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活況続く米国ベンチャー(スタートアップ)企業の株式上場

今年は米国でベンチャー(スタートアップ)企業の株式上場(IPO: Initial Public Offering)がホットだ。こう書くと、車のライドシェアで有名なUberとLyftが今年上場したが、その後株価が低迷しているのを知っている人は、「そうでもないんじゃないか」と思われるかもしれない。まず先に3月にIPOしたLyftは、上場初日、上場価格の$72を8.7%上回って終了したが、2日目から下がりだし、8月30日現在$48.97と、上場値より32%以上低い。続いて5月に上場し、今年最大のIPOとなったUberは、上場時の価格を予定よりやや低めの$45に設定したが、初日から人気が出ず、終値は上場価格より7.6%低かった。その後も低迷し、8月30日現在$32.57と、上場値より27%以上低い値だ。

この2社だけを見ると、確かに今年は大型IPOはあるものの、あまりいい結果が出ておらず、活況とは言い難いのではないか、と思えるかもしれない。しかし、それ以外の大型IPOを見ると、上場後値を大きく上げている会社も少なくない。たとえば、ここ数年ビデオ・カンファレンス市場で大きく成長したZoomは4月に上場したが、8月30日現在、株価は上場値$36から2.55倍の$91.67に上昇している。他にもビジネス上の問題が発生したとき、即座に対応するクラウド・サービス・プラットフォームを提供するPagerDutyは、4月に$24で上場し、8月30日現在、64%アップの$39.27だ。ハイテク分野以外でも、5月に上場した植物性の代替肉で話題のBeyond Meatは$25の上場値に対し、初日の終値が$65.75(2.63倍)と大きく跳ねかがった。8月30日現在は$167.63と、上場値の6.71倍になっている。これ以外でも多くの新規上場会社の株価が、株式市場全体より大きく値を上げている。

なぜ今年、このように大型IPOがたくさん続き、IPO市場が活況を呈しているのだろうか。理由はいくつか考えられる。そもそも、これまでの何年か、会社としては上場してもよさそうなスタートアップ企業が、なかなか上場しようとしなかった。それは、世の中に投資資金が十分にあり、株式上場しなくても、投資ラウンドを繰り返すことにより、資金調達が容易だったことが挙げられる。その結果、株式上場前にもかかわらず、企業価値が10億ドルを超える、ユニコーンと呼ばれる企業がたくさん出てきた。その数は世界で300以上(中には500近くと言っているところもある)、米国だけでも150前後存在する。ちなみに、日本では3社しかないと言われている。

IPOの目的は、会社をさらに成長させるための資金調達という面が強いが、投資資金が潤沢な世の中の状況から、特にIPOは必要なかった、ということだ。しかし、追加資金が必要なくても、株式上場する理由は、いくつかある。一つは、スタートアップ企業に投資したベンチャー・キャピタルなどが、資金回収のために企業に上場を求める場合だ。ベンチャー・キャピタル会社は、外部から資金を集め、それをスタートアップ企業に投資して、成功した場合にその利益を出資会社に配分する仕組みだが、彼らが構築するファンドは、通常10年程度の期限がある。したがって、その期限までに資金を回収する必要がある。そのためには、会社に株式上場してもらい、株を売却するのが一番の方法だ。そのため、投資した企業に株式上場を促すことになる。

スタートアップ企業に投資したベンチャー・キャピタルなど以外にも、持っている株式を換金したいと思っている人たちがいる。それは、会社のオーナーを含む、株式を持っている社員たちだ。米国のスタートアップ企業では、最初資金が十分でないこともあり、低い給料で長時間働く場合も少なくない。そんな会社に優秀な人材を集めるためにあるのが、会社の株式の提供だ。日本のスタートアップ企業では、ごく一部の人たちにしか株式を提供しない会社も少なくないようだが、米国では、秘書にいたるまで、ほとんどの人たちが株式をもらって、スタートアップ企業で働く。そして、彼らの楽しみは、その会社が成功したら、持っている株式を売却し、大金を得ることだ。この社員たちの希望を叶えるためにも、会社の株式上場は必要と言える。

