中止が決まった今年のCOMDEX
毎年11月にラスベガスで開かれていたパソコンを中心としたビジネスショウのCOMDEXが、今年は中止と決まった。COMDEXは1979年に始まり、1980年代後半から、2000年頃まで、情報通信関係で仕事をしている人達にとって、行かなければいけないショウであった。私が西海岸メディア通信を書き始めたのは、1995年であるが、1995年から1999年までは、毎年COMDEXについて、その翌月の12月にレポートしていた。このレポートを読んでいる方の中にも、COMDEXに行ったことのある人もいるのではないだろうか。
新聞等の報道によると、1998年、1999年、2000年は入場者数が20万人を超えていたが、2001年には、9.11のテロ事件の影響もあり、入場者数が12万5000人に大きく減少、その後は米国の景気後退もあって、2002年も同じく12万5000人、昨年にいたっては、それをさらに大幅に下回る、4万人程度の入場者数だったという。展示する側の会社も、ピーク時の2,200社から、昨年は、550社にとどまり、展示会場の広さもピーク時の1/10近くまで減少していた。
私の昔のレポートを見てもらうとよくわかるが、COMDEXの衰退は、1990年代後半には、すでに明白であった。私がCOMDEXに大きな変化が起きたと感じたのは、1998年である。その数年前から、米国の大手パソコン・メーカーなどが少しずつCOMDEXから撤退しはじめていたが、1998年にはそれが一段と進み、メインの会場をざっと見る分には、マイクロソフトとアジア諸国(主に日本と、それに韓国と一部台湾などのアジア諸国)のショウのようになってしまっていた。
私は、米国に来た1988年以来、COMDEXには毎年行っていたが、1998年を最後に、その後行っていない。私がCOMDEXに行く目的は、情報通信の世の中の動向、大手メーカーの新しい製品等を見るためであったから、もはや大手メーカーの出展しないCOMDEXは、意味のないものだったからである。
COMDEXが盛んだった頃は、日本からのCOMDEX訪問団体も数多く来て、私もそのような方々へ、米国の情報通信最新事情などについて、講演するような機会も結構あったが、もはやそのような団体も来なくなってしまった。COMDEXが、カリフォルニアに住んでいる私も見にいかないようなショウになってしまったわけだから、日本からわざわざ人々が来ないのは当然である。
そういう意味で、COMDEXが今年中止になったが、それに驚くこともなく、むしろ、よくここまで続いたものだという気さえする。主催者側は、来年は内容を見直して実施したいと言っているが、その可能性は薄いというのが、私を含め、大方の見方だ。
しかしながら、あれだけ毎年ホットだったCOMDEXがなくなるというのは、やはり時代の移り変わりを感じざるを得ない。1990年代後半のピーク時には、ホテルの予約を取るのも大変な状況で、ホテル代が高騰するだけではなく、1日などという予約は受け付けてくれず、1週間通しでないと予約出来ないという状態であった。大勢の人が来るから、タクシーを含め、あらゆるところで待ち行列が出来、皆、大変な思いをしてCOMDEXに行ったものだった。
COMDEXがこのように衰退したのには、いくつか理由があると思うが、一つには、COMDEXが成功し過ぎ、巨大化しすぎたという面がある。ピーク時には、あの大きなラスベガス・コンベンション・センター全部を使ってもまだ足りず、近くのホテルいくつかにもCOMDEXの展示が行われていた。そのため、1日で回りきるのは大変で、ゆっくり見て回るには、それこそ5日間の会期ずっとラスベガスにいる必要があった。
とはいっても、なかなかそこまで時間に余裕のある人も多くなく、結局一部を見て帰るということになってしまっていた。このような状況で、出展する側も、本来の見込み客に来てもらえなかったり、十分時間をかけて商談等が出来ない、さらには展示場のコスト高騰とあいまって、1990年代の終わり頃には、大手メーカーが次々とCOMDEXから撤退して行ったわけである。この大手メーカーの撤退に、多少の時間差があったものの、入場者も減ったわけである。これに9.11のテロ事件と景気後退が拍車をかけた。
さらに、インターネットの広がりの影響も無視できない。情報を提供する企業側も、また情報を探す人の側も、わざわざラスベガスのCOMDEXまでいかなくても、いろいろな情報をインターネットで提供して、見てもらえる。これは、双方にとって、コストと時間の大幅な削減になることは言うまでもない。
もう一つの理由は、COMDEXが大きくなりすぎ、情報通信関連の何でもを展示する、焦点のはっきりしないビジネスショウだったことから、ある特定の分野に特化したビジネスショウがどんどん現れ、出展する企業も、そちらのほうに力を入れるようになってきたことがある。見る側も、自分の興味のある分野に特化したものを見に行くということで、効率がよく、ビジネスショウは、COMDEX的な何でもかんでも、というものから、特定分野に特化したものに移行して行ったと言える。たとえば、コンシューマー・エレクトロニクスに特化した、ラスベガスで1月に開催されるConsumer
Electronics Showは、人気が高まり、13万人以上の人を集め、盛況になっているようだ。
実は、私が昔からいつも行っていたビジネスショウには、COMDEXの他に通信関連のビジネスショウである、NetWorld+Interopという、5月にラスベガスで開催されるものがある。こちらは今年も行ってきたが、これも通信に特化しているとはいえ、通信分野も幅広く、通信関連の何でもかんでも、という感じのビジネスショウとなってきたため、ここ数年、その規模、また入場者数もかなり減っているようだ。ここでも、ワイヤレス・ネットワークと言った、特化したもののビジネスショウへの移行が進んでいる。
COMDEXがなくなって、特に不便を感じるわけでもないが、時代の移り変わりを目の当たりにして、多少感傷的になるのも事実である。昔は年に2回行っていたラスベガスも、だんだんご無沙汰になりそうである。
黒田 豊
(2004年7月)
ご感想をお待ちしています。送り先はここ。
戻る