テレビでインターネット上のビデオを見る

先月のコラムを読まれた方は、今月も何やら似たタイトルだと思われたかもしれない。先月のコラムは、「さらに進む、インターネットでテレビ番組を見る時代」、今回は「テレビでインターネット上のビデオを見る」ということで、先月の逆、と言ってもいいような内容の話だ。先月の内容が、テレビ番組を「いつでも」「どこでも」見たいというユーザーのわがままを実現するものであったのに対し、今回は、インターネット上のビデオ・コンテンツを、パソコンではなく、家庭の大きなテレビ画面で見たい、というユーザーのわがままに答えるものだ。

先月のような話をすると、何もわざわざテレビ番組をパソコンで見なくてもいいのではないか、という話を、特に年齢層の高い人達から聞く。実際、テレビ番組は居間の大きなテレビ画面で見たほうがいいと思う人のほうが、テレビ番組をパソコンで見たいという人よりも、かなり多いだろう。ただ、「いつでも」「どこでも」見ることができるのであれば、パソコンでもいい、ということだ。今やパソコンの画面もテレビの画面も同じLCDであったり、通信速度も特に日本では十分な速さが確保できるので、インターネット経由でパソコンで見るテレビ番組も、画面品質に、もはや問題はない。実際、日本ではテレビチューナー付のパソコンも広く出回っており、テレビをわざわざ買わずに、パソコンで通常のテレビ放送を見ている人も少なからずいるようだ。

一方、インターネット上のビデオ・コンテンツも、やっぱりパソコンではなく、居間の大きなテレビ画面で見たいと思う人が多いのは自然であり、そのため、それを実現するためのいろいろな機器が販売されているし、いくつかの異なるやり方がある。

一つは、パソコンを操作して、見たいビデオのあるウェブサイトに行き、そのビデオをパソコンに表示する代わりに、パソコンとテレビをつなげ、テレビ画面に表示するものだ。このようにすれば、アクセスはパソコンから行っているので、普通にパソコンでビデオを見るのと同じで、インターネット上のどんなサイトにあるビデオも見ることができる。ただし、この場合は、インターネットにアクセスするための操作をパソコンで行う必要があるし、パソコンとテレビをつなげ、インターフェースを合わせるための機器が必要になる。この操作が結構面倒なのが、この方式の大きな問題だ。

もう一つのやり方は、テレビのリモコン操作によって、簡単にインターネット上のビデオを見る、というものだ。これは操作が簡単なのが大きなメリットだが、パソコンのようなキーボードがテレビのリモコンについているわけではなく、直接ウェブサイトにアクセスするわけではないため、そのウェブサイトと、このサービスを提供する会社間でなんらかの契約が必要となり、限られたウェブサイトへのアクセスしか可能ではない。日本のアクトビラのサービスはこの形と言っていい。

米国でもこのような形で、テレビのリモコンを使って一部ウェブサイト上のビデオ等を見ることができる。テレビ受像機にそのような機能がついているものもあるし、ゲーム機にその機能がついていて、ゲーム機をテレビに接続することにより、その機能を果たすものもある。また、別なサードパーティからの機器により、実現するものもあるし、ケーブルテレビ会社や電話会社のIPTVサービスで、そのようなものを提供している場合もある。

これまでも、このようなサービスは存在し、主にニュースや天気予報を見たり、YouTubeなどを見るのに使われていたが、それほど大きな動きにはなっていなかった。特にビデオという面からいうと、YouTubeが最初に人気となった数年前に、YouTubeをテレビ画面で見たいという話が出て、このようなシステムが出回った。しかし、YouTubeは、ユーザーからアップロードされたビデオがほとんどのため、画質が悪いものが多い。そのため、パソコン画面の一部という小さい画面で見ているうちはまだよかったが、これをテレビの大きな画面に映すと、その画質の悪さから、あまり見たくないという人が多く、このようなシステムは、これまであまり広がらなかった。

ところが、先月のコラムで書いたように、インターネット上に、画質のよいテレビ番組等がどんどん載るようになってきた。また、映画のビデオレンタルを、お店ではなく、通信レンタルやオンラインで行う会社等も、インターネットを使ってストリーミングで映画のレンタルを可能にし、それをテレビ画面で見られるようにしはじめた。これによって、最近、また一段と、このテレビでインターネット上のビデオを見る、ということが注目されてきた。実際、今年初めLas Vegasで行われたConsumer Electronics Show(CES)では、大きな注目を浴びていた。

テレビ番組をインターネットで見ることができ、それがパソコンではなく、テレビ画面で見られるとなれば、まさしく、テレビ番組を、ビデオ予約などなしに、いつでも見たい時に見ることができるようになるわけだ。テレビ番組のオンデマンド放送と言ってもいい。まだ、テレビ番組のインターネットでの配信には、ビデオ・コンテンツ保持者が既存のビジネスを守る立場から、多少の時間差や期限を付けたものもあるが、テレビ番組の見方が大きく変わってきていることは間違いなく、その大きな流れに抗することは、もはや誰にもできない。

これまでのように、テレビ番組をテレビ局が放送している時間に、居間の大きなテレビ画面で見る人がいなくなるわけではないが、インターネット経由でパソコンで、いつでも、どこでも見たり、携帯電話で見たり、放送時間とは違う、自分の好きな時間に大きなテレビ画面で見るなど、その見方は多彩になってきている。何が主流になるということではなく、そのどれもが、ユーザーの、そのときそのときのニーズに合わせて広がっていくだろう。多様化したユーザーニーズに、ようやく機器やサービスが追いつこうとしている、ということだ。

そうなってきたとき、この新しい世界で、コンテンツを持っている会社は、そしてコンテンツを配信している会社は、どのようなビジネスモデルでやっていくべきか、知恵のしぼりどころだ。米国では、その知恵のしぼり合いがここ3年ほど活発に行われている。日本はネットワーク・インフラでは、米国よりはるかに進んだ高速のネットワークがあるにもかかわらず、いまだ著作権等を理由に、その動きが少ないのは、米国から見ると、不思議でならない。新しい時代に、どのようなビジネスモデルが適しているか、まだまだ手探り状態だが、少なくとも、旧来モデルのままに固執することでないことだけは確かだ。

  黒田 豊

(2009年5月)

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