変わるシリコンバレーのベンチャー企業、ベンチャーキャピタル
シリコンバレーといえばベンチャー企業、ベンチャー企業といえばシリコンバレーと言われるほど、シリコンバレーとベンチャー企業のつながりは極めて強い。もう何年も前になるが、日本の将来のために日本でもベンチャー企業を立ち上げる環境を作る必要がある、ということで、日本から代議士や政府関係者を含め、多くの方々が視察のためにシリコンバレーを訪れ、私も何回かそのような方々の訪問を受けた。
そのおかげかどうかわからないが、日本でも随分とベンチャー企業が立ち上がるようになってきた。日本でも大企業が倒産して消えてなくなるなど、以前のように大企業に勤めるのがベストという考え方が薄れてきて、優秀な人材がベンチャー企業にチャレンジするようになったのは、ベンチャー企業が増えた一つの大きな要因であろう。また、IT関連のベンチャーで成功して、若くして大金をものにした人々を見て、さらにベンチャー企業へ進む人が増えていることと思う。
ベンチャー企業といえば、何か新しいビジネスアイディアをもとにしてビジネスケースを作り、ベンチャーキャピタルのお金を頼って、ベンチャーキャピタルに対して一生懸命プレゼンテーションして回る姿が目に浮かぶ。そして、ベンチャーキャピタルは厳しい目でベンチャー資金を求めてくる多くのベンチャー企業の中から、ほんの一握りの会社に資金を投入する。その資金を得るためのベンチャー企業の苦労は並大抵のものではない。
ただ、インターネット関連でベンチャー企業がたくさん出てきた、いわゆるバブルの時期には、状況が異なっていた。ベンチャーキャピタルもインターネットの大きな波に乗り遅れまいと、一生懸命投資先を探し、以前に比べると、ずっと甘い基準で資金を投入していった。普段ならベンチャー企業がもってくるビジネスケースを厳しくチェックするはずのベンチャーキャピタルが、逆に安易なビジネスケースを作って投資を正当化したという話も聞いている。このようなことが起こった一つの理由には、当時はベンチャー企業に投資したいという会社が多かったため、資金が簡単に集められ、昔からあるベンチャーキャピタルに加え、にわかベンチャーキャピタルが多く発生したことも上げられる。
このようにして、たくさんの資金が安易にインターネット関連を中心としたベンチャー企業に流れ込んだ結果は、みなさんご存知の通りである。多くのいい加減なベンチャー企業はつぶれ、また、本来資金調達がうまく継続していれば順調に伸びたかもしれないベンチャー企業も、突然投資資金が枯渇してしまったため、死んでいったものも多かった。
このようなベンチャー暗黒の数年を過ぎ、シリコンバレーも再びベンチャー資金がバブル以前の水準に戻ってきている。ただ、ベンチャー企業とベンチャーキャピタルの関係、またその狙い等は、以前とちょっと違ってきている。
ベンチャーキャピタルはベンチャー企業に資金を提供し、さらにその人的ネットワークを利用して、投資したベンチャー企業が成功するようにいろいろと手伝ってくれる。そういう面だけを見ると、ベンチャー企業にとってベンチャーキャピタルは神様のような存在である。しかし、この神様は、同時に悪魔の顔も合わせもっている。それは、ベンチャーキャピタルが投資した会社の長期的な成功を考えるよりも、短期的な成功、通常の場合は株式上場という形で大きな利益を得ようとしているためだ。
そのため、多少の長期的利益を犠牲にしてでも短期の利益に走ったり、創業者といえども、その意にそわないと判断したら、簡単に追い出してしまう、怖い存在でもある。当たり前の話だが、ベンチャーキャピタルは、お金も出すが、口も大いに出すわけである。
したがって、ベンチャー企業の創業者としては、ベンチャーキャピタルの資金はほしいが、可能であれば、ベンチャーキャピタルの利用は最小限にしたい、という面もある。そういう意味で、最近の、特に新しいインターネット関連ベンチャー企業の中には、ベンチャーキャピタル不要をとなえる企業も増えてきている。
それには、二つの理由がある。一つは、ベンチャー企業を立ち上げるコストが数年前より格段に安くなっているという点である。サーバーやストレージなどのハードウェア価格が大幅に下がっていることに加え、ソフトウェアも無料で使えるオープンソースのものが広がっている。ソフトウェアの開発についても、インドや中国、さらに東欧やロシアなどのソフトウェアエンジニアを使うと、かなり安価にソフトウェアが開発できる。これによって、ベンチャー企業立ち上げのコストが数年前の1/10、さらに場合によっては1/100になったとまで言われている。
もう一つの理由は、ベンチャー企業の出口戦略(Exit
Strategy)の変化である。以前はベンチャー企業の成功は株式上場にあった。そのためには、ある程度の年数と、規模の拡大が必要であり、それには、どうしてもベンチャーキャピタル等の外部資金を必要としていた。上に述べたように、ベンチャー企業立ち上げのコストが大幅に下がったとはいえ、会社を株式上場まで持っていくのであれば、やはりベンチャーキャピタル資金は必要となる場合が多い。
ところが、最近のベンチャー企業は、会社として成功して株式上場するのではなく、比較的早い時期に、別な会社に買収してもらおうという作戦の会社も多い。中でもYahoo、Google、Microsoftあたりに買収されることを狙う会社が多い。ベンチャー立ち上げのビジネスアイディアにしても、今Yahooで抜けている機能は何か、Googleで抜けている機能はないか、という点を狙ってビジネスを立ち上げている企業も少なくない。そのため、ベンチャーキャピタルの資金は不要というわけだ。ベンチャーキャピタルにしても、この流れに合わせ、早くYahoo、Google、Microsoftなどに買収されそうな企業に積極的に投資するという動きも出ている。
このような動きがこれからも継続すると、Yahoo、Google、Microsoftなどはどんどん肥大化し、別なユニークなビジネスのベンチャーが単独で大きく成長する機会が少なくなってしまう。そもそものベンチャーの考え方からすると、あまりいい流れのようには思えないが、ベンチャー企業創業者もベンチャーキャピタルもお金目当てでやっている以上、このような流れもやむを得ないのかもしれない。ベンチャーキャピタルに頼るかどうかは別にしても、自分の立ち上げたベンチャー企業を大きく成長させたいという心意気のある創業者がいなくならないことを願いたい。
黒田 豊
(2005年12月)
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