これらの理由に加え、売上は伸びているものの、赤字が続いている会社では、そろそろ投資による資金調達が難しくなり、株式上場が必要になってきている会社もあるかもしれない。また、米国の景気は長い間、好調を続けているが、米中摩擦などもあり、そろそろ陰りが出てくるのではないか、という不安もある。そんな不安が現実化しないうちに上場しておこう、と思う会社もあるようだ。さらに、資金調達目的ではなく、自社の知名度向上、ブランド力アップのために上場する、という会社もある。実際、さきに述べたZoomは、社長がIPOの目的はブランド力アップだったと述べている。

このように、資金調達が目的ではなく、投資してくれたベンチャー・キャピタルや社員が株式を換金できるように、また会社のブランド力をアップするためには、通常のIPOではなく、Direct Listing(またはDPO: Direct Public Offering)という形をとる会社も出てきている。通常のIPOでは、幹事会社が存在し、その会社がIPO時に追加発行する株式の買手を見つけ、上場価格を決める。そのため、スタートアップ企業にとって、買手候補への企業説明や、幹事会社への大きな手数料などの負担が発生する。また、株式上場から通常半年は、持っている株を売れない、という条件が付く。

これに対し、DPOでは、株式上場時に新たな株を発行しない。そのため、追加の資金調達は出来ないが、株式上場直後からベンチャー・キャピタルなどの出資者や社員も株を売却できる。このメリットは見逃せない。実際にDPOを行った会社としては、昨年4月にインターネット音楽配信大手のSpotifyがある。証券取引所がリファレンス価格として提示した$132より高い$165.90で取引が開始され、8月30日現在の価格は$134.95となっている。今年は、さらに企業向けコラボレーション・ツールで急成長しているSlack Technologiesが、この6月に同じ方法で株式上場した。リファレンス価格は$26、初日$38.62でクローズ。8月30日現在は$28.64の値を付けている。DPOには上に書いたようなメリットもあるが、追加資金調達が出来ないし、新たな出資者も募集しないので、DPOが成功するためには、すでに会社の知名度が高く、活発な株取引が行われることが必要条件だ。

今年はすでにいくつもの大型株式上場があったが、まだ年内に控えている大型案件もある。一つはコーワーキング・シェアオフィスで大きく成長しているWeWork(現在の会社名はWe Company)がある。Uberが、成長しているものの大きな赤字を出しながらの株式上場だったのと同じように、Weも売上が昨年比約2倍の15億4000ドル(今年前半)と大きく成長しているものの、同じ時期の損失は9億ドルを超え、さらにWeのビジネスプランでいくと、Wall Street Journal紙の予想では、2026年までは黒字にもならないという。また、創業者Nuemann CEOと会社の利益相反の問題も出てきており、何やら不穏な面も出ている。もう1社、大型株式上場の可能性があるのが、家のシェアリングで有名なAirbnbだ。ただし、まだIPOを発表していないので、年内はないかもしれない。

UberにしてもWeWorkにしても、大きな赤字を出しながらも急成長を続けている。そして、これからも、もうしばらくはその状況が続きそうだ。このような状況をサポートしているは、世の中全体の豊富な投資資金、そしてソフトバンクが立ち上げ、すでに700億ドルを投資しているビジョン・ファンドなどの大型ファンドだ。ソフトバンクは1060億ドルのビジョン・ファンド第二弾をすでに発表し、これにはMicrosoftやAppleも出資しているという。ちなみにソフトバンクは、このコラムに書いた、Uber、Slack、WeWorkいづれにも大型の投資を行っている。

インターネットが始まった頃、多くのインターネット関連企業が立ち上がり、株式上場して一時株式市場をにぎわせたが、バブルがはじけ、多くの企業は消えてなくなり、投資されたお金も消えていった。その一方、何年も赤字を続けながら成長を続けたAmazonは、いまや時価総額で世界のトップを争っている。いま大型投資を受け、株式上場でさらに資金を集め、赤字を出し続けながら成長を続けている企業をどのようにみるか。株式上場された会社の株は、一般の誰でも購入できる。今年株式上場した会社のどれが将来のAmazonか、どれが消えていく会社か。個人個人も投資のための目をよく見開く必要がある。

  黒田 豊


(2019年9月)

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