Eコマース活況の中、Amazonの悩み

新型コロナウィルスCOVID-19流行の収束が、まだ見えて来ない状況でも、人々やビジネスを支援するIT企業の動きについて、先月のコラムで紹介した。その中の一社がAmazonで、クラウド・・コンピューティング・サービス、そしてEコマースで需要が急増している話をした。実際、1~3月の第1四半期の売上は、前年同期の26%アップ、株価も4月30日現在$2,474.00と、最近の底値だった3月12日の$1,676.61に比べ47.6%アップ、今年の高値だった2月12日の$2,161.00よりも14.5%アップしている。今回のウィルス騒動が、逆風ではなく、むしろ追い風になっているAmazonだが、必ずしもすべてが順調というわけではない。

クラウド・サービスは、特に大きな問題が出ているという話はないが、問題はEコマースだ。商品購入のためのアクセス数は、大体クリスマス・シーズンの最も忙しい時期と同じくらいとのことだ。年末の繁忙期は予想できるので、臨時に多くの人を雇うなど、事前に十分準備し、クリスマス前に贈り物が届くように体制を整えるので、大きな問題を起こさず対応が出来ている。

しかし、今回の新型コロナウィルスによる急激な需要増加は、全く予期せぬことで、平常時の体制のところに、突然クリスマスが来てしまったという状況で、Amazon内部でも大きな混乱が起きているようだ。具体的に、3月後半までの1ヵ月の売上は、前年同期に比べ、家庭用品で1181%、咳や風邪関連商品で862%、ハンドウォッシュで506%と、急激に増加している。当然、倉庫で出荷作業をする人や、配送の人が足りなくなる。それだけなら人を増やせば済むことだが、今回はそれだけではすまない状況になっている。

それは、今回は社員の健康に大きく影響する問題だからだ。倉庫での作業は、ときに、あるいはしばしば隣の人の近くで働く必要があり、米国で言われ続けている、Social Distance、6フィート(1.8メートル)の距離が取れない、という苦情が働く人たちから出ている。そして、当初はマスクや消毒のためのシートなども不十分だったようだ。そのため、誰か咳をするような人がいた、いくつかの倉庫では、感染を恐れた社員の不就労が起き、南カリフォルニアのある倉庫では、社員の約6割が出社しなかった日もあったという。商品の注文が大量に来て、それでなくても人が足りない状況で、社員の不就労が起こってしまったので、注文から配送までに、長い時間がかかるようになってしまった。

Amazonでは、年間$119を支払ってPrime会員になれば、Prime対象商品は送料無料、そして1~2日以内には到着、ということになっているが、とてもその条件を満たすことができなくなってしまった。そのためAmazonは、新型コロナウィルス感染拡大環境下で必要不可欠(Essential)と思われる、ヘルスケア関連商品、消毒関連商品、日持ちのする食料品など以外の注文の配送は後回しにすると宣言し、それらについては、数週間、あるいは1ヵ月後の配送になるとのことだった。

このような状況のため、Amazonでは急遽倉庫や配送担当の社員を10万人募集したことは、先月のコラムに書いたとおりだ。そして、その10万人を雇用した後、まだ人が足りないということで、さらに75,000人を追加採用すると発表している。倉庫などでの衛生環境も、いまは出社時に体温を測ったり、マスクを配ったり、消毒液を準備するなど、ようやく整ってきて、大量の注文にも、ある程度対応できるようになってきた。そのため、今回のウィルス騒動で必要不可欠と考えられるもの以外についても、短期間で配送できるようになってきた。ただ、そのためのコストも上昇し、1~3月の第1四半期の利益は、売上が大きく伸びたにもかかわらず、前年同期から29%ダウンしている。

問題は、まだある。まず、消費者がほしいと思うトイレット・ペーパーやマスク、衛生関連商品などは、当初それらを買い占めて高額で再販する業者や、不良品を販売するサードパーティなどが現れたが、Amazonは彼らを排除することができなかった。その後、高額の再販や不良品を排除したが、その結果、今度はそのような商品はAmazonに行っても買えない、という状況になってしまい、多くの人が「いまほしいもの」が、Amazonでは売り切れて在庫がない、という状況になってしまった。

そのため、人々はやむを得ず、インターネット上の別なサイトで、これらの商品を探すようになってしまった。その原因の一つには、在庫管理などをする仕事を、2010年にはじめた「hands off the wheel」という方式で、人ではなくAI(人工知能)にやってもらうようにしたため、平常時はそれで迅速かつ効率よく対応できたが、今回のような異常事態には対応できなかったことがあるようだ。

このような状況のもと、Amazonは、通常の小売りの常識とは真逆の方針を打ち出してきた。それは、お客に「できるだけ少なく買い物をしてもらう」ことだ。通常なら、少しでも多く、そして高額のものを買ってもらおうと、Amazonからは、商品Aを買った方は商品Bも買ってますよ、というようなメッセージが来て、少しでも買い物を増やしてもらう努力をしてきた。それを今回は取りやめたのだ。また、これからくる母の日、父の日のキャンペーンも取りやめにした。Googleで商品のサーチをしたお客を呼び込むための広告も中止した。さらに、年に1回7月に実施しているPrimeメンバーのための特別セール、Amazon Prime Dayも延期を決め、いつ実施するか未定だ。もちろん、今回のウィルス騒ぎが収まれば、またもとのように、より多くの商品を売ろうとするのだろうが、いまの時点では、このような小売りの常識の逆である、より少なく売る、という方向にシフトしている。

Amazonは、米国Eコマース市場の半分近くを占めるほど大きな存在になっている。その大きな要因の一つは、Amazonの信用であり、Primeメンバーのメリットだ。実際、米国のPrimeメンバー数は、1億1200万とのことで、米国の世帯数1億2900万に迫っている。ほとんどの家がAmazon Primeメンバーになっているということだ。それが、今回の緊急事態で、Amazonとしても対応を準備するのが難しかったとはいえ、Primeメンバーに約束してきたことが守られなかったし、本当にほしいときに、ほしいものがAmazonから手に入らなかった、という記憶が人々に残ってしまうことになる。今回のウィルス騒ぎが収まったとき、Amazonに対する考え方を人々が変えるかどうか、いつになるかわからないが、今回の問題収束後のAmazon、そしてそのユーザーの動向に注目したい。

  黒田 豊

(2020年5月)

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