ようやく動き出した、米国の地球温暖化対策
地球温暖化対策が大きな話題になっている。先日のG8会議でも重要な案件だったし、京都議定書にサインせず、これまで地球温暖化対策に極めて消極的だった米国でも、その機運が高まってきた。そもそも米国にもEnvironmentalist(地球環境保護を訴える人たち)はおり、以前から地球温暖化対策の必要性を訴えていたし、学者達の中にもそのような人たちはいた。また、米国議会内でも、地球温暖化対策委員会があり、対策の必要性を訴えている。一番大きな問題は、Bush政権が、地球温暖化対策よりも、企業の利益を優先し、地球温暖化対策に逃げ腰、消極的だったことである。
しかし、最近は、例えばGore元副大統領が、次期大統領選挙を戦うのではなく、地球温暖化対策が、いま、米国、そして世界にとって最も重要であると力説し、映画も作って、そのプロモーションに励んでいる。また、これまでは地球温暖化対策について、あまり取り上げていなかったメディアも、どんどん関連する記事を出してきている。
このように、単にヨーロッパなど諸外国からの圧力だけでなく、これら米国内の動きを見て、Bush大統領も重い腰を上げ、地球温暖化対策の必要性をG8で宣言するに至ったわけだ。これに対し、ようやく米国が地球温暖化対策の必要性を理解したということで、大きな一歩という評価がある一方、結局数値目標には、相変わらず消極的で、目標を示さなかったので、これでは単に国内での(地球温暖化対策に消極的という)批判をかわし、本当の対策を先延ばしにするだけだという厳しい声は、米国内でも多く、結局不人気のBush政権の人気回復には至っていない。
数値目標が出ていないのは、大きな問題だし、このままでは、何も先に進まないという意見はもっともだが、それでも、Bush大統領が地球温暖化対策の必要性を述べたことにより、メディア等もかなり積極的にこの問題を取り上げ始めているし、これまで地道に地球温暖化対策のために活動してきた人たちも、表舞台に出てこられるようになった。さらにこれに刺激されて、多くの人たちが地球温暖化対策の必要性を意識するようになることは間違いなく、そういう意味で、米国も、ようやく大きな一歩を踏み出したと言える。
ご存知の方も多いと思うが、世界の二酸化炭素排出量上位5ヶ国は以下である。
1. 米国(21.9%)
2. 中国(17.4%)
3. ロシア(6.2%)
4. 日本(4.7%)
5. インド(4.1%)
米国は実に世界の二酸化炭素排出量の1/5以上を占めているのである。ちなみに、日本も第4位で、先進国では、米国と日本だけが5位以内に入っているので、日本における地球温暖化対策の重要性も、極めて大きい。地球温暖化対策に早くから積極的だったヨーロッパ諸国は、5位以内に入っておらず、6位にドイツ(3.2%)、8位にイギリス(2.1%)、10位にイタリア(1.8%)、11位にフランス(1.5%)、13位にスペイン(1.3%)となっている。
米国の中でも、私の住んでいるCalifornia州は、Arnold
Schwarzenegger知事のもと、地球温暖化対策に積極的である。すでに1年ほど前に二酸化炭素排出量を、今後13年で25%削減するという法律を通しているし、2010年までに電力ガス等のユティリティ会社は、電力発電の20%を代替エネルギーにするよう、これも法律で定めている。現在でも既に11%は代替エネルギーの地熱、バイオマス、小型水力、風力、ソーラー等で発電している。
ベンチャーキャピタルもこのような代替エネルギー開発への投資を急増させている。California州における代替エネルギーへの投資は、2005年の約9,000万ドルから、2006年には、その7倍以上の約6.4億ドルへと急拡大している。最近では、バイオマス、ソーラーへの投資を中心に、波力、風力、地熱など、多くの代替エネルギー開発に、ベンチャー資金が回っており、このような代替エネルギー開発ベンチャー企業も増えてきている。
私の関係しているSRI
Internationalで開発した人工筋肉技術を応用した波発電に力を入れている日本のベンチャー企業もある。人工筋肉は、もともとある素材に電気を加えると変形することを応用して人間の筋肉のような動きをさせるものだが、その原理を逆用し、その素材に力を加え、素材を伸縮させることにより、電力を起こすものである。いずれの代替エネルギーも、まだ既存の発電に比べるとコストが高いのが大きな問題点となっているが、地球温暖化対策のために多少コストが高くてもそのような代替エネルギーを使う、という動きも出てきており、これが多く使われるようになれば、代替エネルギーのコストも下がるという好循環が生まれるものと期待される。
コンピューター業界も、地球温暖化対策に本格的に動き始めている。実は、世界の二酸化炭素排出量の約2%は、パソコンやサーバーを使用することが原因と言われている。そして、パソコンやサーバーは、実にその電力の半分を無駄にしているとも言われている。それに対する解決方法はあるものの、コストが上昇するため、これまでは省電力化に力を入れていなかったのである。
これを解決するため、この6月12日、GoogleとIntelが中心になり、Climate Savers Computing Initiative
(www.climatesaverscomputing.org)という組織が結成され、HP、IBM、Sun、Dell、Microsoft、Yahoo、また、日本の富士通、日立、NECなどを含め、約40社が参加している。おそらくこれからどんどん参加企業は増えていくだろう。
彼らの試算では、コンピューター・メーカーがこのような省電力型コンピューターを製造販売し、企業や個人ユーザーがこれをどんどん導入すれば、2010年には二酸化炭素排出量を年間5,400万トン減少させることが出来るとのことである。これは、実に、車1,100万台分の二酸化炭素排出量とのことで、その影響は決して小さくない。この団体では、個人や企業に参加を呼びかけ、コンピューター価格が20-30ドル高くなるかもしれないけれども、省電力化した、地球にやさしいパソコンやサーバーを使うことをコミットするよう、働きかけている。
地球温暖化対策が、本当に緊急を要する課題であることは、最近の気候の異常さ、変化からも、皆、肌で感じていることではないかと思う。異常気象による大型台風やハリケーンの到来は、さらに大きな気候変化の前兆である気がするし、映画「The Day
After」にあったような、地球温暖化による海水の塩分濃度の低下による海流の変化のため、氷河期に近いような寒波が来ることも、もはや映画の世界だけではないように感じられる。
今、住んでいるCaliforniaにしても、去年あたりから気候に変化が感じられる。昔、中学生の頃に地理(社会科)で学んだ記憶では、地中海性気候と西海岸性気候は、よく似ていて、どちらも冬暖かく、夏涼しいのが特徴で、Californiaのわれわれが住んでいるあたりも、この西海岸性気候にあたると思うが、それが昨年あたりから、少しおかしくなってきているように感じる。こちらでは、夏、ときどき暑い日があっても、空気が乾燥しているので、比較的しのぎ易いのだが、それが最近、ちょっと湿度が昔より高いように感じる。まだまだ梅雨に入った日本から比べると天国のようなものだし、むしろ乾燥しすぎているよりいいのだが、この傾向が続くと、湿度の高い日本などと変わらない気候になってしまうのではないかと心配している。
というのも、2年ほど前にイタリアのローマに夏に行ったとき、とても暑くて湿度も高かったのだが、地元の人の話によると、10年ほど前までは、このようなことはなく、エアコンも必要なかったのに、今は、このように暑くて湿度も高い、と言っていたのを記憶しているからだ。Californiaが同じ道をたどらないうちに、何とか、地球温暖化と、それによる気候の変化に歯止めをかけたいものである。
黒田 豊
(2007年6月)
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