アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)
アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)の話題が昨今ホットである。ASPとは、ご存知の方も多いかもしれないが、簡単にいうと、企業のアプリケーション・システムをその企業に代わって運用し、そのための場所の提供、運用管理などのサービスを提供する企業のことである。そして、ASPユーザー企業はそのアプリケーション・システムをインターネット経由で、どこからでも使えるというのが一般的である。
米国でもASPというもの、そして、ASPという言葉が広まったのは、比較的最近のことである。ASPとしてスタートしたベンチャー企業などは、まだ数年の歴史しかないところが多い。しかし米国でも急激にASP機運が盛り上がってきたため、昨年5月には25社が参加して、ASPインダストリー・コンソーシアムが設立された。その後、数多くの企業が参加し、その数は今年3月末ですでに400を越えている。
米国から日本に伝わるのもには、伝わるのに時間がかかるものと、比較的早く伝わるものがあるが、ASPについては、かなり早く日本に伝わったものの一つである。日本へASPが伝わった早さは、日本のASPコンソーシアムが米国に遅れることわずかに3ヶ月、昨年の8月に設立されたことにもよく現れている。インターネットによる世の中の大きな変革、e-革命の重大さが伝わるのに2年以上かかったのに比べると、ASPについては、ほとんど同時くらいに伝わっている。これは面白いことであるが、日本に住んでいて、日本の新聞や雑誌の論調、また、日本企業の人達同志の会話をもとに色々なことを判断すると、米国にいる人間から見ると、随分ゆがんだ感じになっているということを、再度認識するよい機会でもある。
さて、これだけ騒がれているASPであるが、現実的にどこまで活用されているのであろうか。調査会社による数字を見ると、調査会社によって、その数字が大きく異なる。1999年で、ある調査会社は$150million(約160億円)とみており、別な調査会社は$5billion(約5300億円)とみている。何と30倍もの違いである。これはASPの定義の決め方の違いによるものであろうが、いわゆるインターネットを使った本当の意味でのASP市場は、おそらくこの小さいほうの数字、つまり、約160億円程度であると考えるのが、妥当である。これは、今年はじめに、まだASPのお客が30しかないOracleがトップ企業を名乗っていたことからもそのように考えられる。また、ASPベンチャーのトップ企業であるUSinternetworkingの売上の数字を見ても、市場規模が160億円程度というほうが、数字が見合っている。
ASP市場はまだそれほど大きくないが、だからといって将来性がないというわけではもちろんない。これは、特に日本に早く伝わるものについては、注意を要する。一般に日本の方々は、米国から何か新しい話が入ってくると、もう既に米国ではかなり進んでいるのだろうと思いがちである。実際、そのような場合も多いわけであるが、ASPのように日本に伝わる早さが早いものについては、まだ米国でもはじまったばかりということがある。そのようなときに米国の状況を知り、あまり市場も大きくなく、まだ発展していないのを見て、あまり大したものではないと考えるのは、早計である。市場規模こそまだまだ立ち上がったばかりの市場であるが、ASPとしてサービスをはじめている企業、また、ユーザーの意見などを聞くと、ASPの将来性は十分大きいといえる。
ASP市場に参入している企業を見ても、ASP専業のベンチャー企業に加え、大手ソフトウェア会社、システム・インテグレーター、それにインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)などが名前を連ねている。提供しているアプリケーションも、e-コマース、Enterprise Resource
Planning(ERP)、カスタム・ソフトウェア、eメール、それにマイクロソフトのOffice2000のようなソフトウェアなど、多彩である。
ユーザーにとっても、システムへの初期投資の大幅削減(特にERPなど)、情報システムの運用管理にかかる費用の削減、スキルを持つ人材の不足への対応、インターネット経由によりどこからでもアプリケーションがアクセス可能になるなど、多くのメリットを持っている。これらのメリットは、大きな初期投資ができない、また、情報システムに関する人材が不足している中小企業ユーザーに、特に便利である。米国でも、このため、ASPユーザーには中小企業ユーザーが多い。なかでも、新たに会社を起こすベンチャー企業は、一刻も早くビジネスを立ち上げる必要があるので、ASPのサービスを重宝している。
このように色々なメリットのあるASPであるが、問題もある。まずASPサービスとして求められるものは、かなり多い。ASPとしてサービスするアプリケーションに関する知識や経験が豊富であることは勿論、それ以外にも、沢山の要件を満たさなければならない。例えば、顧客企業の重要なデータを預かり、アプリケーションを運用するのであるから、そのシステムは高い信頼性を持っている必要がある。このなかにはシステムがダウンしないということのほかに、セキュリティが万全である必要もある。また、システムだけでなく、ネットワークの信頼性、スピード、セキュリティなども極めて重要である。これらすべてを準備することは、容易なことではない。ASPをサービスする側としてもかなりの投資を必要とする。
そこで、現在のところ、ASP各企業はそれぞれの特徴、強みを生かし、残りの機能については、パートナーシップによって補完するという方法をとっている。ユーザーから見れば,特に一社がすべての機能を持っている必要もなく、パートナーシップによってその機能を果たしてくれればよいわけだが、ASPを選択する場合には、そのASPがどんな会社とパートナーシップを結んでいるか、それぞれがどんなサービスを提供しているか、というところまで調べないと、一体どのようなサービスが受けられるのか分からない場合も出てくる。
また、ユーザー企業としては、いろいろなアプリケーションをASPに頼みたいというニーズがあるが、ASPベンダー側は今のところ、あるアプリケーションに特化している場合が多い。そうなると、ユーザー側は、複数のASPベンダーと契約しなければならなくなり、煩雑である。ASPサービスそのものがまだはじまったばかりなので、今のところ大きな問題とはなっていないが、これから次第に問題となってくるであろう。
ASPは、ユーザーにメリットが大きいことから、これからどんどん発展していくであろう。しかし、色々な問題も待ちうけており、今後ASPベンダー間の企業買収、合併など、業界が再編されながら発展していくことであろう。ASP市場は、まだまだはじまったばかりである。
黒田 豊
(2000年6月)
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