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情報通信技術で進化するオリンピック、スポーツ

8月8日、東京オリンピックが閉幕した。コロナ禍のため、無観客での実施、また開始前には開催に反対する人々も少なからずいたようだが、開会後は日本選手の活躍もあり、「やってよかった」という意見が多かったように感じる。私はもともとオリンピックが好きで、いつも楽しみにしており、今回も開催してもらい、アスリート達やそれを見て応援している人たちの姿を見て、たくさんの感動を得たオリンピックとなった。8月24日からはパラリンピックも始まったので、こちらも楽しみにしている。

オリンピック、そしてそれに限らずあらゆるスポーツが、最新の情報通信技術(ICT)の活用で、大きく進化している。スポーツにかかわる技術をSportsTechなどとも呼ぶ。その定義範囲を広くとるか狭く取るかによって、含まれるものは異なるが、広くとると相当広範囲なものとなる。大きくは3つに分類され、その一つはファン向けで、観衆や視聴者を楽しませる技術。スポーツ・コンテンツをいかに視聴者に配信するか、スタジアムに訪れた人たちを含め、どのような分析情報等を提供するか、ファンのためのサービス、さらにはスポーツ賭博なども含まれる。二つ目は、アスリートやコーチのためのもので、競技中、またはその前後でアスリートのパフォーマンスを分析したり、改善するための技術、敵方の分析のための技術なども含まれる。三つ目は、スポーツ・イベントを運営・提供する企業のためのもので、チームやクラブ、スタジアムのマネジメント、スポンサー管理、メディア・プロダクションなどが含まれる。これら三つ以外に、コンピューターゲームでスポーツを楽しむeSports、スポーツ関連グッズを含める場合もある。

その中から、今回はわれわれのスポーツ観戦をより面白くしてくれる技術、そしてアスリートがより高いパフォーマンスを出すために使う技術のいくつかを取り上げてみたい。まず、オリンピック観戦の仕方が、近年大きく変わり、今年はストリーミングによるオリンピック観戦が、大幅に広がった。そもそもテレビ放送では、すべての競技を見ることができない。米国に住んでいる私などは、日本選手の活躍が見たくても、なかなか米国のテレビで見ることが出来ない。特に柔道、卓球、空手など、米国にあまり強い選手がいない種目はテレビで見られることが少ない。これに対し、ストリーミングであれば、これらの競技もすべて見ることができる。しかも、そのすべてが生中継、または見たいときのオンデマンド、どちらでも見ることができる。

オリンピック競技のストリーミングによる視聴は、いまに始まったわけではなく、2008年の北京オリンピックあたりから、ほぼすべての競技が見られるようになった。今年それが特に米国で広がったのは、日本での開催ということで、時差の関係でテレビで夜のプライムタイムに録画されたものを見ると、すでに結果を知ってしまっている場合も多く、面白みが少ない、という点が一つある。また、これまでのストリーミングは、パソコンやスマートフォン向けが主流だったが、今年はストリーミング・デバイスを経由して、大画面のテレビで見る人が多くなったことが大きい。今年を「最初のストリーミング・オリンピック」と称している人もいる。

米国でオリンピック放送を独占しているNBCUから、夜のプライムタイムの視聴率が前回リオ・オリンピックに比べて、かなり低下したとの発表があり、それをもって今回のオリンピックは人気がなかったという人もいるが、これは少々早合点のように思う。実際、ストリーミングを含めた視聴時間では、開会式だけでも、2018年のピョンチャン・オリンピックに比べても279%伸びたとの報告もある。YouTubeでは、4年前のリオ・オリンピックに比べ、7倍の2億時間視聴があったという。NBCUのプラットフォームだけでも、テレビ放送とストリーミング合わせて20億時間の視聴があったと述べており、これは相当大きな数字だ。このような数字をまとめたのは今回が初めてだったので、過去のオリンピックとは、残念ながら比べられないとのことだ。

