CES2010――進化するテレビ
正月早々、毎年恒例のConsumer Electronics Show (CES) が1/7-10にかけて、ラスベガスで開催された。入場者数がどうなるか懸念されていたが、最初の2日間の合計は、昨年に比べると14.2%増の112,515人だったようだ(4日間の合計が正式発表されるのは、かなり先になる)。実際、初日に行ってみたが、前年よりやや混んでいた、というのが実感だ。
IT関連のビジネスショーとしては、以前、COMDEXという大きなものがあったが、2003年を最後になくなり、その後ITのビジネスショーは、個別分野に分かれた小さなものが多く、ITがConsumer
Electronicsにどんどん入ってきている今日では、CESがITを含めた一大ビジネスショーの観を呈している。CESは2,500を超える企業が出展している大きなビジネスショーなので、たくさんの種類のものが展示されているが、その中で最も注目を引いた、テレビについて書くことにする。
Consumer
Electronicsの大手企業といえば、日本と韓国メーカーが中心だが、どの企業もテレビを全面に押し出した展示をしていた。中でもこぞって展示していたのは3Dテレビだ。いずれもサングラスのようなメガネをつけて見るものだが、昔あった左右色の異なるめがねではなく、一見普通のサングラスとあまり変わらないものなので、着けることに比較的抵抗はない。3Dの質も大分よくなったが、コンテンツによってはまだ多少違和感を感じるものもある。
いづれにしてもテレビメーカーは、次の大きな狙いを3Dに置いていることは間違いない。テレビメーカーだけでなく、半導体大手のIntelも、CEOのOtellini氏のKeynote Speechで、来場者全員に3D用メガネを用意し、3D映像をデモするほどの力の入れようだ。電話(Phone)がSmart
Phoneになってきたのと同様、これからのテレビは3Dになり、さらにいろいろな機能を加えた、Smart TVになると強調していた。
3Dについては、これまで、技術的な問題もさることながら、そもそも製作にお金のかかる3Dのコンテンツが少ない、そのため、3Dを見ることのできる映画館、テレビもあまり存在しないという、いわゆるニワトリとタマゴの問題が起こっていた。しかし、映画館のデジタルシネマ化が広がって3Dが容易になり、最新の3D映画「Avatar」の大成功、また、今年は50ほどの3D映画が予定されており、3Dが映画の世界で広がってきた。そして、今度は家庭でもテレビで3Dを、という流れだ。
今回のCESで、3Dテレビが近々多数発売されることが判明し、これに呼応して、コンテンツの面でも、3D化の動きが活発化している。1月5日には、Sony、Imax、Discovery
Channelの3社が3Dコンテンツのためのテレビ・チャンネルをジョイントベンチャーで立ち上げることを発表。同時に、Disney傘下のスポーツ番組チャンネルのESPNも、今夏のサッカー・ワールドカップを含め、スポーツ番組で3Dコンテンツを配信していくことを発表した。また、衛星放送大手のDIRECTVもPanasonicとのパートナーシップにより、3つの3Dチャンネルを開始すると、その翌日発表した。
3Dコンテンツも3Dを映像するテレビもそろい、いよいよ3D時代到来を思わせる。ただ、3Dを気に入るかどうかは人によるし、人によっては健康上問題が生じる可能性もなくはない。また、当然テレビの価格も上昇するので、今後3Dテレビが市場で広がるかどうかは、専門家の間でも意見の分かれるところだ。
3D以外でも、CESで各テレビメーカーが強調していたものに、消費電力(CO2)削減と、画面の薄さがある。いづれもLEDバックライトを使ったLCDテレビで、LED
TVという呼び方をしている人もいる。特にCO2削減については、従来型モデルとの比較値をテレビの前に表示するなどして強調する動きが多かった。また、前年モデルよりさらに解像度がよくなり、「黒」がきれいに見える等を宣伝しているものもある。
さらに、いくつかのメーカーが出していたものに、より自然な身体の動きによるテレビのリモート操作がある。通常はリモコンのボタンを押してコントロールするが、この新しいものでは、リモコンを上下左右に動かして(または手を上下左右に動かすだけで)、操作する。これは、iPhoneなどのSmart
Phoneで一気に一般化したタッチスクリーン・インターフェースをリモコンに当てはめたものといえる。これに合わせ、画面のほうも、Smart Phoneと同じように、上下左右に動かしてスクロールすることが考えられている。まさにSmart Phoneから学び取った、テレビの新しいユーザー・インターフェースだ。
ちょっと脱線するが、このような身体を使ったユーザー・インターフェースとして、Microsoftは、Natural User Interface (NUI) を開発しており、現在社内で進めているProject
Natalでは、ゲーム機のXbox360にこの機能を年末までに入れようとしている。これを使うと、リモコンを使わず、身体を動かすだけでゲームを楽しむことが出来る、新しいタイプのユーザー・インターフェースとなる。技術的には、3次元カメラを使って、身体の動きを把握する。NintendoのWiiはゲーム用リモコンを動かして操作するものだが、その一歩先を行くものだ。
テレビに話を戻すと、もう一つ注目すべきものは、テレビとインターネットの融合による、テレビからのアプリケーション利用だ。iPhoneが大成功している理由の一つに、10万におよぶアプリケーションが作られ、それが無料だったり、安価に利用できることがある。テレビもその方向に向っている。これまでは、天気予報やいくつかのインターネットのサイトをウィジェットという形でメニュー化し、テレビ上でリモコン操作によって使えるようにしてきたが、それがさらに進化したものだ。
メニュー操作をこれまでのようにボタンを押すことによって行っていたのでは、たくさんのアプリケーションやインターネットサイトをメニューに準備したとき、ほしいものを見つけるための操作が大変だ。しかし、手を動かすだけでテレビのメニューをiPhoneのタッチスクリーンのようにスクロールできたらどうだろう。これなら、多くの項目が入っているメニューでも使いこなすことが出来る。アプリケーションとして、Skypeとのパートナーシップで、テレビで無料のSkypeを使ったビデオ電話をするアプリケーションがあったり、テレビ・メーカーがiPhoneのためのAppleのApp
Storeのような、アプリケーションをそろえたウェブ上の店を構えるなど、動きは活発だ。
テレビは高画質、CO2削減、薄型化などのハードウェア面だけでなく、新たな3Dインターフェース、新たなNUI的なユーザーインターフェース、インターネットを使ったアプリケーションとそのためのウェブ上のApp
Storeの構築、iPhoneなどから学んだメニュー方式など、さまざまな変化が起こっている。もはや、テレビはいままでのテレビではなく、コンピューター化した、ネットワーク化した、新しい機能を満載したテレビになってきた。ただ、同じような機能は、テレビそのものだけでなく、セットトップボックス(STB)、ゲーム機、サードパーティ・ボックスからも提供されようとしており、誰が消費者の心を捉えるか、テレビメーカーにとっても、勝負のしどころだ。
黒田 豊
(2010年2月)
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