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今年のCESは、初めてのオンライン開催

毎年1月初めに米国ラスベガスで行われる、家電や情報機器の祭典CES。今年はコロナ禍のため、初めてのオンライン開催となった。主催者の話によると、出展社数は、昨年の約4,400社からかなり減って約1900社。参加者も昨年の約17万人よりやや減って、15万人前後だったようだ。出展社数がかなり減ったのは、多くの参加者が使いやすいようなシステムにするため、2,000社程度までに制限したためとも言われている。ラスベガス市は、昨年のCESの経済効果が2.9億ドル(約300億円)ほどだったとのことで、それが今年は消えてしまったことになる。

海外など、ラスベガスに来るために、多額の費用と多くの時間を必要とする人達にとっては、むしろ参加しやすいイベントになったことだろう。展示企業側も、最低料金$1,200からと、通常ラスベガスでの展示に参加するより、かなり安価に参加できた。私の場合、CESにはサンノゼから早朝の飛行機に乗り、現地に着いて一日中会場をめぐり、夜の便で帰ってくる、というのがこれまで多かったが、今年はオンライン開催のため、朝5時に起きる必要もなく、ラスベガスを往復する時間が節約できたのはよかった。足を棒にして何万歩も歩く必要もない。開催期間は1月11―14日だが、その後も多くのコンテンツが2月15日まで見られるので、ゆっくり時間をかけてみることも出来る。

このように、オンライン開催ならではのメリットも多々あるが、はたしていつもと同じように、CESで得たいことが得られたかと聞かれれば、私の場合、残念ながら十分に得られたとは言えない。これは、CESに何を目的に行くか、CESでどのように時間を過ごすかによっても、意見が分かれるところだろう。たとえば、ある特定のいくつかの会社のブースに行き、そこの人たちと話をする、ということが目的であれば、それはオンライン開催の今年でも、かなり可能だったと思う。実際、主催者側も、そのようなことができる仕組みを作り、出展企業の人とのミーティングのセットアップや、質問のためのチャットなどもできるようにしていた。

一方、私の場合、CES参加の目的は、全体としてどんなものがホットかを見ること、また、会場を歩きまわる中で面白そうなものを見つけ、そこでいろいろ質問してどんなものかを知る、またその人たちが狙っている市場について、どのように見ているかを聞いたりすることなどだ。今回のオンライン開催の場合、これらを行うことは、残念ながら簡単ではなかった。むしろ出来なかった、というほうが正しい。

昨年までだと、たとえばCESのメイン会場では、どんな会社が大きなブースを構えているか、そこにどんなものを中心に展示しているか、どれくらいの人がそこに集まっているか等を見ることができた。特定の会社が特別なイベントを催しているのも見て取れた。以前Googleが特設会場を作り、大勢の人を集めていたことが記憶に残っている。また、ここ数年は、急に自動車メーカーの出展が目につくようになり、それも数年前は自動運転技術を中心に展示していたものが、最近は車内でのエンターテイメントなどに力が入ってきていることも、会場をざっと歩くだけで見て取れた。

今回はオンライン開催のため、会場をざっと歩き回って、全体の印象を得ることは難しかった。また、昨年まではヘルスケアとか、ゲーム・エンターテイメントなど、テーマごとに出展社を集めているところがあり、そこに行けば、その分野にどんな会社が出展しているか、どんなものがホットかが、歩いて回るだけで見て取れた。今回の場合、出展社のリストはあり、あるキーワードで関連する出展社を見つけることは出来るが、たとえば「ヘルスケア」と入れて検索すると、出展社数121と出て来て、そのリストには会社名しか出ていない。しかも12社づつしか画面に出て来ないので、会社名を見るだけでも、何回もスクロールしないといけない。そして、簡単にどんなものを出展しているか見るにも、いちいちそれぞれの会社の展示コンテンツに入っていかないとわからない。いやはやそんなことをしていたら、何日あっても、全体を見ることは出来ない。

