生成AI分野における日本企業のチャンス

 

一昨年11月のOpenAIによるChatGPTの発表以来、生成AIの勢いが止まらない。その勢いは、一時的なブームにとどまらず、インターネットの出現がそうであったように、世の中を大きく変えるものになるだろう。その生成AI分野で、どのようなビジネスで成功するか、世界の大手企業、スタートアップ企業の多くが、熾烈な戦いを始めている。IT大手のGAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoft)は、生成AIモデル、チャットボット、自社製品への生成AI組み込み、さらにそれを支えるデータセンターや半導体にまで手を伸ばしている。そして、半導体ではNvidiaの快進撃が続いている(シリコンバレー通信2024年3月号参照)。

 

そんな中、日本企業には、どのようなチャンスがあるだろうか。LLM(Large Language Model)を使った汎用生成AIモデル構築では、大手IT 企業に加え、OpenAIやAnthropicなど米国のスタートアップ企業が、大きな出資をMicrosoftやGoogle、Amazonなどから得て先行している。これらの先行企業にグローバル・レベルで追いつくことは、なかなか難しい。汎用生成AIモデルを使った、ChatGPTのような汎用チャットボットも同じだ。ただ、生成AIは、まだよちよち歩きの段階で、これからさらなる発展が見込まれるということを考えると、技術的に一段階上を行くようなものが出てくる可能性もある。もし日本企業で、そのような一段階上の技術開発が可能であれば、そこで現在のトップランナーたちに追いつき、追い越すことも、可能性としては残っている。

 

生成AIそのものではなく、その発展をささえるインフラストラクチャ―としてのデータセンターや半導体はどうか。データセンターについては、そもそもクラウド・サービスで米国企業に、日本市場ですら大きな市場シェアを握られており、挽回は容易ではない。半導体は、現在のところ生成AIの開発及び活用に有効なGPU(Graphics Processing Unit)で、Nvidiaが圧倒的なシェアを握っている。ただ、生成AIモデル構築ではなく、生成AI活用のための半導体としては、必ずしも高速なGPUを必要としていないので、他社に市場参入の余地があり、Intelなど他の半導体メーカーも、しのぎを削っている。また、GPUは、もともとコンピューター・ゲームなどで、グラフィックの高速処理のために作られたもので、AIに最適化されているわけではなく、新たにAIに最適化された半導体が開発される可能性もある。そして、これら半導体の消費電力が大きな問題となっている現在、消費電力の少ない半導体が開発されれば、市場参入の余地は十分ある。

 

現在の生成AI市場は、LLMを活用した汎用モデルが注目されているが、汎用ではなく、ある特定分野に特化した生成AIの開発にも注目が広がっている。具体的に言うと、たとえば小売業に特化した生成AIとか、教育、金融に特化した生成AIなどだ。業種ではなく、特定機能に特化した、例えばソフトウェア開発に特化した生成AI、言語翻訳に特化したものなども出てきている。また、生成AIをスマートフォンなどの端末デバイスで、ある程度機能を制限しながら使えるようにしようという、Edge AIの動きもある。さらに、ある特定な課題解決のための生成AIソリューションも、これから広がる可能性のある分野だ。これら特定分野向けの生成AIでは、LLMではなく、SLM(Small Language Model)でも十分な場合が多い。SLMの場合には、扱うデータ量も少な目で、LLMほどのコンピュータ処理は不要となるので、開発者側にも、ユーザー側にも負担が小さい。

 

この特定分野市場向け生成AIは、たくさんの分野が考えられ、大手IT企業だけでなく、スタートアップ企業など、幅広い企業が参入を試みている。この分野については、日本企業にも十分チャンスがある。そして、この分野では、実は日本に1つの強みがある。それは、日本が課題先進国である、ということだ。人口の高齢化、少子化、地域再生、環境問題を含め、多くの課題で世界の先頭に立っているものが、日本には少なくない。これらの課題を解決するための生成AIを、世界に先駆けて開発すれば、その分野でグローバルなリーダーになることも可能だ。

 

さらに、日本には、これまでに培ってきた製造技術、ロボット技術、エネルギーや交通インフラ技術、匠の技など、世界に誇れる技術がある。これらに生成AIを組み合わせ、まだ世界で解決されていない課題のソリューションを提供できれば、日本企業の生成AI市場における活躍の場が、大きく広がる。

 

いまの日本は、生成AIをうまく活用し、仕事の効率化、改善に取り組む姿勢が多くみられる。もちろんこれも大事なことであり、「改善」は日本のお家芸だ。それによって、個々の企業が仕事を効率化し、自社の力を増すことは、もちろん重要だ。しかし、そこにとどまっていては、もったいない。課題先進国である日本の強みを生かし、生成AIをうまく活用したソリューションの開発により、ビジネス・イノベーションを起こし、グローバルにビジネスを広げる絶好のチャンスを逃す手はない。いま、日本に大きなチャンスが巡ってきているが、時間的な余裕はあまりない。世界各国の大手企業、スタートアップ企業も、あらゆる課題に対し、生成AIを活用したソリューションを提供しようとしている。今度こそ、日本が諸外国の企業に遅れを取らず、このチャンスを生かすことが期待される。

 

蛇足ながら、生成AI市場動向を含め、最近のシリコンバレー動向を、この6月13日に新社会システム総合研究所(SSK)のセミナー「シリコンバレー最前線2024

技術とビジネスの変遷と日本のチャンス」にて講演し、オンデマンドもあるとのことなので、ご興味のある方は、SSK(https://www.ssk21.co.jp/seminar-ondemand.html)までご連絡ください。

 

黒田 豊

2024年7月

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