躍進するGoogle

インターネットのサーチエンジンで有名なGoogle。インターネットを使っている人なら、ほとんどの人が何かの情報を見つけるためにGoogle(www.google.comまたはwww.google.co.jp)でキーワード検索をしたことがあるだろう。そのGoogleが今年8月に米国NASDAQ市場に上場し、その後も株価は上昇し、すでに株式上場したときの2倍以上になっている。

インターネット関連ベンチャー企業の株式上場は1996年―2000年頃が中心であった。その後は、インターネット関連市場のバブル崩壊もあって、当時株式上場して勢いのよかった多くのベンチャー企業も、株価が大幅に下落して低迷したり、会社自体がなくなってしまったところも少なくない。そんな中で、2004年になってのGoogleの株式上場は大いに話題をふりまいた。

Googleの株式上場が大きな話題になった理由は、いくつかあるが、まず、2004年になって、まだ株式上場していないインターネット関連企業で、上場に足る業績を上げている企業であることが上げられる。実際、Googleは2003年の業績で、売上が9億6,200万ドル、利益も1億600万ドルと、しっかり黒字であるばかりか、その利益率が高い。もう一つの注目された理由は、株式上場にダッチ・オークション方式を取り入れたことだ。通常の株式上場では、Wall Streetの証券会社が幹事会社となり、株式上場価格を設定し、事前に株式購入先も決めるわけだが、この方式だと、一般投資家は、ほとんど株式上場時に、その価格で株式を購入することが出来ない。これを、オークション方式により、株式を買いたい人が自分で価格を決めて入札することにより、一般投資家にも人気の高いGoogle株を買ってもらおうと言う訳である。

特に、このオークション方式により、一般投資家の間で、Google株を買うべきか、いくらで入札すべきか、ということが話題になった。また、このオークション方式のため、新規株式を発行するのではなく、創業者や創業当時からの出資者(主にベンチャーキャピタル)が、持っている株式を売るという方式も話題を呼んだ。ただ、当初Googleが株式上場見込み価格を$108-$135と、かなり高く設定したため、騒がれた割には、以外と人気が出ず、オークションをはじめてからも、Googleが売ろうとしていた2,460万株に対する買い注文が入らず、結局最終的には$85で、1,960万株を株式上場時点で販売することができた。それでも一般的な株式上場時の株価が$10-$20程度であることを考えると、この株式上場は大きな成功と言える。ちなみに、新聞などでも、秘書でGoogleに入社した人が1,000株のストック・オプションをもらっていたとすると、およそ900万円くらい儲かったことになる、というような話が出ていて、皆、Googleに入社していれば。。。という、いつものため息をついていたことは、言うまでもない。

さて、久しぶりのインターネット関連株の株式上場ということで、それだけでも話題に事欠かないが、もう一歩踏み込んで、何故Googleがこの時期に上場できるまでに業績を上げられたかも見てみたい。Googleはご存知のように、インターネットのサーチエンジンである。そして、その売上はほとんどが広告収入である。その会社が大きな成功を収めているということは、当たり前だが、次の2つのことが言える。
― インターネットを使うには、サーチエンジンが極めて重要であり、多くの人がそれを利用する
― インターネット広告だけで、十分ビジネスになる
ということである。

インターネットは情報の宝庫である。しかし、ほしい情報を探すのが大変、ということで、Googleのようなキーワードによる検索、また、Yahooのような、情報を分類整理して検索しやすくしたサイト(Yahooもキーワード検索機能をもっている――もともとはGoogleをサーチエンジンとして使っていたが、最近は独自のものを使っている)が、大いに有効というわけだ。キーワード検索は、いままでにもいろいろあったが、なかなかほしいものが上位に検索されず、不自由していたが、少なくとも現時点では、Googleがもっとも使い易いサーチエンジンという評判が高まり、Googleが1998年に会社を設立した当時は一日10,000件程度だった検索が、1999年には一日300万件、2000年には一日6,000万件、現在では一日2億件以上の検索があるという。

インターネット広告だけで、十分ビジネスになるという点も大きい。インターネット広告も、当初はバナー広告という、単にウェブページのどこかに広告の表示をしていたものから、かなり進化してきた。市場規模的に見ても、米国で今年100億ドルに迫る勢いである。特に、サーチエンジンと組み合わせたものをうまく活用したのがGoogleということになる。インターネット広告には、いろいろなものがあり、たとえば、ポップアップ広告(あるウェブサイトに行ったときに、別なページが飛び出してくる(ポップアップする))などは、かなりユーザーに嫌がられ、ポップアップ広告が出てこないようにするためのソフトウェアもあるほどである。

しかし、Googleを使った人ならわかると思うが、Googleを使っていて、それほど広告が邪魔になったということはないのではないだろうか? それは、検索結果の右側に、ほんの数行で、関連するサイトの広告(というよりも関連サイトのリンクを張っているだけに近い)を出しているものだからである。これだと、邪魔な感じはしない。また、検索結果がたくさん出てきたような場合、それを一つ一つチェックするよりも、まず広告の出ているところに行ってみよう、となる場合も多い。これは、職業別電話帳で何かを調べた場合、その一つ一つを見るよりも、そこに出ている広告を見て、そこに電話する場合が多いのに似ている。このように、それとない広告なので、ユーザーにも邪魔にならないわけである。

また、Googleは、広告を出す側にも便宜を図り、小さな会社でも広告を出しやすくしている。まず、通常の広告のように、広告を出すだけで高い広告費を取らない。その広告を見た人がクリックしたときに、はじめてお金を取る仕組みである。このクリックによる支払い、いわゆる成功報酬型のインターネット広告は、いままでもあったが、サーチエンジンと組み合わせることによって、急激にその有効性を発揮しはじめた。例えば、自分の住んでいる地域にある酒屋を探すような場合、地域名と酒屋をキーワードにして検索したところに、その近くにある酒屋の広告が出れば、ユーザーにとってはとても便利である。広告を出す側も、どのようなキーワードの時に自分の広告が出るようにするかの指定が出来、北海道の人が自分の近くの酒屋を探しているときに、九州の酒屋の広告が出ることはない(もちろん、全国通信販売しているような場合は別だが)。

さらに、その広告の料金体系も、自分で金額を設定でき、日本では、最低1クリック7円から受け付けている。1日の最高限度額も設定でき、広告コストが予定より大きくなり過ぎないように出来るのも、ユーザーにとってはとても便利だ。自分で金額が設定できるということが不思議に思えるかもしれないが、金額を多く支払った人(または会社)のほうが優先的に広告表示されるように出来ている。したがって、競争率の高いキーワードでは、ある程度の金額を支払わないと、目立った広告にならないが、キーワードをしぼり、特定地域(例えば市)と酒屋という両方を組み合わせたキーワードで指定すれば、競争率もそれほど高くないことになる。

このように、Googleは、インターネット上でのサーチ機能とインターネット広告をうまく組み合わせた、市場にうまく受け入れられるビジネスモデルを作り上げたわけだ。これを見て、Yahoo、Microsoftなども、同様のビジネスモデルでGoogleを追いかけようとしている。

さて、すでに株式上場時から株価が2倍以上になったGoogle株を買うべきかどうか。Googleの将来性は評価したいが、すでに株式時価総額はGMやFordを上回り、また、これから来年2月にかけて、Googleの社員等が株を売ることが出来るようになってくる(株式上場時から当分の間は売ることができない)ということもあるので、私は少なくとも2月までは様子を見たい。Googleの株式上場時のオークションに参加しなかったのは、残念ながら失敗でした。

  黒田 豊

(2004年10月)

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