リオ・オリンピックは、どのように楽しみましたか?

2週間にわたるリオ・オリンピックが、8月21日無事閉会式を迎えた。今回は日本選手の活躍がめざましく、多くのみなさんが楽しんだのではないだろうか? 私は昔からオリンピックが好きで、今回も仕事の合間に、たくさんの競技を楽しむことができた。

さて、みなさんは、どのようにオリンピックを楽しんだだろうか? 日本では、NHKをはじめ、民放各局が日本選手の活躍を中心に、テレビ放送していたが、それを見て楽しんだのだろうか?

昔はオリンピックを楽しむには、テレビのオリンピック放送に出てくるものを見る、というのが一般的だった。いまでもそのようにして、楽しんだ人は多いかもしれない。しかし、私のように米国に住んでいて、日本選手の活躍をたくさん見ようと思うと、それでは十分に楽しむことができない。日本のニュースなども、日本語放送で見ることができるものの、オリンピック関連は放送権の関係で、すべてカットされてしまい、米国の日本語放送局が許可を得たものを、ほんの少しだけ、しかも遅れて見ることができる程度だ。

水泳のようにメインの種目で、かつ米国選手がたくさん活躍するものについては、米国のテレビ局も夜のプライムタイム(ゴールデンタイム)に放送する。しかし、日本選手は活躍するが、米国選手があまり活躍しない柔道、レスリングなどになると、ほとんど見ることができない。

そこで脚光を浴びるのが、インターネット経由によるビデオ配信だ。それを見るためのデバイスも、パソコン、タブレット、スマートフォン、それにテレビ画面でも、インターネット接続できるものや、そうでないものでも簡単な接続機器を使えば、見ることができる。米国のインターネット回線は、日本などに比べると、まだまだ遅いが、それでもビデオ配信技術の発展で、インターネットで配信されたものでも、十分スムーズな映像を楽しむことが出来る。

すでにインターネット経由によるオリンピック競技の配信は、8年前の北京オリンピックでもかなり実施され、4年前のロンドン・オリンピックでは、全種目を生放送してくれていた。ただ、時差の関係で、夜中に起きて見ないといけない場合も多く、私は8年前、4年前は、それほどたくさんの競技をインターネット経由の生放送で見なかった。しかし、今回は時差が米国東海岸だと1時間、西海岸でも4時間だけで、ほとんどの競技が昼間や夜の通常時間帯だったため、たくさんの競技を見ることができた。おかげで、日本が金メダルをとった体操の男子団体と個人総合、水泳、柔道、終了ぎりぎり10秒前からの逆転勝ち金メダルが3試合続いた女子レスリング、バトミントンなどを、生放送で(または仕事の都合で少し時間をずらして)楽しむことができた。

このようにインターネットで多くの競技を見たのは、私だけでなく、他の米国人も少なくなかったようだ。その理由のひとつは、夜8時からはじまるプライムタイム放送は、見やすい時間帯ではあるものの、多くの競技が録画で、すでに結果がわかっているものだった、ということがある。水泳などは一部生放送、と言っていたが、これは東海岸での話しで、西海岸では3時間遅れの録画放送だ。

また、プライムタイムのオリンピック放送は、やたらと多くのコマーシャルが入るため、見ていていらいらしてくる、という理由も多く聞かれた。インターネット配信でも広告は入るが、生放送のため、競技中に入ることはほとんどなく、競技と競技の間に入るので、それほど抵抗感はない。そして、私のような日本人を含め、もともと別な国から来ている人が多い米国では、自国選手の活躍は、インターネット配信で見るしかない人も多いことがあげられる。

8年前、4年前は、インターネット配信でオリンピックを見るには、確か事前登録方法がわかりにくいなど、面倒なことが多く、また、解説も何もなしで映像だけが送られていたように記憶している。一方今回は、事前の面倒な登録もほとんどなく見ることができ、すべての競技かどうかわからないが、簡単な解説も入っており、また見る競技を選ぶのも、以前にくらべ、かなり見やすく、使いやすくなっていた。

その結果、インターネット配信の利用者は格段に増えたようだ。配信時間も、大会6日目までで、すでに10億分(約1,670万時間)を超え、これは4年前のロンドン・オリンピックの232%にあたるとのことだ。テレビ放送については、インターネットのほうに人が流れた影響を含め、視聴者数が18%ほど下がったと報告されている。

テレビ番組がインターネット経由で配信されはじめて、そろそろ10年を越えている。最初はいろいろな不安をかかえながらインターネット配信をはじめたテレビ局も、いまは当然のようにそれを行っている。その後、HuluやNetflix、さらにAmazonなどがインターネット配信専用業者として台頭し、Netflixなどは、いまや日本を含む世界で8300万を越えるユーザーをかかえ、売上70億ドルを誇る大企業になっている。そして、彼らは、単に既存テレビ局の番組をインターネット配信するだけでなく、独自に番組を作りはじめている。Netflixが日本市場参入に際し、芥川賞を取ったばかりの又吉直樹著「火花」を独占テレビ映画化すると発表したのは、記憶に新しい。

また、米大リーグをはじめ、スポーツ団体は、テレビ局に放映権を販売するだけでなく、独自にインターネット経由で有料で試合を配信するなど、インターネット時代に即したコンテンツ提供をどんどん進めている。ビデオ・コンテンツを、いつでもどこでも見たい、高額なケーブルテレビ等の契約はしたくない、という消費者のニーズに対応したものだ。

テレビ番組はテレビ放送で見る、という時代はすでに大きく変わり、オリンピック競技や、大リーグ野球、NFLフットボールの試合、さらにはドラマや音楽イベントなど、あらゆるビデオ・コンテンツがインターネットで配信され、多くの人々がそれを視聴するようになった。テレビ放送は、コンテンツ配信の一つの方法にすぎない、という時代が、いよいよ本格化してきたことを強く感じさせる、今回のリオ・オリンピックだった。

  黒田 豊

(2016年9月)

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