Xに改名されたTwitter、これからどうなる? 

 

Twitterという名前が、正式に消え、Xとなった。会社名の登録は、すでに買収時にElon Muskの持っているX Corpに編入されていたが、サービス名としては、Twitterがそのまま使われていた。それが7月23日、MuskのTweetにより、正式に消えた。MuskからのTweetは、“bid adieu to the Twitter brand and, gradually, all the birds.”だ。サンフランシスコにある本社のTwitterのロゴである青い鳥のマークは外され、大きなXのロゴが建物の上に飾られた。

 

MuskによるTwitterの買収劇は、2022年4月14日に始まった。彼の目的は、投稿内容によってはポストされないようにTwitter がある種の検閲を行っていることや、Trump前大統領を含む何人かのアカウントを削除したことに不満を持ち、もっと言論の自由を拡大するため、ということだった。最初買収されることに反対していたTwitter社は、大手株主の意向もあり、Muskによる買収に応じることにした。ところが今度はMuskのほうがTwitterから出された会社の状況の内容に問題があるといい、5月13日には買収を中断すると言い出し、7月8日には、正式に買収を取りやめると発表した。おそらくMuskはTwitterの状況を詳細に分析した結果、買収するべきではないという結論になったため、このような行動を起こしたものと思われる。

 

しかし、一旦満足の行く価格での買収に合意したTwitter側は、買収取り消しは無効と訴訟を7月12日に起こし対抗した。これに対し、Muskは裁判の直前に、裁判での勝ち目がないと判断したのか、予定どおり買収することとし、2022年10月27日、440億ドルの大型買収が成立した。このとき、MuskはTwitterを、いまのままの形ではなく、Xという「なんでもするアプリ(everything app)」にすると述べている。そのときのMuskのTweetは、「鳥は自由になった(the bird is freed)」だ。

 

買収成立直後、Muskは会社に大ナタを振るった。まずCEO、CFOを含む多くのエグゼクティブを解雇。11月4日には、社員の約半分を解雇した。そして2週間後には、残った社員に向け、MuskのTwitter2.0のビジョンに沿って働くか、退社するようにとのメッセージを送り、さらに多くの社員が退社していった。Muskの買収前には8,000人近くいた社員は、4月にはその1/4以下の1,500人ほどに縮小したという。

 

MuskはTwitterの言論の自由を拡大するため、検閲の方法を緩め、Trump前大統領を含む多くの停止されていたアカウントを復活させた。さらに、黒字体質に転換させるため、これまですべて無料だったものを、一部有料サブスクリプション(毎月$8)のTwitter Blueを開始し、ユーザーからの収入を見込んでいる。ただ、これまでのところ、有料会員になったのは、全体の1%にも満たないと言われ、前途多難だ。さらに、Muskが検閲方法を緩めたことにより、偽情報や人種差別発言などが今後横行することを恐れ、これまでTwitterに広告を出していた大手企業が次々に撤退し、様子見に入った。実際、右翼団体などは、どれくらいなら検閲されないか試している模様で、偽情報や人種差別発言などは、以前より増えている模様だ。

 

その結果、Twitterの売上の90%以上と言われる広告収入は、Muskによる買収前に比べ、半減しているという。その後、自分がCEOに残るべきかTwitterユーザーに投票を呼びかけ、去るべきという意見が多かったためCEOを退任し、新しいCEOには、もとNBCUniversalで広告部門を担当していたYaccarinoがこの6月からCEOとなり、広告収入の回復を目指している。ある意味適材の人ともいえるが、人に対する態度をコロコロ変えると言われるMuskの下で、どれくらい仕事を続けられるかは不透明だ。また、Twitter からXへのブランド変更は、ブランド価値を数十億ドル低下させた、という業界の人の意見もあり、前途多難な船出だ。

 

そして、7月1日、Twitterはさらにユーザーに対し、1日に読める投稿数を制限する措置をとった。有料のTwitter Blueメンバーも対象だが、その制限数は大きく異なる。一般 ユーザー600に対し、Twitter Blueユーザーは6,000だ。この発表にユーザーが激しく抗議したため、その後その制限数は多少緩和されたが、有料、無料ユーザーの違いは変わらない。

 

このような混乱を見て、Facebook、Instagramなどを持つMetaが動いた。MuskのTwitter 買収が決まって間もなくの今年1月から、社内で秘密プロジェクト92を立ち上げ、Twitterに対抗するサービスを準備し始めていた。当初は7月末に発表の予定だったが、Twitterの投稿数制限に対するユーザーの大きな不満を見て、Metaは急遽その発表を早め、7月5日にTwitter対抗のThreadsを発表した。世界100カ国以上で使用可能となったが、プライバシー等の問題で、EU各国は現時点で含まれていない。

 

Threadsの最初の出足は極めて順調だ。Threadsへの登録者数は、最初の数時間で1000万、24時間で3000万にもなった。そして5日間で1億を超え、10日間で1.5億となった。Twitter(現X)のアクティブ・ユーザー数が約3.6億だと推定されることを考えると、Twitter(X)がかなり脅威に感じる数字だ。そのため、Twitter(X)は、Metaを著作権侵害で訴えるかもしれないというレターを送っている。また、これは昨年11月に発表され、大きな話題となっているOpenAI社のChatGPTが最初の1000万ユーザーを得るのにかかった40日を大幅に超える速さだ。

