Elon Musk、Teslaとグループ企業の今後はどうなる?

 

Elon Muskは、日本でも知らない人がいないほど有名な、ご存じ、米国電気自動車メーカーのトップ企業TeslaのCEOだ。Teslaが産声を上げたのは2003年。MuskがそのCEOになったのは2008年。Teslaの時価総額は10月31日現在、約$802 bil.で、世界11位。Muskが立ち上げた、もう一つ有名な会社Space X(正式名:Space Exploration Technologies Corp.)の設立は、それより前の2001年にさかのぼる。その後、2016年には、脳インプラント・チップのNeuralinkを設立。2017年にトンネル建設会社のThe Boring Company (TBC)を設立し、2018年にLas Vegasに自動車専用トンネルLas Vegas Convention Center (LVCC) Loopを構築した。2022年にはTwitterを買収(2023年にXと社名変更)。2015年には、いまChatGPTなどで大きな話題のOpenAIの設立にも参加したが、その後2018年に撤退し、代わりに2023年3月に独自のxAIを設立し、グループ企業に加えている。

 

直近でのMuskに関する話題は、米国大統領選挙でDonald Trump支持を明確にし、多額の献金をするとともに、Trumpが大統領選に勝利した場合には、閣僚またはアドバイザーとしての参加についても話している模様だ。Muskから大きな献金をもらったTrumpは、それまでの電気自動車に対する批判をやわらげ、自分は電気自動車のファンだ、などとも述べている。さらに、大統領選直前の10月には、激戦州の選挙人登録をした人達に対し、毎日抽選で$1 million(約1億5000万円)を提供する、ということまで発表した。これには、法律違反の可能性があるとの訴えが出ているが、現時点で裁判所はその中止を命令するまでには至っておらず、裁判所での判断を待つ状況だ。

 

今回の大統領選でもそうだが、何かと世間を騒がせることの多いMusk。2022年に、当時のTwitter(現X)を一度買収すると発表した後、その後それを撤回。それに対しTwitter社から契約違反の訴えをされると、一転して買収を進めた。買収後は会社名をXと変更し、これまでの投稿への制限を大幅に減少させるとともに、社員数も1/4以下に減少し、Xは大きく変わることとなった。今回の大統領選では、MuskがTrumpを支持していることから、XはTrumpの宣伝役になっているとの指摘も出ている。

 

さて、これらグループ企業の現時点での中核企業は、唯一株式上場しているTeslaだ。電気自動車で、初めてと言えるほどスタイリングなどが他の電気自動車よりすぐれ、発売当初から大いに人気を博した。順調に売上、利益を毎年大きく更新していたが、最近は陰りを見せている。大きな理由は、世界的に広がる中国製電気自動車と、米国を含め、電気自動車人気の下落がある。それを見て取って、MuskはTeslaを自動車メーカーとしてではなく、AIとロボットの会社と見てほしいと、投資家などにさかんに言っている。

 

自動車についても、単に電気自動車を製造販売するのではなく、現在進めている自動運転をさらに進化させ、完全自動化させた、運転手不要のロボット・タクシーを構築しようとしている。その名称はTeslaの中でも確定していないようで、Robotaxiと言われたり、Cybercabと言われたりしている。Robotaxiについては、この10月にLos Angeles、HollywoodのWarner Brothersスタジオで大きなイベントを開き、その姿を現した。車のハンドルもアクセルもないRobotaxiの登場だ。しかし、この発表に、残念ながら投資家たちはガッカリし、当日は株価が9%近く、大きく下落した。それは、具体的な詳細情報に欠けており、テスト運転も、誰もいない、囲われた場所で行われ、決まった場所を動き回るだけで、あたかも遊園地の乗り物のようでしかなかった、という印象だったからだ。

 

自動運転のレベルは1から5まで定義されており、5が完全自動化のレベルだが、Teslaが現在提供しているものは、必ず人の運転手を必要とし、運転の支援を行うLevel 2に過ぎないと言われている。一方、自動運転で進んでいるAlphabet(Googleの親会社)傘下のWaymoは、すでにLevel 4段階で、San Franciscoなどで自動運転タクシーを提供している。TeslaがWaymoに追いつくまでには、まだ時間が掛かる可能性が十分ある。

 

TeslaはRobotaxiに加え、自動運転技術を開発する中で培った技術を使い、Optimusというヒューマノイド(人型ロボット)の開発も進めている。すでに社内の工場で使い始め、来年には外部にも提供、再来年に販売できるようにしたいと述べている。このRobotaxiとAIを活用したヒューマノイドによって、Teslaの時価総額は、現在の40倍近い$30 trillionにまで行くだろうとMuskは述べている。Muskは、これまでも大きな将来について話し、それに呼応する投資家により、株価が上昇し、現在のような高い時価総額になっている。

 

しかし、これまでの実績を見ると、少なくともMuskが言ったことの実現の時期は、それを発言した当初から大きく遅れるのが常となっており、「いつも過大な約束をしながら、実現するのはそれ以下(Always Overpromising and Underperforming)」などと言われている。これをElon Standard Time(Elon標準時間)などと揶揄する向きもある。例えば、2016年にMuskは自動運転車でLos AngelesからNew Yorkまで走らせるデモを2017年に実現すると言った。また、2019年には、2020年にロボット・タクシーが実現すると言ったが、いずれも実現していない。Robotaxiについては、おそらく2026年には製造を開始するだろうと述べ、ヒューマノイドのOptimusについては、将来Teslaの時価総額に$25 trillionを追加するほどの価値を提供するだろうと述べているが、実際にいつ実現するかは、見通せない。

 

もう一つ、Teslaの株主たちが懸念していることに、Teslaの人材を含む資産が、他のグループ企業、なかでもxAIに流用され、Teslaに損失を与えているのではないか、というものがある。実際、そのような訴訟が3人から提出され、係争中だ。すでにTeslaからxAIに、少なくとも11人が転職したという。また、AI開発にかかせないNvidiaのGPU半導体チップで、Tesla用に割り当てられていたものの一部を、xAIに振り向けるよう指示もしている。これらは、Teslaに損失をもたらすというのが、訴訟を起こしている株主の主張だ。これに対しMuskは、グループ企業相互が助け合うことにより得られるプラスのほうが大きいと主張している。

 

TeslaとxAI、さらにSpace X、Neuralinkは、Muskの言う通りのものが実現すれば、これらの会社にとって、そして社会にとっても大きなメリットがあるだろう。米国が宇宙開発を、政府から民間に移行する中、Space Xは、その大きな期待をになっており、すでに数々の成功を収めている。そのような状況も見ながら、現在のTeslaの株主や、未上場のグループ企業に投資する人達は、Muskの描く将来を信じて投資を続けている。果たしてMuskが彼ら投資家の信頼を得ている間に、彼の描くような将来を実現できるか。それとも、それがなかなか実現せず、投資家が離れていくのが先か。Elon Musk、Teslaとグループ企業の今後に、目が離せない。

 

黒田 豊

2024年11月

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