さて、オリンピック視聴がテレビ放送から、ストリーミングに大きく変化してきたことだけでなく、視聴者に見る楽しみを増やすICTもいろいろ出てきた。例えば、水泳で泳いでいるアスリート、陸上競技で走っているアスリートのリアルタイムの速さが数字で表示され、競り合っているアスリート同士の状況がよく見られたのも、楽しみを増加させた。また、たくさんのカメラを使い、あらゆる角度からアスリートの動きをリプレイ(再生)してみることが出来るもの(Multi-Cam Replay)もよかった。マラソンなどで、先頭からの距離の推定も、これまでのGPSによるものから、さらに精度の高いイメージ・トラッキング・システムが使われていたとのことだ。

バスケットボールでは、会場に35台のカメラを設置し、それらの画像をもとに3次元360°ビデオを見せてくれた。スポーツ・クライミングでは、壁の角度やアスリートの手の位置などが、3次元表示され、登っていく状況を分析的に見ることができた。アーチェリーでは、アスリートの心拍数を、4つのカメラから得られる表情や皮膚の色の変化をもとに推測して表示していたようだ。野球では、投手の投げたときの手の位置と角度、球の速さ、回転数、回転角度、などがすぐにわかる技術が、すでにしばらく前から使われている。打者についても同様に、バットの振りの速度、球の飛ぶ角度、回転数、飛ぶ方向、距離などがわかる。この装置はオランダのメーカーが作ったTrackManというもので、日米の多くのプロ・チームが活用している。

これらのICTは、単に視聴者向けというだけでなく、アスリートが自己分析のため、また監督やコーチがアスリート育成のため、さらには敵方の研究、対策にも利用されるものだ。たとえば、投手の投球状況を分析することにより、どれくらい疲れてきているかなどもわかり、対応策が考えられる。アスリートやコーチ向けの技術としては、ウェアラブル・センサー、カメラからの情報をもとにした画像解析、そして大量に得られるデータを分析するためのAI技術などが主に使われる。センサーから得られる毎秒2000を超えるデータを分析することにより、アスリートのパフォーマンスをあらゆる角度から分析することが可能になる。アスリートやコーチだけでなく、審判にも助けとなる技術もある。テニスで使われているSonyが開発したElectronic Line Callingは、ラインぎりぎりに落ちたボールがインかアウトかの判定に、世界80以上のトーナメントで使われている。

アスリートたちは、トレーニング時の情報を活用するだけでなく、まだ訪れていない会場に慣れるため、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術を使ったりもしている。また、ケガをしないためのフォーム修正、メンタルケア、体調管理のためのデータ収集と分析など、競技そのもの以外でも、情報通信技術の活用で、さらなるパフォーマンス向上を目指している。屋外競技では、詳細な気象予測をもとに、最良の戦術を立てることも行われている。

ただ、このようなSportsTechの発展には、メリットばかりとは言い切れない面もある。それは、アスリートによって、このような技術を使える環境にある人と、そうでない人の格差の問題だ。費用的にこのような技術を使えない人もいるだろうし、その人がトレーニングしている国や地域では、そのような技術を使う場所がない、ということもある。どこまでがフェアプレイか、難しいところだ。実際、競技に使うシューズやウェアによってよりよい記録が出てしまう場合もあり、これは「technological doping」などとも言われ、物によってはオリンピックを含む国際競技会での使用が禁止されている。2008年北京オリンピックで使われたSpeedo社の水着を着たアスリートが次々に記録を塗り替え、その後その水着は国際水泳連盟により使用禁止になった。Nike社のVaporflyというシューズも、東京オリンピックでは使用禁止になっている。

SportTech、特にアスリート向けのものは、いまのところほとんどオリンピック選手やプロ選手がユーザーの中心となっているが、その技術は一般のスポーツ好きの人たちが使って、そのスポーツがうまくなり、より楽しむことができる技術でもある。今後これらSportTech製品の利用が広まれば、価格も下がり、一般の人たちにも多く使われるようになるだろう。私はスポーツをすることも、見ることも好きなので、SportTechの将来の発展が楽しみだ。

  黒田 豊


(2021年9月)

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