どうなる2016年の情報通信業界
新年明けましておめでとうございます。
「どうなる2016年の情報通信業界」というタイトルから、さて今年は何が注目される年になるだろうか、と考えたくなるが、そう考えて出てくるものが思いつかない。注目されるものが見つからないのではなく、それが多すぎて、一つや二つに絞ることが出来ないからだ。ここ数年の情報通信業界を振り返ってみると、インターネットとモバイルを活用した多くのアプリケーションが本格的な広がりを見せている。そして、その裏でこれらのアプリケーションを支えるクラウド・コンピューティング、ビッグデータ分析、ウェアラブル端末、AI、センサー技術など、多くの技術が発展してきた。
私は、以前から、イノベーションは、技術革新を起こす技術イノベーションと、新たに出てきた技術を使い、あるいは既存技術を組み合わせ、進化させて、新たな革新的なビジネスを起こすビジネス・イノベーションに分けられ、最終的には、ビジネス・イノベーションによって、ユーザーに価値が提供されて、はじめてイノベーションと呼べる、と話してきた。そのイノベーションが、情報通信業界では、ここ何年も次々に起こっている。
シェアリング・エコノミー、メッセージング・サービス、ウェアラブル端末を使った関連サービス、インターネット・ビデオ配信、モバイル・ペイメント、Eコマース(新段階)、パーソナル・アシスタント。そして、最近言われているものでは、物のインターネットと言われるIoT(Internet of Things)関連の幅広いアプリケーション、製造業の新しい形を目指したManufacturing
4.0、ドローン、ロボット、金融サービスへのIT活用を総称したFinTech(Financial Technology)などがある。
昔から、何か新しいものが出てくると、それが騒がれ、一過性のもので、消えて行ってしまうものも少なくなかったが、最近はそうではない。出てきたものが、すべてとは言わないが、その多くが重要な技術、重要なアプリケーションとして残り、発展している。そのため、今年注目されるのは何かと聞かれ、答えるのは難しくなっている。
技術的に見れば、インターネットをベースとしたクラウド・コンピューティングは、すでに多くのアプリケーションの大前提となっている。概念そのものは出来上がり、その中で、より効率的で高速処理できるシステムに向け、技術がさらに発展することが期待される。ビッグデータ分析では、そこで使われる分析技術、なかでもAI技術の発展が大いに期待される。ビッグデータのデータ量、そしてデータの種類が多くなると、どのような分析をすればいいか、人間の判断では追いつかない。そのため、AIの助けを借りることになる。AI技術の中でも、マシン・ラーニング(機械学習)、さらにそれが進化したディープ・ラーニング技術が注目の的だ。そのため、GoogleやFacebook始め、多くの有力企業が、AIベンチャー企業の買収や、AI研究者の採用に走っている。
AI技術を使ったビッグデータ分析は、インターネットにおける人の行動分析をはじめ、ロボットへの活用など、その用途が幅広い。AI技術は、その始まった1950年代後半から1970年代前半まで、そして、次に1980年代前半に大きく注目されたが、予想されたほどの成果が上がらず、その後しばらく注目されない技術だった。企業によっては、AI技術を昔研究していたものの、中止したところも多いのではないだろうか。ところが、私が米国に渡った1988年にも、当時私が勤めていたSRI
InternationalにはAI研究室があり、しっかり活動していた。そして、その中から、Appleが買収したパーソナル・アシスタントのSiriや、100を越えるロボットが協力して活動するCentibotsなど、いろいろなものが出てきた。そして、今は3度目のAIブームといえる状況だ。
IoT関連アプリケーションが広がるためには、AI技術の活用を含むビッグデータ分析の発展が必要だが、それに加え、ウェアラブル端末、そしてセンサー技術の発展も重要だ。ウェアラブル端末の場合、そこに搭載するセンサー技術だけでなく、人が身に付けるため、その付け心地、また、他人に見えるようなものでは、ファッション性も大切だ。昨年春に出荷が始まったApple
Watchの場合、付け心地やファッション性はそれなりのものだったが、搭載する予定のヘルスケア関連センサーの精度が十分でなかったため、次まで延期されたものも多い模様で、今年出るであろう、次のバージョンが注目される。IoTアプリケーションでは、センサーの精度、価格、必要となるバッテリーなどが、成否を分けることになる。
アプリケーション面では、シェアリング・エコノミーの代表である車共有のUberや、民泊と位置づけられるAirbnbなどのサービスと、タクシーやホテル等の既存サービスの競合がどうなるか、法的な問題を含め、注目される。製造業では、ドイツから発したManufacturing 4.0の動きや、それに対抗する米国でのIIC(industrial Internet
Consortium)の動きもあり、ロボットを含め、IT活用が一段と進んで、製造業の先進国回帰が進む可能性が十分ある。ドローンは、危険な面もあり、規制が進んでいるが、その一方で、メリットも大きく、いかにうまく規制をかけて危険を防止しながら、利用によるメリットを享受するかが知恵の出しどころだ。
AIは、以前のブームのときもそうだったが、AIが人にとって代わり、仕事がなくなるのではないか、また、AIが人の能力を超え、人がロボットに使われる時代が来るのではないかとの懸念も言われ始めている。確かにその可能性がないわけではないが、仕事に関していえば、コンピューターが広がったころも、同じような話があったが、コンピューターの発展によって広がった多くの可能性によって、仕事の種類は変わっても、人の仕事がなくなる、ということは起きていない。AIについても、おそらく同様のことが言えるのではないかと思われる。AIが人を支配する、という話にいたっては、まだまだAI技術がそこまで来ているわけではなく、その可能性は、遠い将来の課題、というのが、現時点での専門家の意見だ。
ここ10年ほどをみても、新しく発生したIT技術や、それを活用したビジネスは、一過性ではない、長く生き続けるものが多い。多くのことが起こり、発展していく現在の情報通信分野は、人間の知恵をもって、うまくいい方向に使えば、これからも社会の発展に大きな役割を果たしていくことだろう。
黒田 豊
(2016年1月)
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