さて、そんな中で、会社のCEOによるキーノート・スピーチやパネル・ディスカッション、いくつかの会社の出展を見た範囲で、私の気が付いた点、目にとまったものをご紹介したい。まず全体として、昨年来のコロナ禍で世の中が大変な中、テクノロジーの重要性が強く認識され、すでに進んでいたDigital Transformationが大きく加速した、という意見が多くの人から聞かれた。また、何人かからは、昨年はコロナ禍に加え、米国では、人種問題や不平等問題の、もう一つのパンデミックが起こった、という話もあったのが印象的だった。

技術的な面では、やはりコロナ禍の影響もあり、クラウド利用の拡大、AIによるデータ分析の重要性、そして、リモートでも現実感のあるImmersiveな(実体験のように感じる)体験、というあたりがホットだったように感じた。Immersiveという言葉は、2年前のCESのレポートでも書いたが、そのころから広がってきている言葉で、そのときは自動車メーカー各社がよく使っていたが、今年はさらにSonyもImmersive Mediaというように使っていた。通信サービス大手のVerizonはキーノート・スピーチで、最新の5G無線通信アプリケーションについて多く語っていたが、その中でもImmersive Learningとか、Immersive Art Experienceとうたっていた。Immersiveが、これからの一つのキーワードになっていると言える。

もう一つ、私の目にとまったのは、メルセデス・ベンツのプレゼンテーションだ。CESだから、ということもあるが、車の性能やスタイリングなどの話ではなく、いかにITが使われているかを誇示したものだった。具体的には、MBUSハイパー・スクリーンという、ドライバーの前の表示装置による、人との対話インタフェースについての話が中心だ。しかも聞いていると、CPUの能力やRAMの記憶容量の話などもあり、もし途中から聞いていたら、IT企業のプレゼンテーションにしか聞こえないような内容だったのが、印象的だった。自動車メーカーでは、この他、米国GMが自動運転や電気自動車、空飛ぶ自動車など幅広い内容を、キーノートスピーチで行っていたが、トヨタやホンダ、Fordなどは、今回は目立った出展がなかったようだ。

コロナ禍ということで、コロナ対策的な出展もいくつか見られ、メディアにも取り上げられていた。すでにCES前から話題になっていた、紫外線(UV)による消毒器具など、対策に有効なものも見られたが、呼吸状況を分析するマスクや、マスクをしたままスマートフォンで通話ができる製品などは、本当に買いたくなるものかという点で、少々疑問が残るものだった。殺菌・消毒以外では、顔認証や手を動かして機器を操作するなど、タッチレスをキーワードに、コロナ対策用品ということで、製品が出展されていた。

日本企業では、NTTが将来システムであるIOWNについての説明を中心にし、まだ実験段階ながら実用例をデモしていたのは、将来が楽しみな感じがした。日本企業にありがちな、100%満足のいくものができるまで時間をかけるのではなく、早く市場に出して、評価してもらうことを期待したい。また、J-Startupという出展では、JETROとともに、日本のスタートアップ14社が出展していたが、ばらばらの出展ではなく、14社それぞれ1分ほどの紹介をまとめたビデオを、一度に短時間で全部みることができ、とてもよかった。内容的にも、いつくか興味深いものがあり、CESを機に世界市場にビジネス展開が進むことを期待したい。

さて、このようなオンライン開催となった今年のCESだが、来年以降、コロナ禍が去った後のCESはどのようなものになるか、ということも話題になっている。私の個人的な意見としては、やはりCESはオンラインだけではなく、実際会場を歩き回って全体の様子をつかみ、面白いものを見つけられるような、従来の形が望ましいと思う。ただ、遠方から来れない人のため、また私も1日で大きな会場の4,400にも上る出展者全部を見て回ることはできないので、一部は今回のようにオンラインも併用され、しかもオンライン部分は2月中旬まで見ることができる、というハイブリッド型になることを期待したい。以前のコラムでも書いたように、今回のコロナ禍で、リモートワークなど、新しいやり方が広がり、そのメリット・デメリットがわかってきた。CESを含め、多くのことが、コロナ後はハイブリッドになる、と考えるのが自然だろう。

  黒田 豊


(2021年2月)

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