アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)の将来

アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP:Application Service Provider)については、ご存知の方も多いだろう。ASPとは、簡単に言うと、コンピューター・アプリケーション(または特定のソフトウェア)をネットワーク経由で提供するものである。いわゆるネットワークを利用したシステムのアウトソーシングである。古くはメインフレーム・コンピューターをタイムシェアリング等でネットワーク経由で利用させるサービスも、これに近い(または、広い意味ではこの中に入る)ものである。

ここ数年、このASPが注目されているのは、ネットワークのなかでもインターネットを利用してアプリケーションを提供するという動きが活発になってきたからである。ASPには、単純なソフトウェアを提供するものがある反面、ERPなど特定ソフトウェアをベースにその顧客向けに構築したアプリケーションを提供するものもある。

ASPが提供するサービス(アプリケーション)としては、主に以下のようなものが上げられる。
 - エレクトロニック・コマース
 - ERPシステム
 - CRMシステム
 - その他のアプリケーション・システム
 - カスタム・アプリケーション・システム
 - Microsoft Office2000などのパッケージ・ソフトウェア
 - 電子メール・システム

ASPの目指すターゲット市場は、主に中小規模の顧客であるが、特定のアプリケーションに限っては、大企業も利用する可能性がある。3年ほど前からASPサービスを中核にしたビジネスを展開するベンチャー企業がいろいろと出現し、ベンチャーキャピタルもASP市場を将来性の高いものと考え、ここ数年で、約500のASP会社に対し、総額100億ドル(約1兆2500億円)にもおよぶ資金を投入したと言われている。その中でも、有力なベンチャー企業であるUSinternetworkingやCorioは株式上場し、高い株価を確保していた。市場調査会社もASP市場の将来性を高く予測し、ある市場調査会社は2001年末には、60億ドル(約7500億円)の市場になるとの予測を出していた。

ASPを利用するユーザーの得られる利点は、大体想像できると思うが、主に以下のようなものになる。
 - システムへの初期投資の大幅削減
 - 情報システム・スタッフのコスト削減
 - 特定アプリケーションのスキル不要
 - システム保守費用の削減
 - インターネット経由によるどこからでも可能なアクセス
 - インターネット経由による一般ユーザーへのアプリケーション開放サービス(例、Fedex)
 - サーバーへの高速アクセス
 - 中小規模企業にもERPのような大規模アプリケーションが導入可能

このように、一見ばら色のようなASP市場だが、現実は残念ながらそのように順調に市場は大きくなっていかなかった。ASP市場規模は、2001年の予測でも、以前の予測である60億ドルの1/10の約6億ドル(約750億円)程度と予想されている。USinternetworkingやCorioにしても、ASPサービスを提供するためのデータセンター作りなどの先行投資負担が大きく、大きな赤字をもうしばらく解消出来そうにない。そのため、株価も暴落している。

ASP市場規模がこのように予想を大きく下回ったのは、主に以下のような原因が上げられる。
― ASPサービスのためのデータセンター構築の高額投資
― 顧客のASP利用への躊躇(会社として、重要アプリケーションのコントロールが出来なくなる事。セキュリティの不安など)
― ASPサービスで提供する高額ソフトウェアの費用

では、ASPサービスに将来はないのであろうか? これはちょっと早計な結論と言える。実際、ソフトウェアを商品として売るのではなく、サービスとして提供するというのは、大きな時代の流れである。そういう意味からすると、ASPサービスは今後とも広がっていくものと考えられる。

ただ、ASPサービスを提供する企業が、今までのようにベンチャー企業で、かつ、自前のデータセンターを構築し、他社ソフトウェアを購入して運用する(例えば、USinternetworkingがSAPのERPパッケージを購入し、運用する)というパターンは、これからもビジネスとして厳しいだろう。

今後むしろ広がると思われるのは、ソフトウェア会社が自社ソフトウェアをASPサービスとして提供するものである。例えば、OracleやMicrosoftが自社ソフトウェアをASPサービスとして提供するような場合である。実際、これらのソフトウェア会社は、このような形でのソフトウェア提供に積極的である。

さらに、新しい動きとして、ASPサービスを最初から念頭においてソフトウェアを開発し、提供する会社も現れている。たとえば、中小企業向け経理システムを提供するNetLedger.comなどは、月々10ドル弱という安価なASPサービスを提供し、すでに3,000のユーザーを確保している。

インターネット、e-ビジネスの世界では、この1年、大きな変化が起こっている。ASPの世界も例外ではない。ベンチャー企業として多額の出資を受け、データセンターを構築し、高価な他社ソフトウェアをASPサービスとして提供するというビジネスモデルは大きな曲がり角に来ている。しかし、ASPサービスそのものは、形を変えながら、また多少時間をかけながら、今後とも発展していくであろう。

  黒田 豊

(2001年4月)

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