CESでのAI、米新政権のAI政策、そしてDeepSeekの衝撃
2022年11月のChatGPT発表以来、大きな話題となっているAI。今年も最初からその話題で持ちきりだ。この1月だけでも、ラスベガスで毎年行われているCES(旧Consumer Electronics Show)でのAI関連展示、米新政権下でのAI開発加速をめざす大統領令、そしてつい数日前には、AI界を揺るがした、中国のAIスタートアップ企業DeepSeek。
まずはCESの状況から見てみよう。全体としては、今年も特に大きな特徴のあるものではなかったように感じたが、AIがいたるところで語られており、その存在は大きかった。ただ、以前と比べ、少し違っていたことがある。それは、以前は「AIを搭載した製品」というものが多かったが、今年は「AIによるソリューション」という展示が多くみられたことだ。ロボット+AIということで、ロボットの展示も、以前より多く見受けられた。
また、AIで急成長し、時価総額でトップを争う企業となった、半導体メーカーのNvidiaのHuang CEOが、1時間半に及ぶキーノート・スピーチで、AIのことを多く語った。その中には、生成AIの次を行く、昨年あたりからホットになったエージェントAI、また、フィジカルAIとして、AIを使うことによって、より進化する自動運転車や、人型のHumanoid Robotについて、多くが語られた。
そして、1月20日には第二次Trump政権が発足。これまでのBiden政権のやり方を大きく変革しようとしており、すでに発足10日余りで、数々の大統領令を出している。AI関連では、Biden政権がAIの安全性などを考慮し、いろいろな規制をかけ始めていたが、新政権では規制緩和をめざしており、これらの規制を基本的にすべて覆す大統領令が出された。その背景には、主に中国によるAI分野での追い上げがあり、それに対抗するためには、規制によって制約をかけるよりも、AI発展を重視するという方針だ。
これについては、常に先進的な技術やビジネスモデルを出してくる、シリコンバレーのテクノロジー企業も同様に考えている。そのため、これまでは民主党支持が中心だったシリコンバレーでも、今回は共和党を支持する会社トップなどが増えた模様だ。そして、今後AI開発がさらに加速される要因となるような、閣僚候補人事も発表されている。一人はTeslaのCEOで、AIについてもxAIという会社を持つElon Musk氏の存在。もう一人は、AIおよび仮想通貨担当のDavid Sacks氏だ。Musk氏は、新しく作られる政府効率化省(DOGE: Department of Government Efficiency)のトップになり、この部門自体はAIを推進する目的ではないが、政府効率化のために、これまで規制にかかわっていた多くの人々に、退職してもらうことを考えている。また、Trump大統領とは、第一の相棒(First Buddy)などというほど親密な関係で、Musk氏が進めるxAIやAIを使った自動運転車などの規制緩和も、加速する可能性が高い。
もう一人のSacks氏は、シリコンバレーの起業家で、かつベンチャーキャピタルでもあり、シリコンバレーのマインドセットを持った人と言われている。彼が参加することにより、AIへの規制緩和、AI開発が加速すると期待されている。2人ともビジネスマンで、それぞれ会社を持っており、彼らの会社に有利な方向に政府を動かし、利益背反の恐れも指摘されている。しかし、そのようなリスクがあっても、彼らに規制緩和、そしてAIなどの最新技術開発の加速を期待しているのが、新政権の方針だ。
1月のAIに関する動きは、ここまでかと思っていたら、1月27日に中国のスタートアップ企業DeepSeekの衝撃が走った。AppleのApp Storeで突然ダウンロード数がトップに躍り出たのだ。日本のニュースでも大きく取り上げられていたが、Open AIのChatGPTに匹敵する能力を持つR-1を開発し、その開発には、会社設立からわずか2年足らず、開発費用も560万ドル程度しか、かからなかったという。OpenAIはChatGPT開発に1億ドル以上かかったと言われているが、これまでのAI開発に長い時間と大きな投資が必要という考え方が、DeepSeekの登場で覆されたと市場で判断された。そのため、これまで上昇を続けていたNvidiaの株価が1日で一気に約17%低下し、時価総額で約6000億ドルを失うという、これまでの一日の下落の新記録となってしまった。1月31日現在も、株価回復は1%あまりに留まっている。
その後、MicrosoftがDeepSeekはDistillation Technique(蒸留テクニック)を使い、OpenAIのデータを無断で使ったのではないか確認中という発表を行った。OpenAIは、自社のモデルをDistillation Techniqueを用い、競合製品を開発することを許可していない。今回のDeepSeekの件が、今後どのような展開になっていくかは不透明だが、生成AIは、まだよちよち歩きの段階と言われることも多く、何等かの技術革新で、これまでとは異なる方法で、期間やコストもかからない開発方法が出てくる可能性は十分ある。
つい数日前、私は東京で「シリコンバレーから見た、新政権移行のテクノロジー業界への影響」というタイトルのセミナーで、2時間ほどお話したが、そのとき、Trump新政権の規制緩和策などによるAI開発加速の中、日本企業のチャンスはどこにあるか、という話もした。その中で、高齢化など課題先進国である日本は、それらに対するSLM(Small Language Model)を開発し、世界をリードするソリューションの提供を上げたが、それに加え、生成AIがまだよちよち歩きの段階なので、現在世の中で広がっているLLM(Large Language Model)のトレーニングや活用、また省電力の分野にも、チャンスが十分あるとお話した。今回のDeepSeekは中国からだが、是非次は日本から、現在活用されている技術を飛び超える(Leap frogする)技術が出てくることを、期待したい。
黒田 豊
2025年2月
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