YouTube 20才
YouTubeが2月14日で20才を迎えた。アクセス数は、GoogleのSearchに続く2位。今年1月現在、世界でアクティブ・ユーザー数は、月間27億を超えている。毎分500時間分のビデオがアップロードされており、世界中の人々がYouTubeでビデオを見ている時間が10億時間になるという。2024年の広告収入は361億ドル。さらにサブスクリプション収入は150億ドルあり、これは800万を超えるYouTube TVユーザー、1.25億を超えるYouTube Music Premiumユーザー、そして、広告の入らないYouTube Premiumサービス・ユーザーなどからの収入だ。
YouTubeが産声を上げたのは2005年、インターネットが普及しはじめた1995年から10年経ったころだ。YouTubeのその後のインターネット発展に対する影響は、極めて大きい。インターネットが始まった当初は、Eメールなどのテキスト情報、そしてウェブサイトでの静止画情報が中心だった。それがYouTubeによって、ビデオの世界に広がった。とはいえ、当時のインターネット接続は、速度が今と比べて大幅に遅く、現在の1/100~1/1000くらいで、ビデオを送信するのも、解像度が比較的低いものを送っていた。また、ビデオコンテンツを多くの人が送信、視聴しはじめると、インターネット全体の許容量から考えて、インターネットがパンクしてしまうのではないかという議論が巻き起こった。幸い、その後の経過を見ると、インターネットの回線増設や高速化により、インターネットは大きな問題もなく、発展していった。
YouTubeは当初から、一般の人達が誰でもビデオコンテンツをアップロードできるメディアとして、大きく広がった。これは地上波、ケーブルテレビ、衛星放送などの放送の枠を超え、いつでもだれでもビデオコンテンツを作成し、世界に発信できる大きなツールを、インターネットにつながる世界中の人々に提供した。それは20年たった今も、そのまま続いている。
YouTubeで火が付いたインターネットによるビデオ配信は、これまで放送という限られた媒体でビジネスを行っていたテレビ局や、ケーブルテレビ会社などの放送インフラ企業、さらにそれらを通してビデオコンテンツを提供するメディア各社に、大きな変革をもたらした。テレビ局などは、持っている番組コンテンツを放送という媒体経由だけでなく、インターネット経由で配信するようになった。いわゆるOTT(Over-the-Top)の始まりだ。そして、いまやテレビ番組は、インターネット経由で見るという人が、かなりの数になっている。各国で事情は異なるが、米国では、これまでのケーブルテレビなどを解約するCord Cuttingが広がり、インターネット経由での視聴のほうが多くなっている。
YouTube経由でのビデオコンテンツ配信は、これまでになかった、たくさんのものを世の中に生み出してきた。災害など、放送局の人がいないところで起こったことも、一般の人がそれを撮影し、YouTubeに乗せて、リアルタイムで世界に広げることができるようになった。また、有名人でない一般の人のビデオが人気を博すと、そこから有名人になったり、大勢の人が視聴すれば、お金を稼ぐことができるような仕組みもできた。そして、それを副業、さらには本業とする、YouTuberと呼ばれる人達も生まれた。現在は世界で5000万人のYouTuberがいると言われ、そのうちの約4%、25人に1人は、年収が10万ドル(約1500万円)を超えているという。
YouTubeには、たくさんのポジティブな面がある一方、課題も少なくない。初期のころ大きな問題となったのは、テレビ局などが作成した著作物を、誰かが無断でYouTube上にアップしてしまい、著作権の無法地帯になってしまったことだ。そのため当初、YouTubeは既存メディアから敵視された。しかし、その後、著作物にコンテンツIDを付け、それがYouTube上にアップされたら違法であることがわかるようにするなど、いろいろな防止策が施された。テレビ局なども、自らインターネット経由でビデオコンテンツを配信するようになったので、ユーザーも違法なYouTube上のコンテンツを探さなくてもよくなり、この問題は大きく解決に向かった。
