ヘッダーイメージ 本文へジャンプ

GAFAを超えるMicrosoft

いまやIT業界の主役といえば、ご存知GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)だ。昨年のこのコラムでも、会社の時価総額の話を書いたが、時価総額はAppleがずっと首位を維持し、とうとう1兆ドルを超えた、というのが昨年8月だ。するとその翌月、今度はAmazonも1兆ドルを超え、このコラムにもそのことについて書いた。その2社をGoogleの親会社Alphabetが虎視眈々と次の1兆ドル企業を狙う。Microsoftはほとんど忘れられた存在のようだった。

1980年代、パソコン全盛の頃は、ソフトウェアは MicrosoftのWindows、チップはIntelと、Wintel(Windows+Intel)が、それまでの大型コンピューター全盛時代のIBMから、IT業界の主役に取って代わった。MicrosoftはOSのWindowsだけでなく、Microsoft OfficeとしてWord、PowerPoint、Excelが企業、そして個人に浸透し、パソコン時代の大成功に導いた。

ところが1990年代中頃からはじまったインターネットの大きな流れ、そしてスマートフォンの出現で、Microsoftの牙城は大きく崩れた。時代の流れを読み違えたのだ。インターネットに関しては、初期の頃、明らかにその重要性を認識していなかったことが、当時社長のBill Gatesの発言からもよくわかる。そのため、Googleを巨大企業にのし上げたサーチや、Facebookをユーザー数23億以上にしたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にも、Microsoftはほとんど見る影がない。

また、Appleを長年時価総額トップ企業にしたスマートフォンについても、大きく出遅れた。その後2013年、フィンランドのNokiaのスマートフォン部門を76億ドルで買収し、Microsoft Mobileとして2014年からスマートフォン市場に参入したが、残念ながらいまは見る影もない。Nokiaと言えば、一時携帯電話市場の41%を握るトップ企業だったが、スマートフォンではAppleなどに遅れ、Microsoftをもってしても、スマートフォン市場で成功することは出来なかった。

そんなMicrosoftが、AppleやAmazonの株価が下落する中、時価総額1兆ドルを超え、トップに立ったのだ。7月3日現在Microsoftの時価総額は約1.05兆ドル、2位Amazonは約0.95兆ドル、3位Appleは約0.94兆ドル、プライバシーや情報流出問題で厳しい状況のGoogleの親会社Alphabetは約0.78兆ドル、FacebookはMicrosoftの約半分強の約0.56兆ドルだ。インターネットの重要性を見損ない、スマートフォンの波にも乗り遅れたMicrosoftが、一体どうやって時価総額で1兆ドルを超え、AppleなどGAFAを抜いてトップに立つことになったのだろうか? 

それは、2014年からトップをまかされた、Nadella社長によるMicrosoftの大きな戦略転換による。大きな転換は、クラウド・サービスMicrosoft Azureへの集中的な戦略投資だ。ITインフラとしてのクラウド・サービスだけでなく、Microsoft Officeなども、パソコンでのソフトウェア利用から、クラウドからのサービスへと変更している。そして、Nokiaから買収したスマートフォン事業はあきらめ、Windows依存も大きく後退させた。スマートフォン事業では、2015年に7,800人の人員削減を行ったという。Windowsはいまでも売上の17%以上を稼ぐ大事な収入源であるが、そこへの資源投入は、大きく後退させた。Nadellaが社長になったときは、人材の90%近くがWindowsとそれに関連するビジネスにかかわっていたとのことだが、これを一気に変更した。

まず、社長になって最初の社員へのEメールは、1000語にも及ぶものだったが、その中にWindowsという文字はなかった。そして、2018年には、とうとうWindows部門を解体してしまい、クラウドのAzureグループと、Office系のグループに組み込んでしまった。Nadella社長になってから、Microsoftはクラウド一辺倒と言ってもいいほど、クラウド・ビジネスを主力に据えた。とはいえ、その当時からAmazonはクラウド・ビジネスで46億ドルの売上を擁し、業界をリードしていた。他にもGoogleやIBMなどが、クラウド・ビジネスに力を入れており、決して楽にビジネスができる分野ではなかった。それでもMicrosoftはAzureのクラウド・ビジネスをじわじわと成長させ、2017年には市場シェアが14%、2018年には17%まで伸ばした。トップを行くAmazonはシェア32%を維持しているが、3位のGoogleは8.5%と、Microsoftに大きく抜かれた格好だ。

MicrosoftはAmazonに比べて、一つ大きな優位点を持っていると、自身でも主張している。それは、Microsoftがクラウド・ビジネスAzureのユーザーに対し、中立でいられることだ。これに対し、Amazonはユーザーの競合になり得る要素を持っている。たとえば小売。Amazonはありとあらゆるものをインターネット上で販売している。小売業界の会社にとって、Amazonは最大の競合企業だ。そんな会社のクラウド・サービスを使うかと言えば、おそらく答えはNOだろう。実際、Microsoftは米国大手小売業企業のWalmart、Albertson、GAP、Kroger、Wallgreensなどとクラウド・サービス契約を結んでいる。

小売以外にも、Amazonはテレビ番組等のインターネット・ビデオ配信市場に参入し、トップを行くNetflixなどと競合している。さらに、荷物配達分野で、Amazonは運輸業界とは、ユーザーであるとともに競合状況にもあり、今後それはドローンによる配送などで、さらに加速するとみられる。そうなると、インターネット・ビデオ配信業界や、運輸業界もAmazonのクラウド・サービスを使いたくない、ということになる。

Microsoftは創業者Bill Gatesのあと、Nadella社長の前に社長だったSteve Ballmerが、スマートフォン市場参入のためにNokiaのスマートフォン部門を買収するなど、AppleやGoogleなどと同じようなことをやろうとした傾向があるが、残念ながら成功しなかった。これに対し、Nadella社長は、他社の戦略を追いかけるのではなく、Microsoftが創業以来重視してきた「企業の縁の下の力持ち」的なビジネスに回帰している。クラウド・ビジネスだけでなく、たとえば、いま世の中でホットな自動車関連ビジネスでも、自動運転車市場そのものへの参入ではなく、車内で使う音声アシスタント技術をBMW、日産、Volkswagenなどに提供することに成功している。それも、Amazonなどが自社ブランドのAlexaを前面に出しているのに対し、Microsoftは黒子に徹して、自動車メーカーが自分の名前を使った、たとえば「Hey BMW」という声掛けに答えるシステムを構築できるようにしている。

時価総額でトップに立ったMicrosoft。映画スターウォーズのタイトルのように「帝国の逆襲」が起こったという人もいる。しかし、そのMicrosoftに派手さはない。もともと派手なことをして世間を騒がせる企業ではなかった。昔から、AppleのSteve Jobsは製品発表会などで、派手なパーフォーマンスで話題を振りまいていたが、MicrosoftのBill Gatesは、むしろ地味で手堅いビジネスを行い、あまり面白い会社とは言えないが、しっかりと大きな利益を上げる会社だった。

今回も、クラウド・ビジネスに注力し、再び企業の黒子に徹して、見事に復活を遂げた。しかし、クラウド・ビジネスでもまだAmazonに追いつくには距離があり、パソコン時代のWintelのような圧倒的な強さはない。とはいえ、WindowsやOfficeなど過去の遺産も維持しつつ、新たにクラウドを中心にして、Microsoftの堅調なビジネスは、しばらく続きそうだ。

  黒田 豊


(2019年7月)

ご感想をお待ちしています。送り先はここ


戻る

フッターイメージ