「Facebookのスマートフォン」は、市場に受け入れられるか?
タイトルに、「Facebookのスマートフォン」と書いたが、実際、Facebookがスマートフォンを発売したわけではない。しかし、実質的にそれを狙ったものが、4月はじめに発表された。Facebook Homeがそれだ。以前からFacebookが独自のスマートフォンを発売するのではないかとのうわさがあったが、発表されたのは、Android
OSを使ったスマートフォン上でFacebookが前面に出たものだった。
もう少し具体的に言うと、このFacebook Homeを使ったスマートフォンを起動させると、通常のAndroidをベースにした画面ではなく、Facebook Homeの画面が最初に出てくる。あたかもFacebook専用のスマートフォンのようだ。通常のAndroidで動くアプリも、そのまま使えるが、Facebook
Homeの画面に隠れていて、アプリがたくさん並んでいるいつもの画面とは異なっている。普通のAndroidスマートフォンにFacebookのカバーをかけてしまったようなものだ。スキン(皮)をかけた、という表現もされている。これによって、スマートフォンをソーシャルフォンにするとFacebookは言っており、その結果、他のアプリはHomeの下の副次的なものとなる。
今回発表されたのは、Facebook HomeをプリインストールしたHTC社のHTC First、また、HTCとSamsungのいくつかの機種では、GoogleのアプリサイトGoogle
Playからダウンロードして使えるソフトウェアだ。他機種については、これからだ。Facebook独自のスマートフォンではなく、Android上のソフトウェアにしたのは、幅広いスマートフォン・ユーザーに対応するためと、Facebookでは説明している。ただし、Android版のみで、Apple
iOSを使ったiPhoneやiPad、またMicrosoftのOSには対応していない。
Facebook Homeの機能としては、大きく2つある。ひとつは、最初の画面である「Cover
Feed」。この言葉でもわかるように、表紙画面がFacebookの情報をフィードするようになっており、Facebook友達からの写真や投稿されたものが表示され、時間とともに、それが自動的に変わっていく。Facebook友達の様子をいつも見ていたい人には、便利な機能だ。Facebookは、これを「人を第一」(People First)にしたものと表現している。
もうひとつは、メッセージ機能の「Chat Heads」。これは、チャット(メッセージング)が表紙画面から簡単にできる機能だ。これにより、いちいちチャットのアプリを立ち上げる手間が省け、何かをやりながら、簡単にチャットすることができる。なお、Facebook
Homeをスマートフォンで使えるようにした後、気に入らなければ、Homeをオフにすることは可能で、その意味でFacebookも、Homeはあくまでもユーザーに提供するオプションと位置づけている。
Facebookは世界で11億人のユーザーを超え、その2/3以上はモバイルでも使っているので、このような機能は、Facebookをよく使う人たちには、とても便利な機能だと言える。実際、Facebookをモバイルでよく使う人たちからは、歓迎のコメントが寄せられている。
しかし、Facebookを使わないユーザー、あるいは、Facebookは使っても、ほかのアプリもいろいろ使い、Facebookは使うアプリの一つに過ぎないような人にとっては、どうだろう。そういう人たちには、おそらく今までどおりの一つのアプリとしてのFacebookのほうが、使いやすいのではないだろうか。実際、Facebookを使わない、あるいはたまにしか使わない人にとっては、今回のFacebook
Homeは、返ってスマートフォンを使いにくくするものだ、というのがHomeに対する評価だ。
さて、ユーザーにとっては、人によって便利だったり、そうでなかったりするHomeだが、Facebookにとって、また、競合するGoogleなどにとって、Homeが成功するかどうかは、大きな意味がある。それは、Facebook
Homeをユーザーが使った場合、ユーザーとのやりとりのインターフェースはHomeになり、GoogleのAndroidは裏に隠れてしまうからだ。つまり、Homeは、スマートフォンのユーザー・エクスペリエンスをAndroidから奪い取ってしまうことになるからだ。
Homeを使った場合、ユーザーとのやり取り、そのコントロール、ユーザーへの広告などは、Facebookが主役となり、Googleではなくなる。ユーザーがパソコンからスマートフォンやタブレットの使用へ大きくシフトしている中、モバイル広告は、その重要性をどんどん増してきている。現在、モバイル広告では、Androidを使ったスマートフォンやタブレットの急増で、Googleがトップを走っているが、Facebookも昨年あたりからモバイルに力を入れ、モバイル広告市場シェアでも、ほとんどゼロだったものが2012年には10%近くになった。そして、今年第一四半期には、Facebookのモバイル広告収入は、広告収入全体の約30%にあたる約$375
mil.(約375億円)になり、年間では$1 bil.(約1000億円)を優に超えると予想されている。ただし、それでもまだGoogleの1/4程度の模様だ。
これを一気に挽回しようというのが、今回のHomeの発表だ。ただし、Facebookも慎重に事を運ぼうとしており、最初の段階では、Homeに広告は入れないとの発表だ。もっとも、今後は、との質問には、いづれ広告も入れていくと明言している。まずは、ユーザーに使いやすさを知ってもらい、それから、ユーザーにとって邪魔にもなる広告を徐々に入れていこうという戦略だ。
最終的には、広告につながってくるが、ユーザーとのインターフェースを押さえるということは、ユーザーが何を考え、何をやろうとしているか等をもっともよく理解できるということだ。そうなると、ターゲットをしぼった広告が、より詳しいレベルで可能となり、広告費も高く取れるようになる。Googleにしても、Facebookにしても、サービスは無料で提供しつつ、広告で儲けようというビジネスモデルだ。いかにユーザーとのインターフェースをつかみ、そのユーザーを知り、ターゲット広告を提供できるかは、今後のビジネスにとって、もっとも重要な点だ。
現在、Facebook
HomeはAndroid用のみで、Apple用やMicrosoft用は存在しない。Googleは、Androidをオープンにして提供しているので、FacebookもHomeを表紙画面にすることが可能だったが、AppleやMicrosoftは、このような、ユーザーとのインターフェースを奪われるようなことは、おそらく許さないだろう。Appleはサーチ機能を自社で持っていないので、ユーザーがGoogleのサーチなどをして、ユーザーの行動情報がGoogleに行く前に、パーソナル・アシスタントのSiriでユーザーの行動情報を獲得しようとしている。Microsoftは、今回のFacebook
Homeと同様、タイルを張ったような、時間とともに内容の変わる表紙画面を用意し、ユーザーの行動情報を得ようとしているとともに、独自のサーチ機能であるBingも用意している。
Googleにとって、Facebook HomeがAndroidを使った端末でしか使えないということは、AppleやMicrosoftに対する差別化になる、というプラス面はある。しかし、もしFacebook Homeが多くのユーザーに受け入れられ、多くの人がこれを使い始め、ユーザーとのインターフェースがFacebook Homeになってしまったら、どうだろう。GoogleがAndroid
OSをオープンにして、無料で使ってもらっている意味がなくなってしまう。これに対し、Googleがどのような対応をしてくるか、FacebookのZuckerberg社長も、わからない、と言っている。Facebook Homeがユーザーに受け入れられるかどうか、そして、もし広く受け入れられた場合、Googleがどのような対抗手段を講じてくるか、この先の動きを注目したい。
黒田 豊
(2013年5月)
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