Linuxその後
Linux については、昨年秋に Linux Worldがサンノゼ・コンベンション・センターで開催されたときにレポートしたのを記憶している。その頃はLinuxが市場でかなり注目され、Linuxの商用版を提供しているRed
Hat社が株式上場して間もないころであった。世の中はかなりLinuxブームといってもいいような状況であった。そして、私もレポートの中で、Linuxがメーカーにとっても、ユーザーにとっても無視できないところまで来たと述べた。
昨年のその頃は、Linuxがこれからぐっと伸びてくるか、それともそのときをピークにブームが去っていくのか、ちょうどその分かれ目のようなタイミングであった。従って、私のコメントも、「Linuxの現状を考えると、今のところ本流のソフトウェアとなるかどうかは、これからの市場の動きを見て判断していく必要がある。ユーザー企業は、しばらくこの“様子見”戦術で十分であろう。」となっている。
さて、そのLinuxの最近の状況はどのようなものであろうか。私のみるところ、世の中のLinuxに対する見方は、ここ半年でかなり変って来ている。Linuxファンの方々には残念な話だが、昨年秋に感じられたLinuxの勢い(momentum)は今はもうない。
市場調査会社のIDCによると、1999年のサーバー市場でのオペレーティング・システム(OS)の市場シェアでは、Linuxが大きく伸び、WindowsNTについで2位の24.6%に達している。これだけを見ると、まだまだLinuxは勢いを増すばかりという感じがする。しかし、サーバー市場というのは、Webサーバーが多く、ここではOSの上に乗るWebサーバーにしても、Apacheという無料のものがかなりの市場シェアを依然保っているような市場であり、一般ビジネス市場とは違った、やや特殊な市場となっている。
この市場においては、Linuxの信頼性の高さ、他のOSに比べると格段に安価なことなどが理由で、これからも使われるであろうし、市場シェアもまだ伸びていく可能性が十分ある。この市場では、Linux上で動くアプリケーション・ソフトウェアがそれほど充実していなくても、大きな問題とはならないことも幸いしている。
問題は、一般のビジネス市場である。この分野に深く入り込めないと、Linuxは所詮いくつかあるニッチのOSとしてしか市場に残れないことになる。最近のLinuxの様子を見る限り、残念ながら、こちらの方向に進んでいるといえる。昨秋のLinux
Worldでも、このビジネスショーに来ていたのは、ソフトウェア・エンジニアのような人達が中心で、ソフトウェアの購買に発言権のあるビジネスマンのような人達の姿はほとんどなかったが、このままLinuxの勢いがなくなってくると、いよいよビジネス関連分野の人達はLinuxを考慮の対象にすらしなくなってしまう気がする。
では、何故このようにLinuxは勢いを失ってしまったのだろうか。前回のレポートで、私はLinux が本流のソフトウェアとなり、マイクロソフトの脅威となるためには、Linuxに互換性のない異なるバージョンが複数メーカーから出現しないということをその条件の一つとして挙げた。Linux
が本格的に使われるためには、単に無料であるだけではだめで、何か問題が起こったときのためのサポート等が必要となる。このようなLinux ユーザーの要求に答えるべく、Red
Hatなど複数の企業がサポートを含むLinuxの商用版の販売に踏み切った。これは多少のお金はかかるものの、サポートが得られるという大きな安心が買えるという意味で、Linux市場の拡大に貢献するものであった。そのため、これらLinuxを提供する企業は次々と株式上場し、その株価も一時は上場時の何倍にも上昇した。
しかし、この複数企業によるLinuxの販売は、残念ながらLinuxをUnixと同様、異なるバージョンのLinuxを作るはめとなってしまった。具体的にどこまで互換性が取れなくなってきているかは不明だが、少なくとも全く同じLinuxが複数のメーカーから提供されているのではなく、機能的にも多少異なっていることは間違いない。こうなると、まだLinuxを使っていない企業等が、その使用を躊躇するのは当然であろう。
また、Linuxが広がる別の条件の一つとしてあげた、「続々とLinux上で動くアプリケーション・ソフトウェアが開発され、出荷される」という点も、十分起こっているとは言えない。そもそもがホットだった昨年のLinux
Worldの時でも、色々なソフトウェアが紹介されてはいたものの、ベータ版でまだ出荷されていないようなものや、出荷されていても、つい数ヶ月以内に出荷を始めたものが多いなど、OSが広まるためのキーとなるアプリケーション・ソフトウェアが出遅れたのもやはり痛かった。
このようなことが重なり、せっかく昨年おこったLinux旋風も、その勢いを維持できないまま、多くの人々の間から忘れ去られようとしている。実際、株価上場を果たしたLinuxを販売する数社も、株価の一時の高値から大きくその値を下げている。たとえば、Red Hatは、一時150ドルを越えるまで上がっていたが、今は40ドル前後と、ピーク時の4分の1近くまで下がっている。
しかし、Linuxに関する状況がすべて否定的というわけではない。前出のIDCの調査結果にもあるとおり、少なくともサーバー市場では、大きく伸びてきており、今後もその伸びが期待される。また、パソコン大手のIBMやDellなどが、Linuxを組みこんだ製品を発売するなど、期待できる面もある。もしIBMやDellなどが、今後ともLinuxを積極的に勧めていくようなら、まだ失地回復の望みはあると言えよう。ただ、もし彼らまでもがLinuxを見限るようなら、残念ながらLinuxはニッチ製品の一つで終わることになるだろう。
黒田 豊
(2000年4月)
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