発展が続くCreator Economyに、
ベンチャー・キャピタルも本気で投資
Creator
Economy、ここ1-2年、よく耳にし始めた言葉だ。ご存じの方も多いかもしれないが、その意味は、インターネット上で自作コンテンツを提供し、それで収入を得ている人たち(Creator)と、その人たちを支援するためのシステムを構築している企業の作る、新たな経済だ。Creatorとして、わかりやすいのは、YouTubeなどで個人がビデオを配信したり(Pen-Pinapple-Apple-Penで有名になったピコタローなど)、インターネットで有名になり、商品のよさを宣伝する人たち(インフルエンサー)などがある。
彼らの活躍は、ここ1-2年ではなく、すでに10年以上前からのことだが、最近特にCreator Economyと呼ばれ、注目されるようになったのは、コロナ禍の影響でほとんどのライブ・イベントが中止になり、多くの人がオンラインでエンターテイメントを楽しむようになったことがある。また、Lego社が行った8 -
12才の子供たち3000人へのアンケート調査で、将来宇宙飛行士になりたい、という人よりも、ユーチューバーになりたい、という人のほうが3倍近くいたことも、大きく影響した。そして、Creatorたちを支援するシステムの市場が拡大し、ベンチャー・キャピタルも本気でこの市場に投資し始めたからだ。
そもそも、このCreator Economy、どれくらいの規模かというと、ある会社の推定によると、すでに$100
bil.(約13.8兆円)になるという。まず、Creator側からその実態を見てみると、世界でおよそ5000万人(別な推定では2億人)のCreatorがいるといわれている。そのほとんど(4800万人)は、いわゆるアマチュアで、残り200万人がプロといえる、フォロワーが100万以上いる存在だ。プロの人の約半数はYouTubeから収入を得ており、Instagramで収入を得ている人が25%、Twitchで収入を得ているのが15%と推定される。
Creatorは基本的に個人で、多く稼いでいる人の収入は、半端な額ではない。たとえば、YouTubeで稼いでいる人のトップ10の合計額は、今年の8ヵ月弱で$698mil.(約940億円)に上る。ただ、この数字には有名人のJustin
Bieberなども入っているので、いわゆるTouTubeで無名の人が大金を手にした、という人ばかりではない。インフルエンサーと呼ばれる人たちの中には、それまで無名だった人たちも少なくないが、トップ1%の人たちは、収入が$1 mil.(約1.38億円)を超えるMillionaireと言われている。
Creatorが収入を得る方法も、いまや多彩だ。広告収入のシェアリング、ブランド企業のスポンサーシップ、デジタル・コンテンツの有料販売、「投げ銭」などのチップ、有料サブスクリプション、ファンからのドーネーション、などだ。一般的には、フォロワー数が多いほうが収入も得やすいが、フォロワー数が数千程度でも、ファンとのつながり、信頼が深い場合には、スポンサー企業などが付きやすく、収入を得やすい、という場合もある。
さて、5000万人とも2億人ともいわれるCreatorを支援するシステムは、大きく3つに分類される。一つはYouTube、Instagram、Twitch、TikTokなど、Creatorがコンテンツを配信するプラットフォームで、これがないと、Creatorが多くの人にフォローしてもらい、収入を得るのは難しい。プラットフォーム企業は、Creatorに多く使ってもらうことにより、より多くのユーザーが獲得でき、広告収入もアップするので、たくさんのCreatorに利用してもらうよう、働きかけている。
YouTubeによるPartner
Program(YPP)が、Creatorたちの収入を得る最初の手段だった。このプログラムは2007年に始まり、Creatorが1,000以上のサブスクライバーを持ち、直近1年間で4000時間以上視聴された、などの条件を満たせば参加でき、自分のコンテンツに広告を載せ、広告収入の一部を得ることができるようになった。ただ、広告収入の55%はYouTubeが取り、Creatorに残るのは45%だ。それでも、YouTubeで人気が出た一般の人には、魅力的な収入源となった。現在、100万以上のフォロワーがいるYouTube
Channelは23,000あるという。
