バイデン政権の4年とテクノロジー業界

 

今年も残り1ヶ月となった。11月には米大統領選挙があり、来年のトランプ氏返り咲きが決まった。トランプ氏に加え、米議会上下両院とも共和党が勝利し、来年から大きな変化の起こる4年になるだろう。その予想はさておき、これまでのバイデン政権下4年間の、テクノロジー業界の動きを振り返ってみたい。

 

バイデン政権が発足したのは2021年1月。2020年春からのコロナ禍が、少し落ち着きを見せ始めたときだ。コロナ禍でレストランや商店は大きな打撃を受け、それを助けるため、バイデン政権も多くの資金を拠出した。テクノロジー業界も、コロナ禍が始まった当初は、先行き不透明で警戒感が強かったが、コロナ禍で仕事を進める上で、特に情報技術(IT)が不可欠との認識が急速に広まり、コロナ禍はテクノロジー業界、なかでもIT業界にとって、大きな追い風となった。

 

その結果、市場に大量につぎ込まれた資金は株式市場に向かい、IT企業の株価を大きく上昇させた。スタートアップ企業でも、IT系企業は多くの投資を呼び込み、ベンチャー業界も活況を呈した。そして、2021年のベンチャー投資金額は2020年の倍近くとなった。さらに、これらスタートアップ企業の株式上場数も飛躍的に伸びた。大手IT企業GAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoft)の業績は急速に伸び、売上・利益とも2021―2022年にかけ、大きく伸びた。

 

IT各社は、この好況のビジネス・チャンスを逃さないよう、社員数も大幅に増やした。働き方もコロナ禍で多くの企業がリモートワークとなり、その結果、IT活用によるビジネスモデル変革、いわゆるデジタル・トランスフォーメーションも加速し、未来が予想よりも早く来た、と言われるようになった。

 

順調に見えたIT業界だったが、2022年後半あたりから状況は大きく変わり始めた。IT大手各社とも、コロナ禍でのIT活況がしばらく続くと思い、優秀なエンジニア等の取り合い状況の中、社員数を増やしていった。しかし、コロナ禍が落ち着き、世の中が正常化に向かうにともない、人員過剰が目につき始めた。その結果、2022年後半から2023年前半にかけて、IT業界を中心にレイオフの大きな波が押し寄せた。AmazonやMetaは2万人以上、GoogleやMicrosoftも1万人以上の人員削減を行った。スタートアップ企業への投資、また新規株式上場も、2023年にはコロナ禍前の水準をさらに下回る状況となった。

 

人員削減でスリム化した各社は、その後業績も回復し、再び株価上昇につながっている。そして、2022年11月に生成AIのChatGPTが登場し、今度はAIブームに火が付いた。その火は今日まで続いており、これは一時的なブームではなく、インターネットがそうであったように、ビジネスのやり方、そして世の中を大きく変える可能性のあるものとの見方が大方だ。生成AIの登場は、ChatGPTを開発したOpenAIだけでなく、その開発や活用に重要な役割を果たすGPU(Graphics Processing Unit)で圧倒的な強みを持つ、Nvidiaという新しいスターを生んだ。Nvidiaは一時GAFAMをしのぐ時価総額となり、いまもApple、Microsoftと首位を争っている。

 

AI、なかでも生成AIは、世の中を変えるほどの影響力があるものだが、同時にその使い方を間違えれば、世の中を間違った方向に向かわせてしまう可能性もあり、AIに対する規制という話もテクノロジー業界を含め、世界各地で議論を呼び起こしている。これに対し、バイデン政権は、ある程度の規制が必要との立場を取っている。一方、シリコンバレーなどのテクノロジー業界は、ある程度の規制は必要だが、過度な規制はテクノロジーの発展の障害となるとの考えもあり、意見が分かれているところがある。

 

大統領選では、民主党支持が多いのがテクノロジー業界の常だが、今回はバイデン支持とトランプ支持に分かれてしまったところがある。その一因として、民主党によるAI、さらにBitcoinなどの仮想通貨など、テクノロジーへの規制への対応が上げられる。大統領選の勝負を決めた要因については、いろいろ評価がでているが、直近の要因としては、物価高に苦しむ中低所得者が、トランプ氏の「4年前に比べ、生活はよくなっているか?」という問いかけに、Noという返事が多かったことが一つ上げられる。

 

バイデン政権は、テクノロジーの規制をはじめ、環境対策のための再生可能エネルギーの推進、世界の民主主義を守るためのウクライナ支援など、個人的にはどれも長期的に必要なことのように感じるが、多くの米国民にとっては、そのような先のことより今日の生活、物価高をなんとかしてほしい、という選択になったのではないかと思う。

 

来年1月20日に始まるトランプ新政権。上下両院も共和党が多数を占め、いろいろなところで、バイデン政権がこの4年行ってきたことに対する、ちゃぶ台返しが起こることは間違いない。トランプ新政権下には、イーロン・マスクというTeslaの電気自動車で大きな利益を上げ、SpaceXで宇宙ビジネスを、Neuralinkで脳インプラント・チップ・ビジネスを進め、さらに人型ロボットのOptimus、AIでもxAIで先行するOpenAIなどを追いかけようとしている人が、トランプ氏に極めて近いところにいる。

 

そのことは、テクノロジーに対する規制を緩め、その発展を推し進める上では、おそらくプラスになるだろう。中国がテクノロジーでも米国を追い上げている中、テクノロジーでの戦いに勝つためには、規制でテクノロジーの発展を安全かつゆっくりと進めることよりも、テクノロジーの発展を加速するほうが大事なのかもしれない。ただ、規制のゆるんだテクノロジーの発展には、大きなリスクもあり、使う側が自己責任をもってうまく使っていく必要がある。これからの4年間、米国の動向を見ながら、どのように行動していくか。日本、そして日本企業は、よく考える必要がある。

 

黒田 豊

2024年12月

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