ITの新しい流れに乗る企業、乗り遅れる企業
情報通信(IT)の世界では、いつもホットな話題に事欠かない。その中には、一時のあだ花に終わるものもあれば、本格的に本流になるものもある。最近で言うと、本流になってきているのが、パソコンからタブレットやスマートフォン等のモバイルへの移行、そして、コンピューターを自社購入して使う方法から、ネットワーク上のクラウド・サービス活用への移行だ。これに続くものとして、インターネット上で大量発生しているデータや、センサーなどInternet
of Things (IoT) のビッグデータ活用がある。また、先月のコラムで取り上げた、テレビ番組のインターネット視聴も、本流になってきているもののひとつだ。
4月に入り、IT各社の1-3月四半期の業績結果が出揃ってきた。これを見ると、モバイルへの移行と、クラウド・サービスへの移行という大きな流れによって、各社の数字に影響が出て来ているのが見て取れる。まず、近年のIT市場を牽引する4社から見ていこう。
かなりいい数字を出して来たのは、SNS大手のFacebookだ。売り上げは昨年同期比72%増の25億ドル(約2500億円)、利益は3倍近い6.42億ドル(約642億円)となった。これは、ウォールストリートのアナリスト予想をも上回っている。広告収入も82%伸び、22.7億ドル(約2270億円)となっている。これには、モバイル分野での広告収入増が大きく貢献している。
2年ほど前、Facebookはモバイル分野からの収入がほぼゼロという状況で、Facebookの将来に不安が持たれ、株価も低迷していた。そこでFacebookはその軸足をモバイルに据え、この2年間力を入れてきた。すでに昨年12月の記事「ふたたびホットなSNS株」でも取り上げたとおり、モバイル広告からの収入が急増し、株価も上昇してきた。その流れが、今期も継続している。今回の発表直後には、株価が6%上昇している。
3月の毎日のアクティブ・ユーザーは8億200万で、昨年を21%上回った。3月の月間アクティブ・ユーザーは12億8000万で、昨年より15%アップした。アクティブ・モバイル・ユーザーは10億1000万で、昨年より34%アップと、ユーザーのモバイルへの傾斜も明確だ。モバイル広告からの収入は、全体の59%となり、昨年の30%から大きく伸びている。
Appleは、売上を4.6%伸ばして456億ドル(約4兆5600億円)に、利益も7.4%伸ばして102億ドル(約1兆200億円)になり、粗利(Gross
Margin)も前年の37.5%から39.3%に向上するなど、引き続き順調だ。好業績に貢献したのは、今回もiPhoneの販売が順調だったこと。約4370万台売り、これは昨年より17%アップ、1-3月期では、これまで最高となった。この中には、中国での記録的な売上の貢献が含まれる。
Appleはさらに配当増、自社株買い、株式分割、これからの新製品発表の約束(内容は示さず)など、株主を喜ばす発表がたくさんあり、直後の市場では、株価が8%上昇した。ただ、スマートフォン市場は成熟化してきており、タブレット収入にも陰りが見える中、次に出してくる新しい製品の成否が、Appleのこれから数年に大きな影響を及ぼすことになる。
Googleは、売上が前年同期比19%アップの154億ドル(約1兆5400億円)と、相変わらず順調な伸びを示している。しかし、利益を見ると、伸びてはいるものの、3%の伸びで36.5億ドル(約3650億円)にとどまり、売上の伸びに比べると大きく下回っている。原因はいろいろあるが、Googleのドル箱であるサーチからの収入が、モバイルで伸び悩んでいることが上げられる。これは、モバイル、特にスマートフォンでは、画面が小さいため、サーチ関連広告やディスプレイ広告が、パソコンほどうまく表示できないこと、そのため広告単価も低くなっていることが影響している。パソコンからモバイルへの流れが、Googleに対して、マイナスの要因となったと言える。このため、発表直後の株価は、3%近く下落した。
Amazon.comは、売上を23%伸ばし、197.4億ドル(約1兆9740億円)とした。利益も若干伸びて1.08億ドル(108億円)としたが、利益は他の3社に比べると、桁が一つ違う小さな数字だ。ビジネス内容が他の3社と大きく異なるので、止むを得ない面もあるが、利益率が引き続きAmazonの課題だ。FireTV(先月のコラム記事参照)の発売や、多くの新しいサービスの開発にコストがかかっていることも、少なくとも短期的には利益の数字を圧迫している。クラウド・サービスは順調に拡大している模様だが、コスト競争が激しくなってきており、各種サービスの価格を数十%引き下げるなど、今後の利益圧迫要因となっている。また、次の四半期の赤字見込みを発表したことから、直後の株価は大きく下落した。
