スモールビジネスとインターネット
インターネットが社会の重要なネットワーク基盤になってから、もうかなりの時間がたった。企業がインターネットを有効活用することが、その競争力の維持、強化に必須であることも、今や誰の目にも疑う余地はない。
インターネットが広がり始めた頃、インターネットについていろいろなことが言われ、拙著「インターネット・ワールド」(1995年、丸善ライブラリー)でも、インターネットによって変化するビジネスについて述べた。その中の「小さな個人も世界を相手にビジネス」という項目で、個人を含むスモールビジネスにとって、インターネットは大きなビジネス・ツールとなり、会社が大きく飛躍するチャンスがあるという趣旨のことを書いた。
あれから早や8年弱、実際、今まで存在もしなかった会社がインターネットに出て行ってビジネスを始めた、いわゆるドットコム・ベンチャーも多く、一時、大きなブームとなった。しかし、今振り返って見ると、そのような、にわかインターネット企業は、ベンチャー・キャピタルからの資金を食いつぶし、多くが消え去っていった。
もちろん、インターネットの世界で初めてビジネスを開始し、成功した例もあるが、そもそもそのビジネス(例えば、おもちゃの販売)に素人だったために失敗したり、また、市場シェア獲得のために大きな赤字を抱えながら無謀に急成長のみをめざして挫折するなど、悪い結果が多い。
しかし、インターネットとスモールビジネスを考えるとき、このようなインターネット・ベンチャーとは全く異なったスモールビジネスを考える必要がある。それは、インターネットの世界が到来する前から、小規模ながらビジネスを行ってきた企業である。
米国では、実はこのようなスモールビジネスの数が極めて多く、SBA(Small Business
Administration)によると、全米で社員数20人未満のスモールビジネスが、500万以上(1999年の統計)ある。インターネットが騒がれてからかなりの年月を経て、今、注目されているのは、このような昔からあるスモールビジネスである。このような昔ながらのスモールビジネスのなかにも、1995年頃から積極的にインターネットを活用するところもあったが、多くの会社は、インターネットが大きく騒がれていた頃には、あまり動かなかった。
それは、少人数ビジネスのため、技術のわかる人が少なく、ましてインターネットなどという、当時は新しく、技術もそのビジネスに対する意味も、理解できる人たちが少なかったからである。また、ベンチャーキャピタルがバックについて大金を使いまくっていた連中と異なり、彼らは小額の資金で地道なビジネスを行っているので、あまり大きな投資もできない。したがって、まだ海のものとも山のものともわからない当時のインターネットに、限られた時間とお金をつぎ込むのは、リスクが多きすぎたのである。
ところが、今はその状況が大きく変わっている。技術に詳しくない彼らにも、インターネットの何たるかが十分わかる程度にインターネットが世の中に浸透し、そのビジネスにとっての意味もはっきりしてきた。何よりも一般の人たちがインターネットを使うのが当たり前になってしまい、何か新しいものを探すときには、昔なら職業別電話帳を引いていたものが、今は皆インターネットで検索するようになってしまった。
こうなると、スモールビジネスといっても、インターネットにウェブを構え、インターネットでビジネスできる体制を整えておかないと、職業別電話帳に自分の会社が載っていなければ、とてもビジネスにならないのと同様になってきてしまった。世の中の動向を様子見していたスモールビジネスも、インターネットなしではビジネスの存続すら危うくなる事態なわけである。
自分の最近の経験から考えても、これはよくわかる。先日、日本に出張した折、週末に関西から東京に移動することになったので、ちょっと寄り道して、飛騨高山に行くことにしたのだが、そのときの宿探しは勿論インターネットである。まだ米国にいるときからその準備をし、旅館の雰囲気や場所、価格などで適当なものを見つけて決めたわけである。ここで、インターネットに出ていなかった旅館は、最初から私という顧客を捕まえる競争から脱落しているわけである。実際、この比較的小さな寿美吉旅館という宿は、外国から直接予約してくるお客が多いという。理由はインターネットばかりではないかもしれないが、その影響は無視できない。
このような状況をみて、インターネット・ポータル大手のYahoo、Microsoft、AOLは、そろってスモールビジネス相手の事業に力を入れている。Yahooはもう5年も前からスモールビジネス・ポータルを設け、スモールビジネス向け事業を展開している。MicrosoftもbCentralで、また、AOLも最近はじめたAOL for Small
Businessで市場開拓を急いでいる。
スモールビジネスにとってのインターネットは、自社の商品やサービスを売るためのものだけではない。コスト削減や生産性の向上のためという面も大きい。銀行にとって、スモールビジネスは、昔から大切なお客様だが、彼らを支援し、成長させて、より大きな顧客にしていこうと、各銀行は自行のポータルサイトにスモールビジネス向けのセクションを設け、幅広いサポートを展開している。
例えば、スモールビジネス向けの年金プラン、人事給与税金処理、保険、セールス支援、銀行による物品共同購買、など様々である。もちろんスモールビジネスのためのe-コマース商店街を用意しているところもある。これらを通して、銀行はスモールビジネス顧客の維持、新たな顧客の開拓、取引金額の増加等を狙っている。
また、情報産業など、スモールビジネスに対して製品やサービスを販売している企業は、今まで卸や小売等、チャネル経由のビジネスが主流であったが、これもインターネットによって、直販にどんどん変わってきている。スモールビジネスは数が多くてビジネスの単価が低いため、以前はそれらに対して直接販売していたのでは、割が合わなかったのが、インターネットを使ったとたんに低い費用でそれが可能になったからである。IBMなどは、かなり以前から、スモールビジネスに対し、このような形でインターネットを利用した直販を進めている。
スモールビジネスにとってのインターネットが、そして、インターネットでビジネスをするあらゆる企業にとってスモールビジネスが、極めて重要なものとなってきた。時間はかかったものの、いよいよ時期到来である。スモールビジネス自身にとっては勿論のこと、スモールビジネスを相手に事業を行う会社にとって、ビジネスのやり方がいよいよ大きく変わってきた。
黒田 豊
(2002年12月)
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