 

Threadsがこれほどの速さで広がったのには、もちろん理由がある。Muskの個人持ちもののようになったTwitter(X)に嫌気がさし、別なものを探しはじめた人が多かったのはもちろんだが、Threadsは、すでに10億を超えるアクティブユーザーを持つInstagramの追加機能の形を取ったため、新たな登録がとても簡単なことがある。Twitterに対抗する別なサービスは、すでにいくつかあり、Twitter創業者のJack DorseyのはじめたBlueskyや、Mastodonなどいくつかあり、MuskによるTwitterの混乱を受け、それぞれユーザー数を増やしているが、それでもその数は限られており、Blueskyで100万、Mastodonで210万アクティブ・ユーザー程度の状況だ。SNSの世界では、どれくらいの人がそれを使っているかで、その価値が大きく変わるため、ゼロから立ち上げるのは、なかなか難しい。これに対し、Metaは既存サービスであるInstagramのユーザーベースを活用し、この大きな壁をとてもうまく乗り越えている。ただし、InstagramとThreadsは性格がかなり異なるため、別々にしてほしいというユーザーの声もあり、今後は変更の可能性もある。

 

このように、Meta自身が想像していたよりも早いスピードで広まったThreadsだが、そのままの勢いで一気にTwitterに追いつく、というほど甘い状況ではない。すでに書いたように、Threadsは当初予定より早めて発表したこともあり、まだ機能的にはベーシックなものとなっている。Instagramの一部ということで、Twitterにない機能があったり、Twitterの投稿文字数が280文字までなのに対し、500文字までと大きいなど、Twitterより優位な面もあるが、Twitterにあって、Threadsにまだない機能もいろいろ存在する。他ユーザーへの直接メッセージ(DM)、投稿したものの編集機能など、いくつかほしい機能が抜けている。Metaもそれは十分承知しており、Threadsにどんどん機能を追加していく予定と述べている。このような状況のため、Threadsに登録し、使ってみたものの、まだしばらく様子を見ようという人も多い。アクティブユーザー数も、7/7のピーク時に比べ、70%ダウンの1300万くらいになっているようだ。

 

さて、このような状況で、Twitter(X)のこれからは、どうなっていくだろうか。いくつかの可能性を考えることができる。一つはTwitter(X)のユーザーが、このままとどまり、Twitter(X)を使い続け、Muskの考えるeverything appに向け少しずつ前進するというシナリオだ。Muskにとっては理想的なシナリオだが、ここに向かうには、いろいろな障害がある。

 

Muskがオーナーになってのち、Twitter(X)でいろいろ問題がでても、それが一体ソフトウェアのバグのせいなのか、新たなやり方なのかがわからない、ということがある。これはTwitter(X)がいろいろな変更を加えるとき、ユーザーへの事前連絡が何もなく行われる場合が、Musk のもとでは多いからだ。このことにユーザーは大きな不満を持っている。

 

また、言論の自由を拡大した結果、偽情報や人種差別発言などが増えることに不安を感じている人も少なくない。これまで広告を出していた企業が、今後安心して広告を出せるようなプラットフォームになるのかどうかは、大きな課題だ。有料サブスクリプションや、読める投稿数の制限についても、ユーザーがどこまでついてくるか、大きな疑問が残る。そして、社員数が1/4以下になってしまった状況で、適切なコントロールが本当にできるのか、この疑問にも答える必要がある。これらの障害を乗り越えながら、赤字体質からの脱却も必須だ。

 

2つ目の可能性としては、MuskのもとでのTwitter(X)に嫌気がさし、ユーザーがどんどん逃げていき、Twitterが衰退するシナリオだ。このようになる条件としては、有力競合サービスであるThreadsが、現在のTwitter(X)に匹敵する機能を加え、多くのユーザーがTwitter(X)からThreadsに移ってもいいと思い、実際大きな移動が起こる必要がある。Threadsが機能強化にあまり時間をかけていると、Twitter(X)がユーザーが受け入れられるレベルのサービスにしていくことも考えられ、時間の勝負ともいえる。

 

3つ目の可能性としては、Twitter(X)に対し、いろいろな改革を行っても、今後うまく行きそうになく、このままでは赤字の垂れ流しが続くとMuskが判断し、早々に投資会社かどこかにTwitter(X)を売却することも十分考えられる。そもそもMuskはSpace XやTeslaなど、ほかにもっと大きなものを抱えているので。ただし、Twitter(X)の買収に魅力を感じる人/会社を見つける必要があり、そのためには、ユーザーがまだTwitter(X)に付いているうちでないと、Twitter(X)の価値がなくなってしまう。上に述べた2つ目のシナリオで、ユーザーがどんどんTwitter(X)を離れだしてからでは、Twitter(X)はその幕を閉じるしかなくなる。

 

さて、これらの可能性、あるいはそれ以外の道のどこにTwitter(X)は向かって行くのか。Twitter(X)のユーザーも、しばらくはTwitter(X)とThreadsの動きなどを見ながら、他の人達がThreadsかどこかに移動するかどうかを見て、判断することになるだろう。SNS業界の将来にかかわることで、今後の動向を注目したい。

 
黒田 豊

2023年8月

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