YouTubeはビジネスモデルを確立できるか
インターネット上のYouTubeはご存知だろうか? インターネットを自在にこなし、楽しむ人はほとんど知っていると思うが、簡単に説明すると、YouTubeはインターネット上で、自分の作成したビデオを公開できるサイトである。どんなものかは、www.youtube.comに行ってみるのが、最も手っ取り早いだろう。
なあんだ、単なる素人のビデオを集めただけか、つまらなくて見る気もしない、などと思う人も多いかもしれないが、そう簡単に片付けられるものではない。何せ毎日世界でなんと7,000万のビデオが見られており(ユニーク・ユーザー数は600万人)、ページビュー(page view)数では2億ページと、インターネット上で18番目に多いというのだから、かなりの集客力である。
この会社、設立は2005年2月とまだ新しい。しかも、ビデオをテスト的に公開しはじめたのは2005年5月。正式にサービスを開始したのは2005年12月だから、まだ半年あまりしか経っていない。にもかかわらず、すでに7,000万ビデオが毎日見られており、このサイトにビデオが送られてくる(Uploadされる)数も、毎日6万にもおよぶ。すでに有力ベンチャーキャピタルのSequoia
Capitalが1,150万ドル(約13億円)投資している。
YouTubeでは、自分の作成したビデオを世界中の人々に公開することも出来るし、自分の家族や知り合いだけに公開することも出来る。このあたりは、ブログやソーシャル・ネットーワークサイトと同じだ。YouTubeのビデオを自分のブログなどに組み込むこともできる。
インターネットとは不思議なもので、YouTubeが大々的に宣伝をして人を集めた様子はないが、それでもこれだけの人がわずか半年あまりで集まってしまった。一度人々の目にとまると、インターネット上では、瞬く間に世界中の人たちに広がることがよくわかる。いままで何度も書いてきたし、先月のコラムでも書いたと記憶しているが、インターネット上で成功するには、「いかに人を集めるか」が大きな要素となる。その意味で、YouTubeは、その第一関門をすでにクリアしている。
しかしながら、人を集めただけでは、必ずしも成功しない。いい例がNapsterである。音楽ファイルの無料共有を提供したNapsterは、人を多く集めるという点では成功したが、著作権問題で音楽CD会社等から訴えられる等、問題のほうが大きくなり、結局そのままの方式では成功しなかった。YouTubeでも同様に一部著作権のあるビデオをUploadした人たちがいたが、これに対してYouTubeでは、いち早くそのビデオを見れなくするなど、素早い対応をとったため、ビデオコンテンツ著作権を持つ会社からは、いまのところ評価が高く、Napsterと同じ問題は起こっていない。
Napsterと同じ問題が起こらないとしても、YouTubeとして、なんらかの収入を得るビジネスモデルを確立しないと成功しないことに変わりはない。無料サービスのYahooやGoogleが成功しているのは、基本的に広告モデルである。YouTubeも無料サービスを続ける方針なので、なんらかの広告モデルで収入を得るというのが基本的な考え方である。
YouTubeのサイトに行くと、YouTubeの考えるビジネスモデルが載っており、それによると、ビジネスモデルは広告収入モデルであり、promotion(何かのセールス・プロモーション)、sponsorship(スポンサー)、contextual-based advertising(ユーザーの入力したキーワード等に関連した広告)、traditional banner
advertising(バナー広告)、等が上げられている
すでに米国大手4大ネットワークの1つであるNBCは、この6月17日にYouTubeと戦略パートナーシップ契約を結び、NBCのテレビ番組をYouTubeでプロモーションしようとしている。具体的には、YouTubeのサイトにNBCチャンネルを設け、そこでNBCの秋の新番組、そして来年の番組をプロモーションしようとしている。NBCチャンネルに加え、YouTubeは、そのサイト全体でNBCのビデオをプロモーションする予定である。
NBCは単にNBCのプロモーション用ビデオを見せるだけでなく、視聴者から20秒以内の番組プロモーション・ビデオを募集し、コンテストを行って優勝者のビデオは実際のNBCテレビ番組で流される予定になっている。NBCとしても、単にプロモーション広告をYouTubeに出すだけでなく、YouTubeユーザーにも参加してもらおうという趣向である。
バナー広告でも、ディズニーの「カリブの海賊」(Pirates of the Caribbean)がYouTubeにバナー広告を出した。YouTubeの貢献がどれだけあったかは、わからないが、この映画は封切1週間の入場者記録を作ったようだ。
さて、このようにYouTubeが成功しそうな兆しはいろいろとあるが、うまくいかない可能性もないわけではない。サイトへのアクセスが多いのは良いが、ビデオコンテンツをユーザーが満足いく通信速度で提供するためには、それなりのコストがかかる。一説によると、YouTubeは通信費用だけでも月に30万から40万ドル(約3500から4500万円)かかると言われている。これにその他のコストを加算すると、1,150万ドル(約13億円)の資金が底をつくまでにそれほど時間はかからない。
また、広告主に魅力的なものとするための材料がYouTubeにあるかどうか、疑問に感じている向きもある。所詮素人のビデオがほとんどなので、それを見にくる人達にどれほど有効な広告が打てるか、という疑問だ。Googleのサーチだと、かなり詳細なキーワード・サーチなどに対して、焦点を当てた安価な広告が打てるため、小規模企業も広告を打つことができ、いままでになかったようなビジネスモデルが出来上がった。YouTubeはGoogleと同じ手法ではうまくいかないだろう。
また、著作権のあるコンテンツのUploadへの対応にしても、YouTubeは明らかにそれを阻止しようとしているし、業界もそれを歓迎しているが、毎日6万ものビデオがUploadされる現状で、本当に十分な対応ができるのか、疑問視する向きもある。また、ポルノなど、18才未満に見せたくないような内容のものがUploadされた場合どうするのかも、事前に年齢を含むユーザー登録をさせているが、それだけで十分かどうか不安だ。ソーシャル・ネットワーキング・サイトで有名になったMySpaceも、個人情報が悪用され、犯罪に発展するなどの問題も起きており、YouTubeでも同様のことが起こりかねない。
このようにさまざまな問題もかかえているYouTubeであるが、現在のYouTubeに多くの人が集まってきていることは確かであり、多くの人が集まれば、インターネットではなんらかのビジネスになる可能性は高い。そういう意味で、YouTubeには大きな可能性が感じられる。ただ、うまいビジネスモデルを早く作り上げないと、Yahoo、Googleなどを含む他の類似サイトがよりよいビジネスモデルで迫ってきたとき、負けてしまう可能性がある。YouTubeがどれくらい有効なビジネスモデルをどれだけ早く出してこれるか、YouTubeの将来にかかわる大きな問題である。
黒田 豊
(2006年7月)
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