そして、今は逆にテレビや映画のコンテンツの一部を、テレビ局などが自らYouTube上で無料配信して宣伝するなど、業界関係者にとっても欠かせないものとなっている。さらに、YouTube上に有料チャンネルを作り、最近テレビをあまり見なくなった若者を取り込んだり、インターネットの力を使って一気に世界市場にコンテンツを広めるなど、テレビ局やビデオコンテンツを持つ企業にとって、YouTubeはビジネス拡大の大きなツールとなっている。野球の米大リーグ、アメリカン・フットボールのNFLなどが、有料で世界にビデオ・コンテンツを提供しているのがいい例だ。
インターネット経由のビデオ配信では、一方通行ではなく、インタラクティブにユーザーがほしい情報を得られるなど、これまでのテレビではできないことも、たくさん提供することができる。これらのサービスは、もちろんYouTube経由ではなく、それぞれの会社が独自に提供することもでき、実際にそれも行われているが、YouTube経由でコンテンツを提供すれば、何十億という既存ユーザーに即座にアクセスできるところが、YouTubeの大きな魅力だ。
YouTubeには、著作権以外にも、いろいろ課題はある。YouTubeは、インターネットにつながりさえすれば、誰でもアクセスできるので、子供が見るべきでないコンテンツを見てしまったり、犯罪に使われるような、あるいは犯罪を誘発するようなコンテンツも、放っておくとYouTube上にアップされてしまう。また、最近はAIによって動画コンテンツを作成することも、比較的簡単にできるようになったので、偽情報の拡散に使われる危険性もはらむ。YouTube自身も、いろいろな対策を講じているが、そこには限界もあり、ユーザー個人個人が、十分注意しながらYouTubeを利用する必要がある。
このように、いまや生活の一部と言えるほど世の中に広がっているYouTubeだが、サービス開始からかなり長い間、利益を出すのに苦しんでいた状況がある。利用ユーザー数は、当初から急激な伸びを示していたが、それに合わせてコストも上昇し、それに見合った収入が追いつかない、という状況が続いていた。実際、GoogleがYouTubeを買収したのは2006年11月だが、Google(その後、親会社のAlphabet)は、YouTubeの売上や利益について、長い間沈黙を続け、初めて売上の数字を明らかにしたのは、比較的最近の2020年だ。利益については、まだ謎のままだ。
Google(後のAlphabet)は、資金豊富な大きな会社だったので、YouTubeの将来を見据え、売上、利益が上がって来るのを待つ余裕があった。しかし、それ以前の期間は、2年弱とはいえ、YouTubeを資金的に支えたのは、シリコンバレーなどのベンチャーキャピタル(VC)だ。具体的には、2005年11月に450万ドル、2006年4月に800万ドルが投資されている。そして、これらのVCは、当時のYouTubeが無料サービスとしてユーザーを一気に増やすことが最善と考えた。その結果、YouTubeはユーザー数を増やし続け、2006年11月に16.5億ドルという、投資額の100倍をはるかに超える金額で買収されることになった。このような、思い切りのいい米国のVCの考え方が、YouTubeのような、多少時間はかかっても、大きな成功をつかむ会社を作ったと言える。
私は最近、日本のスタートアップ企業の支援も行っているが、日本のVCが早い時期から利益を出すことをスタートアップ企業に求め、そのような方向に進まないと資金を提供しない傾向が強いことを、強く懸念している。どうやら日本のVCは金融系の人が多く、銀行がお金を貸す感覚で、将来の大きな成功よりも、小さくてもいいから確実にお金が取り戻せることに重点を置いているように見える。もし、米国のVCがYouTubeに対し、早い時期から利益を出すことを求め、ユーザー数拡大を後回しにして、有料化などの道をたどっていたら、どうなっていただろう。Googleに買収される前に、YouTubeがつぶれてしまっていた可能性も十分ある。日本のVCには、短期的な小さな成功ではなく、少し長い目で見て、大きな成功を期待する形でのスタートアップ投資を、是非お願いしたい。そして、それによって、日本から世界的な企業になるスタートアップ企業が生まれることを期待したい。
黒田 豊
2025年4月
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