注目を集めるセカンドライフ
セカンドライフ(Second Life)が、昨年後半あたりから、急激に注目を浴びている。セカンドライフと言っても、定年退職後の第二の人生、という話ではない。セカンドライフとは、ご存知の方もいると思うが、インターネット上のVirtual
World(日本語では、仮想都市などとも呼ばれている)のことである(ウェブアドレスはwww.secondlife.com)。登録者数も、最近急増し、昨年11月頃に130万人と言われていたものが、今では、550万人にせまっている。米国内のユーザーが約半分で、その他はそれ以外の国の人たちだという。いまのところセカンドライフは英語ベースなので、日本人の参加は少ないと思われるが、今後予定されていると言われている日本語版が出来たあかつきには、日本人の利用者、日本企業の利用者も急激に増加するのではないかと想像される。
セカンドライフのことをまだ知らない方のために、もう少し説明すると、これは、インターネット上にVirtual
Worldが作られており、そこで、自分の分身がいろいろな活動ができるものである。自分の分身は、3次元の仮想人間(Avatarと呼ばれ、人間ではなく動物になることも出来る)で、自分で好きなものを作ることが出来る。したがって、自分の実際の年齢とかに関わらず、50代の人が、たとえば、20代のいい男になろうと思えば、可能なわけだ。
このセカンドライフは、Virtual Worldとして、普通の世界のように生活し、物を売ったり買ったり、いろいろなことが出来る場を提供することに専念し、特に何かゲームをするような仕掛けにはなっていない。もちろん、そこに住んでいる人が、商売として、ゲームを提供する、ということはありうるが、セカンドライフそのものを提供しているLinben
Labという会社は、基本的に場を提供しているだけである。
もともと、セカンドライフに参加するためには、毎月$15ほどのお金が必要であったが、なかなか人が集まらなかったため、今では、単に参加するだけなら無料となっており、それがユーザー急増のキッカケになっている。もしセカンドライフに土地を持ち、何か商売でもしようと思えば、それにはお金がかかる、という仕組みだ。セカンドライフ内での土地を含めた売買には、Linden
Dollarという仮想の通貨を用いるが、このLinden Dollarは実際の世の中で通用する米ドルと換金できる仕組みになっている。したがって、セカンドライフ内で何かを買いたければ、米ドルをLinden Dollarに換金してもらい(これは、通常のインターネット上での買い物のように、クレジットカードで支払う)、それを使って買い物をする。
逆にセカンドライフ内でいろいろなものを売って、Linden Dollarが溜まり、米ドルに変換したくなれば、それも可能になっている。セカンドライフのウェブサイトによると、24時間以内に行われた売買金額は、米ドル換算で、200万ドルに迫っている。また、セカンドライフ内で大きな売上を上げた人が、米ドルで100万ドルを越えたという話であるから、たかがVirtual
Worldなどと甘く見ることはできない。
セカンドライフは一見、一般ユーザーが好き勝手に使って楽しむもののような感じがするが(もちろん、そういう部分も多いが)、いくつもの大手企業がセカンドライフに注目し、参加している。具体的な会社名を挙げると、IBM、トヨタ、Intel、Adidas、Dell、Cisco、Sun、Circuit
City、等々である。これらの会社がどのような興味を持ち、セカンドライフに参加しているかというと、いくつかのパターンが挙げられる。
一つは、このVirtual
Worldに来た人たちへの自社ブランドの宣伝、商品紹介等がある。そのため、これらの企業は、自社のショールームのようなものをセカンドライフ上に作り、人々に来てもらって、いろいろな製品の紹介などを行っている。単に現実の世界のように、既存製品を見せるだけでなく、未来の想定製品を見せてその評価をしてもらったり、逆に見込客にほしい製品をデザインしてもらう、というテスト・マーケット的な使い方もある。ただし、ショールームを有効に活用するためには、スタッフを置いて、質問等に対応する必要があり(セカンドライフ上はAvatarだが、実際の人間を割り当てる必要がある)、Virtual
Worldといえども、実世界と同様、人手はかかる。
また、会社の大きな名札をぶら下げてセカンドライフ内を歩きまわり、その会社や製品に対して何か質問やコメントがあれば、それを受け付ける、という使い方をしている会社もある。もちろん、セカンドライフ上でいいものを見つけ、実世界でそれを買いたいという人のために、実際のものを買うことの出来るウェブサイトにリンクをつけることも可能だが、このような形で大きなEコマースビジネスになるところまでは、まだ来ていない。
さらに、このような顧客や見込客向けの対応だけでなく、会社内あるいは外部パートナー企業を含めた社内会議、パートナー会議のようなものに使っているところも出てきている。これは、テレビ会議などでは、出席者の人数も限られ、テレビ会議設備のあるところでしか出来ないのに対し、もっと大勢の人が一度に集まれるというメリットがある。また、誰が参加しているかも、見渡しやすい。そして、面白いのは、テレビ会議だと、会議のときだけつながっていて、終わると切れてしまうが、セカンドライフを使うと、通常の会議のように、会議前から、集まった人たちで、いろいろと雑談したり、会議が終わってからも、誰かを捕まえて話をするなど、普通の会議と同じことが出来る点も評価されていることだ。いわゆる社内会議、あるいはパートナー等を含めた会議やコラボレーションへの活用が期待されている。
たとえば、IBMなどは、すでに社長のPalmisano氏を含め、3,000人以上がAvatarを持っており、頻繁に社内コラボレーションのためのミーティングにセカンドライフを使っているという話だ。Palmisano氏はセカンドライフのような3次元を使ったものが、インターネット革命の次のステップではないか、とまで言っており、3次元のインターネット世界を作るプロジェクトに$10
million(12億円弱)を投入している。
広告業界もセカンドライフには大いに注目している。セカンドライフ内では、ユーザーが長い間滞在している場合が多いので、30秒広告などに比べ、広告効果がより高いと言われている。また、ある広告に興味を持った人には、商品の紹介など、いろいろな展開が考えられ、セカンドライフ内での広告のやり方、その効果についての検討が大きな課題である。一方、広告会社でも、単に見込み客への広告にセカンドライフを使うだけでなく、内部利用として、各地に散らばるパートナーを含めた広告会社スタッフの意見交換の場所としてセカンドライフを利用しているところもすでに出てきてる。
セカンドライフが一般消費者ユーザーに、MySpaceや日本のMixiのように広がるかは今後のユーザーの動向次第だが、単なるゲームではなく、コミュニティであることから、次第々々に広がっていくことが十分考えられる。ただ、これに関しては、いろいろな意見が出ており、時間に余裕のある人はセカンドライフのようなものに明け暮れるかもしれないけれども、「私はファーストライフ(現実の生活)が忙しくて、とてもセカンドライフなどやっている時間がない」という友人の意見も、またもっともなものである。
しかし、一般消費者ユーザーだけでなく、企業が社内やパートナーとのコラボレーションにセカンドライフを使うことを考えていることは、注目に値する。セカンドライフは、一般消費者向けのVirtual Worldというよりも、ビジネス向けの便利なコラボレーション・ツールとして、先に発達していくかもしれない。
黒田 豊
(2007年4月)
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