COMDEX '95
コンピューター関連の仕事をされている方々ならよくご存じの事と思うが、毎年11月に米国ラスベガスでひらかれるコンピューター・ショウのCOMDEX(もともとの正式名はComputer Dealers
Exposition)が今年も華やかに行われた。今回はスケジュールの関係で1日しか見られなかった(COMDEXに行った事のある方ならおわかりだと思うが、このショウは極めて大規模で、とても1日では詳しく見てまわれない)ので、各社の出展状況まで詳しくはお話できないが、今年の特徴といったものについて今回は少しみてみたい。
今年の大きな話題はやはりインターネットである。そもそもCOMDEXはコンピューターのショウであり、ネットワークのショウではない。ネットワークのショウとしてはNETWORLD+INTEROP(以前はNETWORLD、INTEROPという2つのショウだったものが数年前に合併して1つになった)という大きなものが別にあり、それ以外でもインターネットだけのためのInternet
Worldというショウをはじめ、大小さまざまなものがある。にもかかわらず、今回のCOMDEXではインターネットが大きな話題であった事は、いかにインターネットが今後のコンピューター業界に大きな影響を及ぼすかを端的に表している。
私がCOMDEXを訪れたのは、たまたまMicrosoft社のBill Gates会長が基調講演を行った日であった。日本ではWindows95が発売直前という事でMicrosoftといえばWindows95というのが現在の最大の話題かもしれないが、米国ではもうWindows95が発売されてから数カ月がたっているので、注目はむしろ"What's next
?"である。そこで、Gates会長が基調講演で話したのはMicrosoftが指向する未来のオフィスである。
未来のオフィスであるから音声認識、自然言語処理、等さまざまな技術が含まれていたが、注目すべきなのはGates会長が強調していたネットワークの重要性、なかでもインターネットの重要性である。ビデオをおりまぜた約1時間の講演の中でGates会長は何度もインターネットという言葉を口にした。おそらく10回以上は口にしたのではなかろうか。
話は少しわきにそれるが、Gates会長がインターネットに注目しはじめたのはつい半年ほど前からである。それまでのMicrosoft社はインターネットはあまり眼中になく、むしろ自社のすすめるオンライン・サービス(日本でいうパソコン通信)であるMicrosoft Networkを強調していた。それがこの春頃から一変した。これは先日Wall Street
Journal紙に掲載されたGates会長からMicrosoft社の管理職宛にくばられた今年5月26日付レターを見てもよくわかる。この“インターネットの津波”と題する社内レターの中でGates会長は、インターネットが現在のMicrosoft社のすべてのビジネスにとって最重要課題であると強調し、インターネットが1981年のIBM
PCの発表以来最も重要な出来事であると述べている。
さらにここに来て、データベース・ソフトウェア大手のOracle社やワークステーション大手のSun
Microsystems社が、あいついで低価格のインターネット・ターミナル構想を発表し、この中でMicrosoft社とIntel社による市場支配の構造が大きく変わると主張し(これに関しては賛否両論あり、特に主流となっているわけではないが)Microsoft社はむしろ守勢、他社を追う立場に立たされているのである。
Gates会長は講演の中でまた、リアルタイム・ビデオ等の広帯域(高速)ネットワークを必要とするものは、もうしばらく先の将来の事であり(私が9、10月のこのコラムで書いた事と同じ)現在の狭帯域(低速)ネットワークは次第に進化してまずISDN等の中帯域(中速)ネットワークが中心となると述べている。この中帯域ネットワークではビデオ・オン・ディマンド等のリアルタイム・ビデオ・アプリケーションは出来ないが、インターネットが最も有効に使える領域である。Gates会長がインターネットの重要性を強調するゆえんである。
インターネットを強調していたのはMicrosoft社だけではない。現在のパソコン市場を支配するもう一方の雄、パソコンのチップ市場を牛耳るIntel社もインターネットを全面に出していた。Intel社といえばチップのメーカーであるから、いつもならそのチップの速さを強調するプレゼンテーションが普通である。ところが今年のテーマは"Connecting our
World"、そしてプレゼンテーションはインターネットによる人と人とのつながりである。インターネットによって人々は単に参加(participate)するだけでなく、対話(communicate)し、さらには創造(create)する事ができると訴えている。
この2社に限らず、ほとんどのパソコンやワークステーション・メーカーがインターネット・ソリューションを前面に出していた。まさにインターネットがこれから大きく世の中を変えていく事を証明しているような感である。
これに比べ、どこのメーカーを見ても1-2年前に騒がれていたビデオ・オン・ディマンド等の展示はほとんど見られない。Gates会長が述べるまでもなく、米国ではこのような広帯域のネットワークを必要とするリアルタイム・ビデオ・アプリケーションは、まだかなり先の将来であるというのが一致した意見である事がよくわかる。
例外はいくつかの日本および韓国のメーカーである。これらのメーカーのブースではビデオ・オン・ディマンド・システムの紹介があり、逆にインターネットに関連したものがない。情報が速く伝わる今日でも、世の中の動きに関してはまだ時間的なずれが米国と日本や韓国では存在する事が如実に現れている。特にインターネットの市場は大変動きが速く、今春に本格的に動き出したMicrosoftですら、既に出遅れの状態である事を考えると、これは大きな問題であるといえる。インターネットのように"time
to market"が、最も大事な成功の鍵であるものに対し、日本企業のより素早い対応が求められている。
黒田 豊
(1995年12月)
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