さて、この4社に対し、パソコン時代の雄、MicrosoftとIntelはどんな状況だろうか。Microsoftは、売上が8%アップの204億ドル(約2兆400億円)、利益は56.6億ドル(約5660億円)と、アナリストの予想を上回る好結果となった。パソコン市場がスマートフォンやタブレットに押され、新しいモバイル市場に出遅れて苦戦しているMicrosoftとしては、まずまず喜べる結果といえる。Microsoftは発表の中で、クラウド関連ビジネスの伸びが、今回の好業績につながったとしている。
具体的には、クラウド・ビジネスが前期の2倍になったこと、また、クラウドベースのソフトウェアOffice365 Homeが今期100万ユーザーを追加して、440万ユーザーになったことなどを上げている。最近発表されたOffice365のApple
iPad対応版なども、今後この分野での拡大を見込んだ戦略だ。また、パソコン市場の低迷も、以前に比べると、悪さのレベルが緩和したと述べている。4月に完了したNokiaのモバイル端末部門買収が、吉と出るか凶と出るかが、今後のMicrosoftに大きな影響を及ぼすことになる。
Intelも、Microsoft同様、パソコンからモバイルへの移行に乗り遅れた企業だ。そのため、今1-3月期の利益は、4.8%下がり、19.5億ドル(約1950億円)となった。しかし、売上は、1.5%とわずかながらアップし、127.6億ドル(約1兆2760億円)という結果となった。これは、パソコン市場の低下が、2桁パーセントだった昨年に比べ、今期は4.4%にとどまったことが貢献している。また、クラウド・サービスのためにデータセンターを拡張する動きに合わせ、サーバー向けチップが11%成長したのもプラス要因だ。ただ、今後重要なモバイルと通信部門では、売上が61%低下して1.55億ドル(約155億円)に低下し、営業損失も9.29億ドル(約929億円)へと膨らんだ。
今後に期待できる分野としては、ビッグデータ分析に関連する
IoT分野の売上が32%増えて4.82億ドル(約482億円)になり、営業利益も84%伸びて1.23億ドル(約123億円)になるなど、新しい分野でのビジネス拡大も見られる。ただし、昨年計画していたインターネット経由のビデオ配信サービスは、実現を見ないままVerizonに売却するなど、新しい分野でのビジネスは、まだまだこれからだ。
もう一社、パソコン時代が来る前のITの雄といえばIBMだ。一時の低迷期を抜け、今はITサービスに軸足を置いたビジネスで、すっかり回復した。ビッグデータ分析でも、クイズ番組の優勝者を破った、通称ワトソンという分析ソフトウェアを含む最先端マシンで、ヘルスケアをはじめ、いろいろな市場開拓が始まっている。しかしながら、クラウド・ビジネスへの出遅れが響き、今期売上は、4%減の225億ドル(約2兆2500億円)と、過去5年で最低となった。利益は21%減少して23.8億ドル(約2380億円)となった。ただし、これにはレイオフ対応のための8.7億ドル(約870億円)も含まれている。
売上減少のもっとも大きな理由は、ユーザーがクラウド利用にシフトしはじめ、ハードウェア・ビジネスが23%低下したことがあげられる。2000年以来、IBMは低マージンのパソコン・ビジネス等を次々に売却し、売上高にして160億ドル(約1兆6000億円)ほどを削ったが、利益はその間、倍以上になった。クラウド・ビジネスは今期50%以上伸びたが、今後のクラウド・ビジネス拡大のため、さらに12億ドルを投じて15のデータセンターを追加する予定だ。出遅れた分野を含め、成長戦略としてかかげるクラウド・サービス、ビッグデータ分析、ソーシャル、モバイル、セキュリティで、今後どれだけ市場を取れるかが注目される。
IT業界は動きが早く、IBMが隆盛を極めたメインフレーム・コンピューターの時代から、MicrosoftとIntelを主役とするパソコンの時代へ、そしてインターネット、モバイル、それを使ったクラウド・サービス、ソーシャル・ネットワーク、ビッグデータ分析の時代へと次々に移ってきている。そのたびに主役は変わるが、変化に対応して生き抜いていく企業もあれば、衰退してしまう企業もある。このコラムで取り上げた7社が、今後どのように発展していくか、またどんな新たなプレーヤーが出現してくるか、この業界から、常に目が離せない。
黒田 豊
(2014年5月)
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