EコマースからCコマース時代へ
Eコマースは、インターネットが始まったころから盛んに行われているElectronic Commerceの略だということは、ほとんどの人が知っている。何の略かはわからなくても、何のことを言っているかは、ほぼ誰もが理解できることだろう。ではCコマースとは何か、と聞かれて答えられる人は、まだそれほど多くないかもしれない。これは、Conversational
Commerceの略で、会話をしながら商品を売ることだ。一般にお店で物を買うときも、店員の人がお客の相談に乗り、お客の求めているものを把握して、その人に合った商品を勧めることは珍しくない。
Cコマースを広い意味でとらえると、そのような店員による対応も含まれるだろうが、ここでいうCコマースは、Eコマースの延長上、つまり、インターネット経由で、このようなやり取りをして、商品販売・購入することを言っている。インターネットでのやりとりは、いわゆるチャットというメッセージのやり取りが中心だが、音声によるものもある。そして、これには大きく2種類ある。一つは実際に人間が対応し、お客とメッセージをやり取りする場合。もう一つはコンピューター、具体的にはAI(人工知能)のアシスタントが対応する場合だ。インターネット上で実際の人が、直接対応してくれる場合も少なくないが、最近の傾向はAIアシスタントによるものの増加だ。Cコマースを狭義に捉えると、このAIアシスタントによるものを言う。
AIアシスタントを使うことの企業側のメリットは、コスト削減にある。しかし、単にそれだけではない。コスト削減以外のメリットとしては、お客の情報が、このチャットによるやりとりで、たくさん得られることだ。お店での店員による相談や、電話などで人が相談に対応した場合も、お客の情報は得られるが、それをすべて人が記憶し、情報として収集するのはなかなか難しい。会話を音声記録しておき、それをあとでデータとして取り入れることも可能だが、手間のかかる話だ。
これに対し、AIアシスタントを利用すると、自動的にコンピューターでお客からの情報を集めることが容易になる。いまやデータの時代と言われる世の中。お客の情報をいかに集め、分析し、活用するかがビジネスの成否に大きくつながる。そのための大きな情報源となるのが、このAIアシスタントによるCコマースだ。
このようなAIアシスタントは、その会社のウェブサイトに来た人が、相談したいときに自分から希望して使用する場合が、これまでほとんどだった。しかし、最近はウェブサイトに来ただけで、自動的にAIアシスタントのほうから「何をお探しですか」と、普通のお店で店員が声をかけてくるような場合も出てきている。
AIアシスタントが得意とするのは、個人のこれまでの購買実績など、その個人に関する情報を豊富に持ち、それをベースにいろいろなお勧めができることだ。これによって、ユーザーのインターネット上での買い物がより便利になる。ただ、お店の店員が自分の好みを覚えていてくれるのは、何かうれしい気もするが、AIアシスタントがなんでも覚えているのは、それが何に使われるのか、と気になる人もいるかもしれない。
さて、このようなAIアシスタントは、Conversational AI(C-AI:対話AI)と呼ばれたりする。Amazon Alexa、Google Assistant、Apple
Siriなども、ユーザーが話しかけたことに対して答えてくれるので、広い意味では同じ分類に入るが、Cコマースなどに使われているものは、特定のお店に来るお客に対応するもので、より具体的で詳細な内容になる。一般的な質問に対応するAlexaやSiriなどは、世の中すべてのお店のことを知っているわけではないので、そこまでは期待できない。インターネット上の店に行ったとき、チャットで店の人に質問したり相談できると、そのサイトでの購買率が上がるというデータもあり、お店ごとの専門的なC-AIを使ったCコマースは、今後どんどん伸びてくると予想される。
C-AIの活躍の場は、Cコマースにとどまらない。ユーザー対応が必要なものについては、すべて適用可能だ。たとえばカスタマー・サービス。お客からの問い合わせに答えるこの部門は、常にユーザーとやりとりする必要がある。通常コールセンターなどで、お客からの質問に対応できるオペレーターを配置する場合が多い。これをC-AIのアシスタントに置き換えることができれば、大きなコスト削減につながる。お客からの単なる質問なら、その答えがC-AIアシスタントから返ってきても、特に問題はないだろう。最近のC-AIアシスタントは、本当の人間が答えていると思えるような対応をしてくれるものも出てきているので、質問するお客の側も、親切な回答が得られれば、十分満足できる。
カスタマー・サービスというと、企業が商品を買ってくれるお客に対するサービス、というイメージが強いが、社内でも社員に対するサービスを提供する部門はある。人事や福利厚生、経理総務なども、社員に対するサービスを提供する部門ということで、効率化のため、C-AIの活用が始まっている。
ただ、注意しなければならないのは、カスタマー・サービスに連絡してくるものの中には、単なる質問ではなく、お客からの苦情も含まれていることだ。苦情もC-AIアシスタントがうまく対応できれば、それで済む場合もあるだろうが、その回答が通り一遍なものだと、お客が怒りを覚える可能性もある。そして、返事しているのが人間でなく、AIだとわかれば、なおのこと腹が立ってくるだろう。
このようなことに対応するため、初期対応はAIアシスタントが行うが、AIが実際の人間に対応してもらったほうがいいと判断した場合、実際に人が代わって対応する、ということも行われている。これは、チャットによるシステムの場合も、また、音声認識をベースに、音声によるAIアシスタント対応にも行われている。AIはまだ完成度が高くないものもあり、このようなAIから人へのうまい移行が、顧客対応をスムーズで迅速に、そしてコスト的にも効率よく実施し、ユーザーにも満足してもらえるためのキーとなる。ユーザーも、まだ修業中のC-AIとしばらくお付き合いすることになるだろう。
黒田 豊
(2019年10月)
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