TikTokも同様のプログラムTikTok Pulseを持っており、そのプログラムのトップ4%に入れば、広告を入れて、広告収入の一部を得ることができる。ただし、このプログラムに参加するためには、最低10万のフォロワーが必要となる。Metaも傘下のInstagramでプログラムの開始を発表したが、こちらもYouTubeと同じく、Metaが広告収入の55%を取る仕組みだ。
プラットフォーム以外では、Creatorが自分のコンテンツのマネタイズ(Monetize)を支援するツールを提供するスタートアップ企業がある。Patreon、Creative Juiceなどがその代表例だ。また、Creatorのマーケティングや社員の給与などバックオフィス支援ツールを提供する企業もある。MONETなどがその例だが、この分野に関しては、中小企業向けSaaS
(Software as a Service) などを提供する企業も、Creator向けにサービスを提供しようとしている。
このコラムの最初に、ベンチャー・キャピタルが投資に本格的に取り組んでいると述べたが、それはCreatorに直接ではなく、プラットフォーム以外のCreator支援システムを構築している企業向けが中心だ。このようなCreator Economy に対する投資が、2021年には前年の倍にあたる$939 mil.(約1300億円)になった。そして今年は7月初めの段階で、すでに$637 mil.
になっており、昨年を大きく超えることは間違いない。出資されたスタートアップ企業も、300社を超えており、すでにユニコーン(評価額$1 bil.以上の未上場企業)の仲間入りをしている企業も23に上る 。
現在のCreator
Economyでは、プラットフォーム企業が強い立場にあり、Creatorよりも多くの収入を得ている場合が多い。また、ブランド企業などとスポンサー契約をする場合、その相場がわかりにくく、ブランド企業側に有利な契約になる場合が多い。しかし、ここにも変化がみられる。Creatorたちの中には、ブランド企業とのスポンサー契約などをオープンにし、他のCreatorたちが不利な条件で契約しないよう、支援するケースも出てきている。また、最近話題となっているブロックチェーン技術を使い、プラットフォームなどに載せず、自身でコンテンツ配信をコントロールしようという流れもある。ただし、これは固定ファン層が出来上がって、初めて可能になることだ。
Creator Economyの拡大とともに、素人でもCreatorになって収入を得られるということで、Creatorを目指す人が年々増加しており、Creator
Economyは、まだ始まったばかり、と考えられている。ただ、うまくフォロワーをたくさん得て、本格的な収入が得られるようなCreatorになるのは、ごく限られた人たちだ。フルタイムでCreatorをやっている人たちでも、46%は年収が$1000以下とのことだ。Instagramでインフルエンサーとして収入を得る人は、半数に届かず、収入を得ている人もほとんどは月$3000以下とのことだ。また、一度ある程度の収入を得られるようになったとしても、それを継続し、それで長期間生計を立てるとなると、継続的な、大きな努力を必要とする。インフルエンサーの場合は、いろいろな商品の宣伝をうまくやれば、ある程度継続できる可能性があるが、自分で独自のビデオ・コンテンツを配信している場合は、長期的にファンを飽きさせないコンテンツを生み出すのは大変で、多くの人が長続きしないようだ。
自身でCreatorになる場合には、それで生計を立てるのではなく、趣味と実益を兼ねて行う、というのが、一般の人には無難なところだろう。ただ、今後もどんどん新しいCreatorが出てくることは続くだろうから、それを支援するツールなどを構築し、支援するビジネスは、うまくその中での競争に勝てれば、ビジネスとして長続きする可能性は十分ある。昔、カリフォルニアでゴールドラッシュが起こり、多くの人が一発千金を狙って金を掘りにやってきたが、ほとんどの人は金を十分に見つけられず、儲けられなかった。しかし、その人たちを支援するためにジーンズを作り、販売した会社は、その後長くジーンズ・ビジネスを続けている。1853年に創業したLevi’sは、いまも健在だ。ベンチャー・キャピタルがこれらCreatorを支援するツールやシステムを構築する企業を支援する所以だ。
黒田 豊
(2022年9月)
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