ふたたびホットなSNS株

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が大きな話題になってからすでに何年か経つが、2012年5月のFacebook株式上場の結果が芳しくなく、SNSへの期待度がここしばらく低下していたように思える。逆にFacebook離れが起こっているのではないか、と言われるほどであった。しかし、ここに来て、また状況は大きく変わってきた。

11月7日、Facebookの次に大きく注目され、日本でも人気の高いTwitterが株式上場した。そして、その初日には、上場値の$26.00を大きく72.7%上回る$44.90で終了した。Twitterの株式上場は大きな注目を集めていたものの、本当にこのタイミングでの上場は大丈夫か、という不安の声も上場前には聞かれていた。1年半前のFacebookが、すでに利益を$1 bil.上げていた企業にもかかわらず、上場後しばらく上場値以下で低迷したこと、また、Twitterがいまだに利益を上げていない企業であることなどが、大きな不安材料だった。しかし、結果はその不安を吹き飛ばすものとなった。

Twitterに将来性があると考える根拠は、すでに世界で2.5億人のユーザーがいることに加え、最近モバイルをベースにしたものが大きく広がるなか、Twitterはモバイルに、そしてリアルタイムに対応することが得意ということが上げられる。そして、今後の収入源として、単にTwitterでの広告だけでなく、Twitterの情報解析により、リアルタイムでマーケティング・キャンペーンなどに対応できることも、大いに注目されている。

その中で、今一番注目されているものに、テレビとTwitterの連携プレーがある。最近、テレビを見ながら、手元にタブレットやスマートフォンをセカンド・スクリーンとして置き、見ている番組について友人とチャットしたり、Twitterでつぶやくことが盛んになっている。テレビ番組を見ながらTwitterのつぶやきをする人が増えると、その結果その番組を見る人が増える。そしてその結果、さらにその番組に関するTwitterのつぶやきが増えるという好循環が生まれる。調査会社のNielsenによると、高視聴率の番組がよりTwitterでのつぶやきを増やしているケースが48%、逆にTwitterでのつぶやきが多いと番組視聴率が高くなるケースが29%と出ている。

テレビ番組にとっては、リアルタイムにその番組に対する反応を見ることができ、また、その反応がよく、Twitterのつぶやきが増えると、それによって視聴率が上がるというメリットもある。最近言われているソーシャルTVにTwitterはかかせない、というわけだ。テレビを見ながらのTwitterのつぶやきは、番組についてだけに限らず、コマーシャルに対してもつぶやきがある。そのため、コマーシャルそのものに対しての反応もよくわかるので、広告主にとっても便利だ。一方Twitter側も、広告収入以外の収入源として、テレビは大きな魅力だ。なんと言っても、企業の広告はテレビに一番使われているのだから。

一般にTwitterのつぶやきの多くは、個人的なもので、それはなかなか収入につなげる(モネタイズする)ことは難しい。しかし、テレビとなれば別だ。そこで、Twitterはこの分野に力を入れるべく、ソーシャルTV分析ベンチャー企業のTrendrrを買収し、テレビ視聴率などを調査することで有名なNielsenとパートナーを組み、Nielsen Twitter TV Ratingsというものを作っている。Twitterの収益が今後大きく伸びるかどうかは、このソーシャルTVでうまく収入を得ることができるかに、大きくかかっている。

モバイル環境、そしてリアルタイム環境で強みを発揮するTwitterは、テレビ番組の評価に大きな役割を果たすだけでなく、いろいろなイベント、また災害時にも大きな役割を果たすことは、すでに多くの事例で実証済みだ。しかし、Twitterの収入は、まだまだ新たな機能を追加するための開発コスト等に追いついておらず、黒字化するまでにどれくらいかかるか見えていない。

ユーザー数もFacebookに比べると1/4程度で、そろそろ頭打ちではないかとの予測もある。さらに問題なのは、Twitterの偽アカウント問題だ。Twitterでは一人で複数のアカウントを作成することができることもあり、Facebookなどに比べ、偽アカウントが作りやすいと言われている。Twitter社の予想では、偽アカウントは全体の5%程度とのことだが、別な専門家は、もっと高い数字ではないかと述べている。もし偽アカウントをうまく分別できないとすると、テレビに対するコメント、有名人をフォローする人数、また政治的な動きについても、なんらかの恣意的な操作が可能となってしまい、大きな問題となってくる。

Twitterのつぶやき分析をビジネス・デシジョンに使おうとすると、なおさらだ。ここで信頼できる数字が提供できないと、Twitter分析によるモネタイズが難しくなってしまう。このようなTwitterの将来に対する懸念、また上場直後の株価では会社の時価総額が現在の売上高に対して高過ぎるとの評価もアナリストの中にあり、Twitter株は「売り」とのレコメンデーションも出てきたため、その後株価はやや低下して、この記事を書いている11月29日現在、$41.57となっている。

昨年5月の株式上場以降、株価が低迷していたFacebookはどうだろう。Facebookの株価が低迷した大きな理由のひとつに、今後有望なモバイル分野での収入が、上場当時ほぼゼロだったことが上げられていた。そのため、Facebookはモバイル分野にこの1年半大きく力を入れ、その結果、今年第3四半期では、モバイルからの広告収入が$882 mil.と、広告収入の49%にまでなった。全社売り上げも$2 bilを越え、.昨年に比べ60%アップしている。株価も上場値の$38を越え、11月29日現在$47.01まで上がっている。

しかし、Facebookの将来にも懸念がないわけではない。10代の若い世代の利用が低下しているとの発表が第3四半期の結果とともに出され、それがひとつの懸念となっている。この世代では、新しいSNSであるSnapchat、日本やアジアではLINEなどが広く使われ、その結果Facebookの利用が低下している模様だ。そこでFacebookは、まだ収入すらないSnapchatを$3 bil..という高額で買収しようとした。しかし、Snapchatはそれを拒否し、独自の道を歩もうとしている。

このように、TwitterやFacebookは、その将来に懸念はあるものの、株式は人気が高まっている。また、主にビジネス向けを対象とし、2011年5月に株式上場したLinkedInは、上場値$45からスタートし、現在は$222.93、1年前と比べても倍以上になっている。そして、まだ上場の予定は決まっていないが、会社価値評価の高いSNSベンチャー企業が何社か待機している。すでに書いたSnapchatは、Facebookの$3 bil.の買収提案を拒否しただけでなく、別な会社からの$4 bil.の買収話も拒否したという話だ。昨年5月のコラム「SNSあれこれ」で紹介したPinterestは、最近$225 mil.の追加投資を受け入れ、そのときの会社の評価額は$4 bil.近い。

金融緩和のため余剰資金が株式投資に向かっており、株式市場全体が活況を呈しているという外的な条件は、確かにある。しかし、その中で、今後大きな成長が見込めるインターネット関連株、なかでもSNSを含むコンシューマー向けサービスのベンチャー企業への投資が増えていることも事実だ。SNSが一時的なブームではなく、これからも継続して使われ、世の中の動きに大きな影響を与える可能性を、多くの人たちが見出していることは間違いない。そのため、SNS各社の株に人気が集まっている。ただ、すべてのSNSが成功するわけではない。一時隆盛を誇ったMySpaceが今や従業員200人程度の小さな会社になってしまった例もある。SNS株に投資する場合は、どのSNSが今後勝ち残っていくかを見る目も必要だ。

  黒田 豊

(2013年12月)

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