく、有力なパートナーと組むことも重要だ。そして、そのパートナーも、日本だけでなく、世界をみてパートナーシップを結ぶことを考えるべきだ。

 

日本でスタートアップ企業が増え、それらを支援するアクセラレーターなどが、東京都など自治体の支援もあり、次第に充実してきている。スタートアップ企業に助言する人たちも、「まずは日本から」ではなく、「世界」を見て助言することが、強く望まれる。さもないと、その会社の大きな成長機会を、逆につぶしてしまうことになりかねない。

 

スタートアップ企業だけでなく、日本の大手企業で、すでにグローバルにビジネスを展開している会社でも、いざ新しいことを始めようとすると、「まずは日本市場から」という罠にはまってしまう場合を、多く見かける。これは私の長年の日本大手企業へのコンサルティング経験からも、痛いほど強く感じることだ。大手企業の人達にも、マインドセットの変革が、間違いなく必要だ。

 

中堅中小企業でも、いい技術・製品・サービスを持っており、世界に出せば十分勝負できそうなものも、たくさんある。実際、一般にはあまり名前が知られていない会社で、世界市場で高いシェアを持っている日本企業も存在する。しかし、まだ日本に留まり、世界から見ると眠っている優秀な会社もたくさんある。これらの企業にも、ぜひもう一度、世界を見て、これからの会社の将来を考えてほしい。

 

取り扱う製品・サービスにもよるが、むしろ最初から世界に出たほうが、日本市場で勝負するよりも、成功する確率が高い会社もある。そのような会社でも、日本市場に閉じこもっている場合が多くみられ、とても残念でならない。そのような企業を支援したいと思う、私をはじめ、海外で活動する日本人は少なくないと思うが、まずはその会社をリードする人が「世界に出て行こう」と考えてくれないと、話は進まない。世界に出るというのは、市場として世界に売り込む、ということにとどまらず、シリコンバレーなど海外で出資を受ける、また海外企業とパートナーシップを早い段階で結ぶ、というものも含まれる。

 

なかには、日本国内でのみビジネスを行ったほうがいいものも、あることは確かだ。しかし、まずは「自社の技術・製品・サービスは、世界で勝負できる、勝負すべきものかどうか」という問いかけを行い、確認をしてほしい。そして、そこで「世界を見てビジネスを行うべき」という結論になったら、躊躇なく世界に邁進してほしい。

 

最後に、もう一つ最近心配なのは、日本の学生や若者が海外留学など、海外にあまり出たがらない人が多いという点だ。確かにいまの日本は、世界の他国に比べれば、安全安心で生活を送ることができ、生活に苦しんでいる人が大多数という国にはなっていない。しかし、一人あたりGDPが世界38位ということを見ても、日本は、このままいくと危ない状況にあると、外からは見える。つまり釜の中の「ゆでガエル」状態にあり、まだ温度はそれほど高くないので、のんびりしているが、次第にそのお湯の温度は高くなってきており、気が付いたらそこから抜けることもできず、死んでしまう可能性もあるということだ。そのようなことが、日本の中にいるだけでは、見えない心配がある。若い人達には、ぜひ海外留学などで一度海外に出てみてほしい。そうすると、世界の、そして日本の見え方も大きく変わる。日本の問題点だけでなく、いい点も見えてくる。それを理解すると、日本にある、どんなものが世界で通用するかも、見えてくる。

 

今年はぜひ、「まずは日本から」という殻を破り、世界を目指してほしいと願っている。マインドセットを変えられれば、日本の将来は明るい。

 

黒田 豊

2025年1月

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