Googleのサーチ・ビジネスに黄信号?

 

サーチ・ビジネスで圧倒的な強さを誇り、それによって巨大企業となったGoogle。以前からMicrosoftのBingなどが、競合としてサーチ・サービスを提供しているが、Googleのサーチ市場でのシェアは、いまでも91%を越え、2位のBingのシェアは4%にも及ばない。そのGoogleのサーチ・ビジネスに、うっすらと黄信号が灯りはじめた。この黄信号が、本格的に点燈し、さらに赤信号になるかは、まだこれからを見る必要があるが、これまでのように、Google1社の独占状態が、今後も続くかどうか、少し霧がかかってきたことは事実だ。具体的に何が起こっているか、みてみよう。

 

1つは、生成AIの出現により出てきた競合だ。いま最も注目されている競合の一つは、Perplexity AIだ。特に学生などの若者に人気があり、ユーザーの半数以上は34才以下だ。その売り文句は「AI-Driven Search Engine(AIをベースにしたサーチエンジン)」で、対話型のサーチエンジンだ。 Googleによるサーチとの違いは、いくつかあるが、その一つはAIを使って、インタラクティブに自然言語の文章で、質問できるところがある。そして、検索結果も、ウェブサイトのURL列挙に加え、結果のまとめのような文章を作ってくれ、問いかけた質問に返事をする形をとっている。ユーザーが独自にアップロードしたファイルのサーチをする機能や、続きの質問をする機能、リアルタイムな情報を提供する機能などもある。広告を入れないことも特徴の一つだが、これについては近い将来、広告を入れるビジネスモデルも検討しているとのことで、それが実施されれば、この点ではGoogleと変わらないことになる。

 

Perplexity AIは、2022年8月に創業したばかりのスタートアップだが、すでに月間アクティブ・ユーザー数は、1500万を超えている。無料版と有料版($20/月)があり、無料版ではPerplexity AI独自のLLM (Large Language Model:大規模言語モデル)を利用しているが、有料版では、GPT-4、Claude 3.5、Mistral Large、Llama 3など外部のLLMも利用している。すでに$165 mil.(約240億円)の資金を調達しており、企業価値は$3 bil.(約4,350億円)に達し、いわゆるユニコーンの仲間入りをしている。出資者には、Amazon創設者のJeff Bezos、AIチップで時価総額がAppleやMicrosoftを一時抜いてトップになったNvidia、ソフトバンクも含まれる。Perplexity AIが、今後Googleの脅威となるほどに成長するかは、まだ予測が難しいが、いま、Googleの対抗馬としての期待は少なからずある。

 

Perplexity AIからの競合に加え、この7月25日、ChatGPTで有名なOpenAIが、やはり生成AIを活用したSearchGPTを発表した。ChatGPTは2022年11月の発表以来、生成AIのトップランナーとして、すでにユーザー数は2億を超えていると言われている(正式なユーザー数の発表は、最近出ていない)。これまでもChatGPTで、自然言語でいろいろ質問することはできるが、Googleのサーチに比べ、情報が最新でなかったり、またどこのサイトの情報を使って結果を出しているかわからないので、回答の正確性に不安があったり、資料作成時に参照資料を書けないなどの問題があった。実際、不正確な結果の場合もあり、利用者はそのことを承知の上で利用する必要がある。私もChatGPTで何か聞いた答の正確性を確認するため、再度Googleでサーチをかけ、信頼できそうなウェブサイトの情報で確かめる場合もあった。

 

それが、今回のSearchGPTでは、どこのサイトの情報かなども知らせてくれるので、情報の信頼性の確認もしやすくなり、結果を何かのレポートに入れる場合、参照文献を明示することも可能になる。早速使ってみたいところだが、残念ながらその利用はテストユーザー1,000名ほどに限られており、実際に使えるようになるまでには、もうしばらく待つ必要がある。一方、MicrosoftもサーチエンジンのBingに、パートナー企業OpenAIの技術を加え、Copilotとして、自然言語によるユーザーとのやり取りを提供しはじめている。

 

これらAIを使った自然言語による情報検索、結果の文章によるサマリーに対抗するため、Googleもサーチ結果にAI Overviewという機能を、この5月に付け加え、サーチ結果のサマリーを文章で提供することを始めた。便利でいい機能なのだが、少なくとも発表当初は、そのサマリーに大きな間違いがいくつも出てしまった。たとえば、「石(rock)を一日いくつ食べればいいか?」というおかしな質問をしたところ、「石には、たくさんのミネラルやビタミンが含まれているので、少なくとも毎日小さな石を一つは食べるべき」などという結果サマリーが出てきてしまった。他にもいろいろとおかしな結果が出て、SNSで話題となってしまった。いま同じサーチをすると、このような間違ったサマリーは出て来ないが、質問の最後にAIと付け加えると、まだ、以前と同じ、間違った答が出てきてしまう状況だ。

 

OpenAIも、このようなGoogleのAI Overviewの結果、さらに自社のChatGPTでも、質問に対する答が正しくない場合もあるので、SearchGPTを一般ユーザーに開放するまでには、十分なテストが必要と考えているようだ。このように、自然言語を使ったサーチや、その結果の文章によるサマリーは、これからさらに精度を高める必要があるが、Googleのサーチ・ビジネスに対する対抗馬がでてきた、という現実は見逃せない。あとは、どのサーチ・サービスを使えば、最も信頼性が高く、わかり易い結果が早く得られるかによって、将来ユーザーが何を使うかが決まってくる。

 

サーチ・サービスが始まった1990年代当初、Googleは世の中で最初のサーチエンジンというわけではなかった。そのため、Googleは最初の資金調達にも、かなり苦労したようだ。しかし、Googleによるサーチ結果のほうが、他のサーチエンジンに比べ、ユーザーのほしい情報が得られ易いということで、ほとんどのユーザーはサーチをするとき、Googleを使うようになった。そのGoogleが、今度は生成AI技術を使った、対話型のサーチという新しい分野で、サーチ市場での地位を脅かされ始めている。サーチ市場におけるGoogleの一人横綱時代に、変化の兆しがあることは、間違いない。

 

さて、Googleのサーチ・ビジネスに黄信号を灯す、もう一つの要因がある。それは、米国やヨーロッパなどで起こっている独占禁止法違反に関する訴えだ。米国での訴訟は、米司法省からのもので、2023年から議論されていたが、その一審がこの8月5日、発表された。Googleは独占禁止法に違反している、との結論だ。内容を見ると、Googleは、例えばAppleに対し、年$26 bil.(約3.8兆円)もの金額を支払い、Googleのサーチをスマートフォン上の、目立つ場所に置いており、その結果、競合を阻害している、というものだ。Apple以外にも、Samsungや、他のスマートフォン・メーカーにも、同様のことを行っているとのことだ。判事は、この独占状態を解決するため、Googleに何を求めるか、明確にしていないが、サーチ・ビジネスの分社化を含め、検討がされているという。Googleは当然控訴の予定だが、サーチ・ビジネスの分社化などということになると、市場は大きく変わってしまう。この先どうなっていくか、見通せない状況だ。

 

これまでサーチ市場シェアを90%以上持ち続け、その大きな力によって成長してきたGoogle。これに対し、生成AIを使った新たな自然言語による対話型サーチで、市場の再構築を迫る競合他社。そして米国やヨーロッパからの独占禁止法違反の訴え。サーチ・サービス市場が、これからどう変化していくか、そしてGoogleはどのような会社になっていくか、目が離せない状況が続きそうだ。

 

黒田 豊

2024年9月

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