進化する携帯端末と通信料金
iPhoneにはじまったスマートフォンの発展は、GoogleのAndroid OSを使ったスマートフォンも広がり始め、さらに6月7日にはiPhone 4が発表され(初出荷は日米とも6月24日だが、米国では一時予約販売が1日で中止されるほどの売れ行き)、どんどん進化している。新しいiPhone
4の特徴は、より薄く、解像度の高い鮮明な画面、新しいビデオ機能付きの前後面カメラ、マルチタスキング可能な新しいOS、そしてビデオ通話のFaceTimeなど多彩だ。使えるアプリケーションもすでに225,000あると言う。
また、新しい携帯端末のタブレットPCでもAppleが4月に発売開始したiPadが、発売59日ですでに200万台を売るなど、予想を上回る売れ行きで人気を博しており、他社も追随のための製品を準備中だ。
いづれも見やすい画面で、静止画だけでなく、ビデオコンテンツを見るのに適しているといえる。私の持っているiPhone 3GSでも結構解像度がよく、ビデオを見ることもそれほど苦痛ではないが、これがさらに解像度4倍のiPhone 4になれば、たとえ小型の画面でも、ビデオを見るのが楽しくなりそうだし、iPadのような大きな画面であればなおさらだ。
このようにスマートフォンやタブレットPCでビデオをたくさん見始めると、気になるのは通信料金だ。これまでは、携帯端末利用を拡大しようと、米国のAT&TやVerizonなどの通信サービス各社は、通信量無制限の通信サービス価格を設け、多くの人たちはこれによって、どれだけビデオを見ても通信コストを心配しなくてよかった。
ユーザーは、携帯端末でメールなど、文字情報をやりとりしていたものが、ウェブをアクセスするようになり、また、携帯端末で撮影した写真などを送り始めた。これら静止画像の通信は文字よりはるかに大きな通信量だが、まだそれでもそれほど大きな問題はなかった。しかし、今度はビデオコンテンツだ。これは静止画を毎秒何十回も通信しているようなものだから、その通信量はかなりのものになる。これまでは通信量無制限の料金システムのお陰で、たくさんのユーザーが携帯端末を購入し、その普及には大いに貢献したが、今度は通信サービス会社が悲鳴を上げはじめている。
このままビデオコンテンツの通信がどんどん増えれば、ネットワークを増強しなければならず、そのコストは通信サービス会社にとって極めて大きい。しかし、通信量無制限の通信価格のままでは、いくらユーザーがネットワークをたくさん使っても、収入は増えない。これでは、通信サービス会社の収支が悪化するのは目にみえている。幸い、すべての人がしょっちゅうビデオコンテンツを見ているわけではなく、それはごく一部の人達だけだ。逆に言うと、ごく一部の人達が他の人たちと同じ料金しか払っていないのに、通信回線をたくさん使っているわけだ。
そこで、まずAT&Tは、他社に先駆け、通信量無制限の料金システムをなくし、通信量に合わせた価格にすることを決定し、6月2日に発表し、6月7日から実施された。ユーザーとしては、せっかく新しいiPadやiPhone
4でたくさんのビデオを見たいところだが、今度は通信コストを気にしながらしなければならないことになる。ただし、これは新規ユーザーのみが対象で、これまで通信料無制限の契約をしている人は、そのままそれを続けることができる。
また、新規ユーザーにも逃げ道はある。通信のために携帯電話網を使うのではなく、WiFiを使うことだ。これは、通信量に合わせて課金されるのが、携帯電話網を使ったときだけだからだ。WiFiを使えばビデオコンテンツをたくさん見ても、問題はない。AT&Tの場合、幸いWiFiホットスポットはスターバックス、マクドナルドをはじめ、全米で20,000箇所以上あり、それらはAT&Tとこの新しい携帯電話契約をしていると、無料で使うことが出来る。自宅で使う場合は、ADSLやケーブルモデムでインターネット接続している場合が米国では多いが、これにWiFi付きのルーターをつければ、自宅でもWiFiを使い、携帯電話網を使わないことになるので、制限をオーバーして多額の通信費を取られる心配はない。
このように逃げ道は十分あるわけだが、それを知ってきちっと対応しないと、多額の通信費を取られることになりかねないので、ユーザーは十分注意を要する。ユーザーにとっては少々不便なことになるが、長い目でみれば、これも仕方のないところだろう。物事が長続きするためには、ユーザーが便利で得をするだけでなく、サービスを提供する側も、利益の出るビジネスモデルが確立されていないといけないことだから。
黒田 豊
(2010年7月)
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