米国大統領選挙とインターネット
11月4日、米国大統領選挙は、民主党オバマ候補の、まさに歴史的な勝利で終わった。その興奮は、テレビを見ていても伝わってきた。オバマ氏の勝利演説も、最初は興奮と感動、緊張が織り交ざったような感じで、いつもと少し違っていたように思えたが、途中からはいつもの調子に戻ったようだ。個人的には、米国も、ようやく8年ぶりに良い選択をしたと思う。金融危機等で暗いムードの世の中に、人々に「CHANGE」の希望の光を与えるような、そんな感じがした。
今回の大統領選挙は異例ずくめだった。民主党は黒人候補のオバマ氏と、女性候補のヒラリー・クリントン氏という、どちらが勝っても、はじめての黒人または女性大統領という流れに早くからなっていた。一方の共和党は、ブッシュ現大統領の不人気で、一匹狼と言われていたマケイン氏が候補となり、劣勢を挽回するための奇策(?)として、女性のペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に起用し、これも共和党が勝てば、はじめての女性副大統領となる展開だった。そして、マケイン氏は、ブッシュ大統領の不人気のため、ついには、私はブッシュとは違う、という言い方までして、自分も「変化」をもたらす大統領候補という方向で、国民の支持を訴えた。
しかし、今回の大統領選挙が異例ずくめだったのは、それだけではない。選挙運動のやり方、選挙運動資金の調達方法にも、大きな変化が起きた。それは、選挙運動へのインターネットの活用であり、インターネットを活用した、草の根運動の広がりだ。「Welcome to Obama for America」と題したオバマ氏のウェブサイト(www.barackobama.com)には、彼の主義主張が掲げられているだけでなく、自らのブログ、多くのビデオ、そして献金のためのページももちろん整っている。そして、大きな貢献をしたのが、その中で作られた数多くの支援者グループだろう。アジア人のグループ、黒人のグループ、海外にいるアメリカ人のグループ、環境保護グループ、女性グループ、退役軍人のグループ、高齢者グループ、そして、子供達や、共和党のグループまでもあり、それらの人たちがそれぞれの立場からオバマ氏を支援した。まさしく、彼の言い続けてきた、特定のグループのためではない、皆のための米国という思いを、インターネット上でも見事に実現した。
この動きに多くの若者達も呼応し、1,000万人以上といわれる厖大な数の人達が参加し、選挙資金の支援も、このような人達が、わずか数10ドルづつでも出し合った結果が大きな選挙資金となり、オバマ氏を勝利へと導いた。まさに草の根選挙、インターネットを見事に活用して勝ち得た勝利といえる。一方のマケイン氏は、インターネット活用でも出遅れ、ここでも劣勢に立たされた。
オバマ陣営のインターネット利用は、自分のサイトだけでなく、有力SNSサイトのFacebookやTwitter、ビデオサイトのYouTubeなども大いに活用された。YouTubeでは、延べ1450万時間分のオバマ氏のキャンペーン・ビデオが見られたという。また、Facebookでは、161,000のアクティブなユーザー、Twitterでは123,000のユーザーがいたという。さらに、Google
Mapとのマッシュアップ(Google Mapに場所を表示)でボランティアの人達に、キャンペーンのために必要なリソースがどこにあるか、誰にコンタクトすべきか等の情報も提供された。
1960年に故ケネディ大統領が43才の若さで初めて大統領選挙で当選したときは、多くの報道がテレビで行われ、また、テレビでの討論会が初めて行われ、そこでの好印象がケネディ氏を勝利に導いたということで、はじめての「テレビ選挙」とも言われた。今回は、インターネットをフルに活用して、それがオバマ氏を勝利に導いたということで、はじめての「ネット選挙」とも言われている。
大統領選挙に勝ったことは、それでもちろん終わりではなく、これからが始まりだということは、オバマ氏がよく言っていることだが、インターネットの活用についても同様だ。これから大統領に就任し、大統領としての仕事をしていく上でも、選挙戦で作られた1,000万人以上におよぶ支援者達の力を借りて行きたいと考えている。そこで、大統領への移行チームは、Obama
2.0と称し、大統領になってからも、これらたくさんの支持者をつなぎとめ、オバマ氏の政策を実現するための、米国議会等への働きかけにも生かそうと考えている。そのための新しいウェブサイトwww.change.govをすでに構築し、多くの人々の意見や助言をそこから汲み取ろうとしている。
インターネットは、企業や組織、個人にとって、この10数年で大変重要なツールとなっている。インターネットが世の中に広まりだした頃、インターネットによって新しいビジネスがたくさん生まれるということが言われ、確かにYahoo、eBay、Googleなどは、インターネットとともに初めて出てきた会社だ。しかし、そのような会社の数は限られており、インターネットは、既存企業のビジネスにとっての大きなツールであり、それをうまく活用できるかどうかが、企業の栄枯盛衰に大きく影響している。
Eコマースにしても、確かにAmazon.comや日本の楽天などはインターネットとともに初めて出現してきた企業だが、Eコマースのために新たに出現してきたインターネット企業で成功している企業はこれ以外にそれほど多くはない。むしろ、これまで店舗を持っていた小売企業が、インターネットによってビジネスを拡大し、これまで消費者に提供できなかった情報を提供したり、店舗を持っていない地域などでのビジネス拡大を実現した。つまり、小売というビジネスは厳然と存在し、インターネットのEコマースが出現したからと言って消滅するようなものではなく、Eコマースによって、さらにそのやり方が変わってきた、ということだ。そして、それをうまく使うかどうかによって、そのビジネスの成否に大きな影響を及ぼすということだ。
今回の大統領選挙でも、全く同じことが言える。インターネットはまだまだ発展の過程にあり、新たな使い方、ツール等が次々と出てきている。だから単にウェブサイトを作れば、もうそれで十分というわけでは、もちろんない。インターネットの最新技術をいち早く取り込み、それをいかに有効活用するかが、企業や組織、プロジェクトが成功するかどうかの鍵を握っていることを、今回の大統領選挙は、ふたたび証明してくれた。
黒田 豊
(2008年11月)
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